追加融資を渋られ困窮の飲食店も、アフターコロナで“残存者利益”が得られる?

文=A4studio
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GettyImagesより

 2020年4月に初めて発出された緊急事態宣言。以降、経営難に陥った外食産業企業は、金融機関の融資によって財務を補うことができた会社も多かった。しかし、それから約1年経った今では、追加融資が受けられず苦しんでいる企業も存在するようだ。

 1年前は企業救済のための融資に柔軟な姿勢を見せていたはずの金融機関が、融資を渋るようになった理由は一体何なのだろうか。中小企業診断士としても活動し、新聞や雑誌などへの寄稿やコメント提供などを行う流通アナリストの中井彰人氏に解説してもらった。

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中井 彰人(なかい・あきひと)
食品/流通アナリスト。みずほ銀行の中小企業融資担当を経て、同行産業調査部にてアナリストとして産業動向分析に長年従事。中小企業診断士としても活動し、新聞や雑誌などへの寄稿やコメント提供などを行う。

二分化する外食産業……足りない財源はどう補充してきたか

 まず、コロナ禍以降の外食産業の業績がどう推移してきたかを伺おう。

「去年4月の緊急事態宣言の発令以降、外食産業企業の売上高は時短要請の有無によって大きく変動しています。

 そして時短要請の影響が大きい夜間中心の業態やアルコールの売上比率が高い業態はより悪く、反対に滞在時間が短いファストフードや感染リスクの少ない家族向けの業態は徐々に回復し、なかには増収した業態もありますね。

 また、立地も大いに関係しています。好調な郊外に対して、都心部は昼間人口の減少により不調。さらに商業施設内の出店が多い店舗は、施設の営業時間に縛られることで業績悪化が顕著になるなどの傾向があります」(中井氏)

 では、コロナ禍当初は柔軟だった外食産業企業への融資が厳しく変化したのはどういった理由があるのだろう。

「民間金融機関や日本政策金融公庫による昨年の『コロナ融資』は、政策によって積極的に行われるべき公的支援だったんです。ですから、ほとんどの企業に対して10~15年の長期借入で会社ごとに必要な額を融資していました。

 ただ、各会社がその公的支援枠の資金を使い切ってしまえば、以降の追加融資は金融機関も正規の審査基準で判断せざるを得ません。金融機関にとっては貸し倒れリスクに直結するので、会社の財務状況や担保余力に応じた審査となります。そうなると経営基盤の不安定な企業であれば融資を借りられなくなるケースが出てくるわけです」(中井氏)

 正規の融資審査基準で、とのことだが、業績悪化した今このご時世ではかなり厳しい条件なのではないだろうか。

「正確には、コロナ禍が終息したあとにどれだけ売り上げるか、という点をコロナ禍以前の売上高などを参考にして、金融機関が判断します。ただ、アフターコロナもしばらく外食産業は低調するであろうことを想定すると、多くの会社にとってはその審査をくぐるのは難しいでしょうね。

 それでも融資を受けられる企業というのは、返済不能時に金融機関が回収できる担保があるか、または保証人がいるか、といった個別事情を加味しています。そうした理由から、個人経営飲食店にとっては特に難しいケースが多いでしょう」(中井氏)

 追加融資が受けられない外食産業企業の苦境は想像に難くない。

「追加融資を受けられない場合、どのようにして財源を賄うかという問題ですが、株式を発行して資金調達するか、銀行のコミットメントライン(銀行があらかじめ契約した期間や融資額の範囲内で、銀行による融資実行を約束する契約)を設定して資金不足に備えるなどの方法があります。

 その余裕さえもない会社は、他社に経営権を全部、または一部譲渡することで資金を得るしかありません。『いきなり!ステーキ』はまさにそのM&Aで会社を売却しました。

 よほどしっかりした計画や事業基盤がないと財源を確保することは難しいので、コロナ禍以前の財務力や事業基盤が不安定な企業から順に淘汰されていく――ある意味シンプルな図式になっていると言えるかもしれません」(中井氏)

コロナ禍を耐え忍べば、大きな残存者利益が待っている?

 では、昨年の政策による融資は、結果として多くの外食産業を生かしたと言えるのだろうか。

「融資もそうですが、雇用調整助成金なども含めた公的支援は、中小企業にとって一定の効果があったはずです。休業補償も支えになっているようです。

 また、多店舗展開の場合は、業績が回復しにくい店舗から順に閉店することで損失を最小限に留めている場合もあります。

 反対に『ロイヤルホスト』や『大戸屋』といった上場企業では、M&Aで経営権と引き換えに資金調達せざるを得ない事態になっていますね。ただし、ビジネスモデルがある程度しっかりしていれば、コロナ禍が終息し、ある程度回復したあとに再度経営権を換価して取り戻すことも可能かもしれません。

 上場企業以外の中堅企業でも融資枠をオーバーしつつある企業は、その状態が長期化すればこれから資金不足に陥る可能性は高いでしょう」(中井氏)

 会社規模によって異なる環境。今後の外食産業全体の動向が気になるところである。

「前述のとおり、現状ではもともとの財務基盤が弱い、もしくはビジネスモデルがうまくいっていない企業から順に市場から退場させられています。倒産まではいかずとも、赤字店の大量閉店は加速しており、繁華街を中心に大量の空き店舗が生まれている状態です。

 財源に余裕のある『サイゼリヤ』や『鳥貴族』、他業態ではコンビニなどの企業が、こうした空き店舗確保に向けた動きを活発化させています。競合他社が撤退したあとに生き残った企業が市場を独占することで得られる“残存者利益”は大きいと考えられるので、今こうして布石を打っている企業がアフターコロナで大幅に成長する可能性は高いと言えます」(中井氏)

 コロナ禍を生き延びた外食産業企業が業績を伸ばすであろうことは、今の時点である程度担保されているということか。

「ですから、アフターコロナにある程度お店を切り盛りできる自信があるなら、どんなことをしてでも現状の厳しい環境を耐え忍ぶことが賢明なんです。例え金融機関に担保を取られてでも資金調達して、なんとしても生き残ることが重要。

 特に中小・零細企業は資金調達を諦めている、または経営手段がわかっていない飲食店も多いという話を聞きます。もともと繁盛していなかった店舗であれば仕方ないでしょうが、コロナ禍以前にきちんと客がついていた店なら、とにかく最後まであがいて資金繰りを確保する道を探ってほしいです」(中井氏)

 アフターコロナの残存者利益を考えると、できる限りの手段を尽くすべきなのだろう。

(文=二階堂銀河/A4studio)

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