理不尽な現在の刑法性犯罪規定。13歳でセックスに同意できますか?

文=雪代すみれ
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GettyImagesより

 2017年に110年ぶりに性犯罪の刑法が改正されたものの、未だに被害実態に沿った内容であるとはいえない。残された課題の解消に向け、2020年6月から刑事法検討会が行われており、議論は正念場を迎えている。

 今年2月23日、性暴力被害当事者及び支援者の団体である一般社団法人Spring(以下、Spring)は「#WithYouで変えよう刑法性犯罪」を開催。

 Spring代表理事で、刑事法検討会に被害当事者として参加する山本潤さん、同理事で弁護士の寺町東子さん、評論家の荻上チキさん、タレントで性教育に関する発信をYouTubeで行っているSHELLYさんによるトークが行われた。本記事ではイベントの一部をレポートする。

SHELLYさん「NOを2回言わせない」「あなたのNOには力がある」

※以下、具体的な性暴力に関する記述が含まれます。

 イベントでは2017年の刑法改正で残された課題について事例を用いて説明された。

 最初の事例では、19歳のAさんはスポーツクラブで知り合った40代前後の男性に誘われ、バーに行き、強いお酒を何杯も飲まされた。

 気付くと男性の自宅にいて無理やり性交させられており、携帯電話で動画を撮影する男性にAさんは「やめてください、撮らないでください」と泣き叫んで言ったが、顔を隠すのが精一杯で抵抗できる状況ではなかった。男は「うるせぇ殺すぞ」と言い、Aさんの頭に毛布を被せたので、Aさんは息ができなくなった。

 この件は、検察が動画を見て「動画を撮らないでほしいということはわかるが、性行為を嫌がっているかどうかわからない」として不起訴となってしまったとのこと。

 現状、同意のない性行為が全て処罰されるわけではなく、暴行または脅迫を用いて、あるいは心神喪失もしくは抗拒不能に乗じて性交を行った場合が処罰対象となっている。

寺町東子さん(以下、寺町):恐らくこのケースでは、被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行脅迫がないと判断され、かつ「撮るのをやめてください」と言えているので抗拒不能ではないというふうに判断されたのでしょう。場合によってはこのケースの同様な状況でも暴行・脅迫ととらえていることもあるのですが、警察官や検察官によって判断にばらつきがあるのが現状です。

SHELLYさん(以下、SHELLY):激しく抵抗しなければレイプとみなされない。一方である程度抵抗できていれば、お酒を飲まされていたけれども抗拒不能ではなかったと。非常に両極端で、どちらにしても被害者の責任にされてしまう現状にまったく納得いきません。

 それから、人間は恐ろしい体験をするとフリーズすることが研究としてもわかっていて、「抵抗しない=行為を受け入れていた」ではないと明らかにされているのに、法律が変わらないことが理解できないです。

山本潤さん(以下、山本):昨年8月に行ったSpringのアンケート調査では、「挿入を伴う被害」の中でも、明確な脅しや暴力が見られないという回答が多く、暴行や脅迫がなくとも被害者の多くが恐怖を感じたり、体が動かなくなっていることが見えてきました。

寺町:今の条文について「裁判例では緩やかに解釈しているから現状でも問題ない」といった意見もあるのですが、現場の警察官や検察官で解釈にバラつきが出ていて、被害を訴えても、門前払いをされてしまうケースもあります。今回の見直しでは、人によって判断に差が出ないよう、文言を明確にしていくことが必要だと考えています。

また、性犯罪に関してだけ「冤罪」に注目される点にも、ミソジニー的な視点があるのではと感じています。「冤罪防止」は大事な話であって、何が犯罪にあたるか明文化されているとか、拡大解釈で不当に処罰されないとか、違法な取り調べが行われないようにするとか、長期間勾留されるゆえに不本意に自白してしまうとか、改善点は挙げられるものの、それは性犯罪に限られた話ではありません。「冤罪防止」は取り調べの録音・録画や、弁護人の立ち会い権、勾留期間の短縮など全体的に対応すべきことです。

山本:Springとしては、不同意を示すものとして法律の中に威迫・不意打ち・監禁・無意識・薬物・洗脳・恐怖・障害・疾患などを取り入れてほしいと思いますし、「その他、意思に反した性行為」として不同意性交等罪の創設を望んでいます。

 なお、SHELLYさんはお子さんの教育で「相手にNOを2回言わせないこと」をルールにしているという。

SHELLY:「やめて」って言われたらすぐやめる。自分はふざけてやっていることでも、やっている側の気持ちは関係なくて、「やめて」と言われたらその言葉を大事にして受け入れるようにしています。「1回やめてって言ったらやめてあげて」ということは、私の周りの大人や、娘の友人にも言っています。

じゃれあっている中での「やめて」だったら、また「やって」って言うこともあるのですが、それならまたやればいいんです。とにかく子どもが発する「NO」を大人がしっかり受け止め、子どもに「私のNOには力がある」と感じられること、そしてそれは他人の「NO」を受け止めることにも繋がると思います。

荻上チキさん「社会通念を変化させていくことが重要」

 二つ目の事例。新卒で入社したBさんは、部長の営業に同行した際「仕事のことを話そう」と食事に誘われ、終電がなくなるまで付き合わされた。「何もしない」という言葉を信じ、ホテルへ行くと、無理やり性交させられてしまったという。

 「性交には同意していなかった」と伝えたBさんに、部長は「ついてきたお前が悪い」と告げた。部長は社内で絶大な信頼と実績があり、Bさんは「自分が訴えても相手にされない、仕事を失うかもしれない」「騒ぎを起こせば他の女性たちにもマイナスになるかもしれない」と考え、被害を人事に相談できなかったという。

寺町:このケースも「暴行・脅迫」がない状態で、脅迫的な言葉もないので現在の刑法ですとさらに事件化するのが難しいものです。

ただ、現在の刑法でも「抗拒不能に乗じて」という言葉の中で、「心理的な抗拒不能」も含まれると解釈されており、性交を承諾するか・拒否するか選択が難しい状況では、「心理的抗拒不能」に当てはまり、処罰できると解釈上はなっています。

しかし実態としては、上司・部下の地位関係性があるときに、上司側と部下側の認識に大きな隔たりがあります。例えば、牟田和恵さんの『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社)では、上司は恋愛だと思っているけれども、部下は心理的抗拒不能の状態だったケースが書かれています。

SHELLY:先生と生徒、コーチと教え子など上下関係があり、「上の者をリスペクトする」という風潮の中で、地位が低い人たちが「NO」を言えるのかを、上に立つ側が考えなければならないですよね。

もう一つこのケースで気になったことが。被害に遭った方は人事に相談していないということなので、きっと警察にも行ってないですよね。性犯罪は暗数が多いと言われていますが、アメリカでは2017年の「#MeToo」を機に、声をあげやすくなりました。

「#MeToo」によって、「言ってもどうにもならない」「本当のことか疑われるかもしれない」「セカンドレイプが怖くて言えない」という空気でしたが、「安心して言える」と変わっていきました。「#MeToo」や「#With You」の空気が広まることによって、被害者がもっと声をあげやすい世の中になると思います。

荻上チキさん(以下、荻上):権力勾配がある中では、被害だと気付きにくいですし、被害を訴えにくいです。だからこそ身近な関係で権力勾配が存在することに対して、多くの人たちが自覚しなければなりません。

具体的には、職場内で生じているのであれば、職場に対して対応義務を課すといった議論が必要ではないかと考えます。2019年に成立した「パワハラ防止法」では、事業主が対応しなければならないことや、相談したことでの不利益取り扱いの禁止などが定められたのですが、処分の責務や適切に対応されなかった場合の罰則といった話には至っていません。また、フリーランスや就活生が保護されていないなど、課題は残されています。

また、権力勾配には地位の差だけでなく、知識の差もあると考えています。例えば、映画『ジェニーの記憶』(2018年)では、13歳の頃に同意した恋愛だと思っていたけれども、大人になってから振り返ると、「若かった頃の自分の同意とはなんだったのだろう」「緩やかに誘導されていて知識のギャップを利用された」「洗脳に近いのではないか」と気付く描写がありました。

一人ひとりが気づきやすくするため、社会的な啓発は重要だと思っています。また、多くの法律は社会通念に影響を受けます。条文に変化がなくとも、社会的な常識に照らし合わせ、違法認定がされやすくなることもあります。

ですが、性犯罪についてはまだ不合理な判決が出ており、被害実態に沿った社会通念が浸透しておらず、司法にも届いていないということです。なので、啓発の改善に加え、社会通念を変化させていくことも必要だと考えています。

性教育が不十分な中、13歳でセックスに同意できるのか

 三つ目の事例では、2007年、24歳の男性が14歳の女子中学生Cさんに対し、知り合って2日目(交際が始まった日)に性交したことが強姦罪にあたるとして、起訴された。

 Cさんが「今日は性交をやめておこう」と発言したことから、性交に同意していなかったことは裁判でも認められたものの、加害者が反抗を著しく困難にする程度の暴行を加えたとは認められず、加害者が「Cさんは性行為を受け入れた」と誤信した疑いは払拭できないとして、無罪になってしまった。

寺町:13歳未満に性行為をした場合は、暴行脅迫や抗拒不能がなくとも処罰対象になるのですが、このケースは14歳なので、大人と同様の要件が適用されます。加えてCさんは「やめておこう」と言っていますが、暴行・脅迫がなく、不同意だけでは処罰の対象にならなかったケースです。

荻上:日本の性交同意年齢が、諸外国と比べ低いとは指摘されていますが、国内の他の年齢制限のある法律に比べても低いですよね。選挙権や運転免許などに比べても、13歳の性交同意年齢はあまりにも低く、科学的な裏付けや、法律の一貫性の中で、どういった大人のイメージを築いているのか、疑わしいところです。

SHELLY:現状「13歳になった誕生日から、もしレイプ被害に遭っても同意していなかったことを自分で証明しなさい」と課せられるわけですよね。では、13歳になるまでに体の仕組みや性的同意、妊娠や性感染症など、性に関する正しい情報を全て教えられているのかというと、まったくそんなことないですよね。

現状、「13歳でセックスに同意できる」とされていることを、もっと多くの人に知ってほしいです。自分が13歳の頃や、あなたのまわりの13歳の子を思い浮かべて、そんなに大きな判断ができると思いますか? 私は性交同意年齢は、16歳とか17歳とかでもいいと思っています。

山本:Springとしては、「子どもの保護」は非常に重要だと考えていて、せめて義務教育である中学生の間は、守られるべきと考えています。なので、性交同意年齢は16歳まで引き上げ、中学生同士や高校生と中学生などの恋愛関係は、別の要件を設けることで保護していただければと思います。

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理不尽な現在の刑法性犯罪規定。13歳でセックスに同意できますか?の画像2 ウェジー 2021.03.02

行為の意味が理解できなかったり、PTSDで記憶を失っている間に「時効成立」という理不尽さ

 最後は、Dさんの事例が紹介された。Dさんは帰宅途中に見知らぬ男性から強制性交の被害に遭った。すぐに警察に駆け込み、体液や爪の間に残った組織を採取し、犯人のDNAを保存できたものの、犯人は見つからず、事件はお蔵入りしてしまった。

 Dさん自身は、何年もPTSDに苦しみながら生活していたが、事件から12年後に、別の事件で逮捕された被疑者のDNAと、Dさんの事件の加害者のDNAが一致した。ところが公訴時効が成立しており、警察から「起訴できない」と言われてしまったとのこと。

寺町:公訴時効は法定刑の重さに応じて年数が決まっています。強制性交等罪の場合は、5年以上の有期懲役に対し、公訴時効が10年であり、事件から10年経過すると、証拠があっても罪に問うことができなくなります。

海外では、証拠としてDNAが採取できているものの、誰のものか特定できていない段階では公訴時効が停止したり、被害者が一定の年齢に達するまでは、時効が停止する制度を作っています。また性犯罪の場合、PTSDによって記憶をなくすケースもあるため、時効を30年など長くしたりしている場合もあります。

時効がある理由としては、証拠の正確性の問題による冤罪の防止とともに、「処罰感情が希薄化する」と言われているのですが、実際に被害者の声を聞くと全然希薄化していないんですよね。

山本:性暴力の場合、被害の衝撃により記憶を失うこともあります。その後、思い出したときに証拠が残っている事例もあるため、そのときに訴えられるような制度設計が必要という認識は共有されていると思います。Springとしては、公訴時効は撤廃、それが叶わなくとも停止・延長ができるよう求めていきたいと思います。

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「被害者に落ち度があったはず」と思うことで心を守ろうとする心理

 イベント終盤には「なぜ被害者を責めてしまうのか」について、議論がされた。

寺町:「レイプ神話」は多くの人の不安の象徴だと思うんです。自己責任論にすることで「自分は気を付けているから大丈夫」と思いたい心理の表れですよね。

荻上:心理学の世界で「公正世界信念」と呼ばれている概念ですね。「この世界が不公正だ」だと、不安定な状況で生きていかなくてはいけないため、「この世界は因果応報で何か過失があればバチが当たる」「備えればリスク回避ができる、努力が報われる社会だ」と信じたいんです。

誰かが被害に遭ったというニュースを聞いたとき、被害者に落ち度がなければ、この世界は不公正であり、「自分にもその不公正なことが起きるかもしれない」と不安になるんです。被害者が悪いことにすれば、自分の公正世界信念は守られるので、被害者を攻撃します。

一方で「解決した」というストーリーが示されると、「自己責任にしたい」という心理が働きにくいこともわかっています。

例えば、目の前で怪我をした人がいたとき「119番にかける」「誰か人を呼ぶ」など対応を知っているので、「怪我人が悪い」など責める人はいないと思います。

なので、メディアは事件報道をする際に、事件そのものだけでなく、具体的な解決策や、「未公正」な現時点で行われている法改正の議論、どんな啓発がされているかなども伝えると、視聴者の関心が被害者や加害者へのバッシングではなく、制度設計の論点にスライドしていきます。

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理不尽な現在の刑法性犯罪規定。13歳でセックスに同意できますか?の画像2 ウェジー 2020.07.27

 最後に寺町弁護士は「2017年の刑法改正は110年ぶりで、今回の見直しのチャンスをみすみす逃さないよう、みんなで声を集めていきたい」と呼びかけた。

※「法務省 性犯罪に関する刑事法検討会」の議事録や資料はこちらから閲覧できる。

■一般社団法人Spring
HP:http://spring-voice.org/
Twitter:@harukoi2020

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