新型コロナで導入が進む、ICTを活用した教育の効果とは?

文=畠山勝太
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MOOCとは?

 MOOCは、オンライン授業の一種です。MassiveとOpenという二つの形容詞がついているように、誰でも受けることが出来るオンライン授業のことを指しています。定義からは若干外れますが、古くで言えば予備校のサテライト講座がMOOCに近いものでしょう。近年では日本にもカーンアカデミーやコーセラのような無料のオンライン講座が進出してきていますし、日本の大学も無料のオンライン講座を公開していたりするので、MOOCは老若男女を問わず浸透してきていると言えます。

 MOOCについては、ハーバード大学のデミング教授がNY Timesで解説したものが、平易な英語で分かりやすく説明してくれているので、そちらを参照してもらえればと思いますが、簡単に私の方でも記述しておきます。

 MOOCは誕生してからしばらく経ちましたし、誕生から現在まで、日本を含めて様々な著名人が、もはやMOOCがあるから大学など必要ないと主張してきました。しかし、現実はどうなっているでしょうか? 米国では大学の授業料は上がり続けていますし、エリート大に入学するのも年々難しくなっています。もはやハーバード大学やマサチューセッツ工科大学の授業ですら、時間や場所に縛られる事なく誰でも無料でオンラインで見れるにもかかわらずです。つまり、大学が必要なくなるどころか、大学への需要は増加の一途を辿っているということです。

 もちろん、大学の卒業証書にこそ価値があるから、人々は無料でMOOCで学べるにもかかわらず、高いお金を払って大学へ行くのだ、という議論も成り立たないわけでは無いです。しかし、教育経済学・教育政策分野の色々な研究結果を基に考えれば、例外的な能力を持ち合わせているからこそ著名人は著名人たるわけで、例外的な能力を持っているからこそMOOCを活用しきれるので大学に行く必要が無い、そういった人達だと考えられます。

ICTを活用した教育の注意点

 ここまでの話で注意が必要な点があります。それは、ICTを活用した教育の効果は、それが出てくるまでに時間が必要な場合があるということです。

 ICTを活用して教える・学ぶためのスキルを蓄積するのに時間がかかります。ミシガン州立大学のNakasone教授の研究などは途上国の教育や農業分野でそのことを明らかにしています。これらの研究を見ると、コンピューターを配布した翌年にはその効果が見られないものの、年数が経つごとに効果が大きくなっていったので、ICTを活用した教育の効果は、数年後まで見据えて測定しなければ意味がないがわかります。

 同様のことが新型コロナ禍のアメリカにも当てはまっています。アメリカの研究大学で、新型コロナによって学生の間でどれだけ学習に遅れが出たのかを分析した研究があります。この研究によれば、これまでオンライン教育を実施したことがない教員についた学生の間で特に大きな学習の遅れが確認されています。

 裏を返せば、オンライン教育は対面よりも効果的であることは稀だと言っても、教員がオンライン教育に習熟していれば、そうではなくなる可能性も十分にありますし、生徒や学生がオンライン授業やMOOCで学ぶことに慣れれば、対面よりもより充実した学びを得ることが出来る可能性もあるということです。

まとめ

 日本について言えば、新型コロナに伴う休校の話が出た時に、これはヤバいかもと思いました。なぜなら、ICTを活用した教育を実施する上で、ICTへの習熟度は成功のカギの一つですが、日本は国際学力調査で、この分野で常に最下位グループにいたからです。

 私も新型コロナ禍で実際にオンライン授業を受けましたが、普段からオンラインの教員免許コースを教えている教員は実にうまく授業をしていましたし、実際対面よりもいいのではないかと思ったほどですが、そうではない教員の授業は見るも無残なものでした。

 特にある程度できる子の基礎的な部分についてはCALを用いて学びの損失の補填を安価に実施していくのは良い対策だと考えられますが、いつなんどき何が起こるか予想がつかないので、これを機に教員のICTを活用した授業実施の熟練度を上げておくことが必要です。

 アメリカについて言えば、社会経済的に恵まれた子供達がICTを活用した教育をフルに活かしてより安価により良い教育を受けて才能を花開かせていく可能性は大いにあります。その一方で、エリート教育が寄宿制学校に集中していることを考えれば、豊かな親がICTを活用した安価な教育の活用に走るとは想像しがたいところがあります。

 社会経済的に恵まれない子供達については今後も対面の教育を必要とし続けることが考えられます。その一方で、アメリカのサイバーチャータースクールや途上国の低コスト型私立学校が、効果はさておき、一律で安価な、いわばマクドナルド型の教育を提供するようになってきています。

 アメリカでは、ICTを活用した教育を活かせる層はそうせず高価な教育に固執する一方で、活かせない層が活用に走り安かろう悪かろうな教育の犠牲となり、極一部の例外(ICTを活用した教育を活かせる層が実際に活かした・社会経済的に恵まれないけど優秀な子供が活かした)がICT教育万能論という虚構を振りまく地獄絵図が繰り広げられる、と私は見立てています。この構図は様々な分野で見られるアメリカン・ドリームの虚構そのものなので、それほど悪い見立てでは無いと思っています。

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