新型コロナで導入が進む、ICTを活用した教育の効果とは?

文=畠山勝太
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GettyImagesより

 新型コロナウイルス感染症による子供達の学びの損失が、世界的に大きな話題となっています。英米では現在学校で学んでいる子供達は、学びの損失が発生しなかった場合と比べて、将来収入が3%程度下がってしまうのではないかと言われています。

 そんな中で注目を集めているのがICTを活用した教育、ないしはEdTechと呼ばれる分野です。

 この分野は中身が非常に多様であるため、ICTを活用した教育は効果がある/ないを一概に論じることが難しいですし、その多様な中身をどう分類するのかもなかなかに難しいところがあります。

 今回は、私の専門分野である教育政策の観点から、ICTを活用した教育を、①Computer Assisted Learning (CAL)、②オンライン授業、③Massive Open Online Course (MOOC)、の3つにわけてお話したいと思います。

CALとは?

 CALを一言で説明するのは、多様さ故に難しいところがあるのですが、基礎教育で使われるものでイメージしやすいのは、漢字ドリルや計算ドリルといった紙媒体の自学自習用の学習教材が、電子媒体になったものだと思います。

 その中にも、ただ単純にコンピューターやタブレットを使って自分で選んだ教材で学習するものから、オンラインで習熟度に応じて出てくる問題が変更されるものまで多岐にわたります。日本でも、既に様々な民間企業がオンラインベースのCALの提供を行っています。

 CALは、数学や国語などの復習に活用された場合、特に大きな効果を発揮することが知られています。しかもこれは、アメリカ中国インドと国を超えて効果が確認されています。

 特にインドのものは効果が大きく、多くの研究者が参照するなど影響力が大きなものになっています。子供達の学力を向上させられるだろうと期待されて行われた教育プロジェクトが100個あった場合、その中でも上位の数個に位置付けられるほどです。

オンライン授業とは?

 オンライン授業もまた非常に幅が広いものです。次に解説するMOOCとの違いを際立たせるために、ここでは限定された、そこそこの数の生徒・学生が受ける授業のことを指したいと思います。具体的に言えば、新型コロナに伴う学校閉鎖で実施されたようなものや、大学でのオンラインコースのようなものです。

 対面授業と比べた時に、オンライン授業は同等の効果を発揮するか、ないしは低い教育効果となることが多く、対面授業よりも効果が高いという研究はほとんどありません。その中でもいくつか示唆に富む研究を紹介したいと思います。

 一つ目は、ミシガン州立大学で実施された実験です。この実験でもオンライン授業は対面授業に劣るという結果になっているのですが、興味深い点は、教育効果を確かめるために実施した試験で、オンライン授業が対面授業に顕著に劣った問題と、そうでもなかった問題が存在したことです。

 応用問題のような難しい問題ではオンライン授業組が明確に劣勢となるのですが、基礎的な問題ではそうではありませんでした。復習で用いられるCALが非常に効果的である点と照らし合わせても、ICTが基礎的な学習には特に効果を発揮するかもしれないというのは、納得のいくポイントです。

 二つ目は、アメリカのどこかの研究大学(筆者たちの所属的に、まず間違いなくフロリダ大学です、苦笑)で行われた実験です。この実験でもやはりオンライン授業は対面授業に劣っているのですが、オンライン授業のコストに迫っている点が興味深いです。

 私はオンライン授業はかなりのコスト削減になるとなんとなく思っていたのですが、筆者たちの計算によるとそうでもないようです。結局のところ、オンライン授業でも採点業務は付いて回るし、オンラインシステム維持の職員を雇ったりしなければならない上に、その大学の学生でなければ受講できないということから受講人数がそれほど多くならないので、給与がかなり高い教員を不必要に出来るか、何年かオンライン授業を使いまわせない限り、対面授業よりも大幅にコストが安くなることはないようです。

 三つ目は、ジュネーブ大学や、米国のどこかの営利私立大学など、複数の研究で見られた、オンライン教育の効果は学生の特徴によって異なるという点です。具体的には、社会経済的に豊かでない家庭出身や低学力の子供の間で効果が無い、ないしは悪影響が出た一方で、恵まれた・優秀な学生の間ではそうではありませんでした。

 この結果を直観的に理解できるのは、フィットネスだと思います。最近では、ある程度の設備が整ったジムの月会費だけ支払っていれば、大きな体やバキバキの体を作ることができます。なぜなら、なかやまきんに君をはじめとする様々なボディビルダーが、トレーニングの種類や正しいフォーム、栄養に関する知識をYouTubeで提供してくれているので、それで学んで後は実践すればよいだけだからです。

 しかし、世の中には依然として、トレーニング・食事メニューを管理してくれるパーソナルトレーナーが数多くいますし、驚くほど高額なパーソナルジムも存在します。なぜなら、誰かに管理してもらわないとやりぬくだけの力が無かったり、そもそもYouTubeの解説を理解するための基礎知識すら無かったりするからです(なかやまきんに君のYouTubeも、平易な内容はきんにくTV、詳細な内容はきんにくTV 2ndにわかれていて、いきなりサブチャンネルの解説動画に行くと、ついて行けない人が続出しそうです。このことは、次に解説するMOOCに特に当てはまります)。

 これが学習についてもそのまま当てはまります。ICTを活用した教育をやりぬくだけの力が無ければ効果は期待できませんし、ICTを活用して学ぶ知識やスキルが無い場合も同様です。この効果の異なり方が格差を拡大させる方向で働く恐れが高い点に、オンライン教育をデザインする時には注意が必要だと考えられます。

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