
スギHD公式サイトより
愛知県西尾市が、「スギ薬局」で知られるスギホールディングス株式会社(本社:愛知県)の代表取締役会長夫妻に、新型コロナウイルスのワクチン接種の便宜を図った問題に対し、批判が殺到している。
問題が発覚したのは、報道機関に対しての内部告発からだった。5月11日に行われた西尾市の会見によると、4月12日に、会長秘書から健康課保健センターに「西尾市民である会長夫妻のワクチン接種について、4月19日から始まる高齢者入所施設の枠で接種できないか」と電話で依頼があったという。
市側は断ったものの、何度も要請があり、課長、部長が対応。部長が対応する中では、秘書から「夫妻は薬剤師であるので、医療従事者の枠で絡められないか」と言われ、部長が「店舗に出ているんですか?」と聞くと、「出ていません」と答えるやり取りもあったそうだ。なお、医療従事者枠は県で管轄しており、市では管理していないとのこと。
最終的には、副市長の判断で会長夫妻の予約枠を確保するよう指示したという。副市長は「スギHD会長夫妻には、さまざまな形で支援をしてもらっているため、何らかの形でお返しできないかと考えた」と便宜を図った理由を述べている。公正ではないことは理解しており、市長には相談していなかったそうだ。
なお、会長の妻は、スギHD相談役で、西尾市シティプロモーション特命大使でもある。特命大使に関し、西尾市ホームページ上で公開されているファイルによれば、<2016年にはスギ薬局創業40周年を記念し、「育てて頂いた地域の皆さまへの恩返し」として、健康と長寿を願う健康増進施設『西尾市民げんきプラザ』を無償貸与した>と書かれている。
事態が明るみになったことで、副市長は「浅はかだった」「行政に対する市民の信頼を失墜させてしまったことに深くお詫びします」と謝罪。健康福祉部長も担当課は断っていたことを説明し、副市長と自身の責任であることを明言している。
会長夫妻は、5月10日午後から接種予定だったが、外部からの指摘を受け、副市長が依頼し予約を取り消したそうだ。
新型コロナウイルスのワクチン接種は始まったものの、「電話が繋がらない」「Webからだと申込方法が難しい」「窓口に行列ができている」など、連日ワクチンの予約に苦労する人々の様子が報道されている。
「割り込み予約」とも言える一連の騒動には「民主的ではない」「みんな苦労して予約してるのに不公平」「上級国民」など批判の声が多数寄せられ、「氷山の一角では」と、他の自治体でも同様のことが行われているのではないかと疑う声もあがっている。
西尾市とスギHDの主張に食い違い
11日には、スギHDも企業ホームページに謝罪文を掲載した。
<ワクチン接種をお待ちの西尾市の方々はじめ、全国の皆さまにとって不快な行為であったこと、日夜尽力されている全国の行政の方々の努力に水を差す結果となってしまったことに深くお詫び申し上げます>
<今回の案件に至った背景として当社相談役が肺がんを患い大きな手術を経験しており、
一日も早いワクチン接種をと慮った当社秘書が西尾市役所様にお問い合わせをさせていた
だいたことに端を発します。その使命感ゆえに何度かお問合せを繰り返ししたことについ
てご迷惑をおかけしたと考えております>
<また会長杉浦自身は過去にアナフィラキシーショックを経験しており、ワクチン接種は
希望しておりません>
謝罪文には「会長はワクチン接種を希望していない」と書かれ、下線で強調されている。しかし、一部報道によると、10日に副市長が予約取り消しの連絡をした際、<夫妻は集団接種会場に向かって移動中でした>とあり、ネット上では矛盾を指摘する声が相次いでいる。
また、謝罪文では「秘書の使命感ゆえの行動」と説明されているため、「秘書のせいにするなんて」「秘書は捨て駒なの?」とのひんしゅくも買っているようだ。
ご不快構文への疑問も
さらに、スギHDが公表した謝罪文には<ワクチン接種をお待ちの西尾市の方々はじめ、全国の皆さまにとって不快な行為であったこと>とあり、こちらにも疑問の声が出ている。
「不快な思いをさせて申し訳ございませんでした」といった、テンプレート化された謝罪文は「ご不快構文」と呼ばれ、「何が問題なのか理解していない」などと、謝罪文がさらに炎上を大きくすることもある。
例えば、2020年11月のアツギのキャンペーンや、今年3月の『報道ステーション』(テレビ朝日系)のWeb用CMの炎上では、謝罪文に「不快な思いをさせて」といった文言が使われ、謝罪文への批判も散見された。
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今回の件も、確かに不快に感じる人はいるだろう。しかし、「不快にさせたこと」が問題なのではなく、公平性を欠く対応を求めたことや、不適切な行為であったことが指摘されているのだ。
なお、スギHDホームページの「私たちの誓い」の中には<私たちは、常に誠実でありつづけます>と掲げられている。代表取締役会長夫妻には、消費者が“誠実”と感じられる対応を期待したい。