篠原ゆき子が主演を務める映画『女たち』(製作:奥山和由、監督:内田伸輝)が6月1日に公開される。
『女たち』は、ハンディキャップを持った母親の介護や確執に悩む女性や、過去の心の傷に押しつぶされそうになる女性など、コロナ禍の世界で追い込まれながら生きる女たちの姿を描いた作品。
コロナの影響で、日本社会における女性の閉塞感が改めて炙り出されたいま、この映画が伝えるメッセージの意味は重い。どんな思いで主人公・美咲を演じたのか、語っていただいた。

篠原ゆき子
神奈川県横浜市出身。2005年、映画『中学生日記』でデビュー。2014年に出演した映画『共喰い』では第28回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞した。2020年には主演映画『ミセス・ノイズィ』がヒット。『相棒 season19』(テレビ朝日系)のレギュラー出演でも話題になった。
ーー『女たち』は、登場人物みんながマスクをしている場面が印象的です。映画としてコロナ禍の現実を描いた最初期と言える作品になったのではないでしょうか。
コロナ禍が深刻化した2020年夏からの撮影だったので、本当に完成できるのかという感じでした。他の企画は、延期になったり中止になったりしたものが多かったですけど、『女たち』は奥山和由プロデューサーの判断で撮影を進めることになったんです。小規模な撮影でスタッフの人数が多くなかったから実現できたという面もあったと思います。
ーー群馬の山奥で撮影したというのも、条件としては良かったのでしょうか。
本当に自然が豊かで、人の少ない場所でしたので、おっしゃる通り、撮影に向いている環境だったのだと感じます。こんな時期のロケなので、地元の方たちに受け入れていただけないかもしれないと思ってたんですけど、スイカを差し入れてくださったりして、すごく嬉しかったです。
主人公の親友である香織を演じた倉科カナさんとの野外でのシーンは、本当に綺麗に撮っていただいたんですけど、とにかく蛭(ひる)が多い場所で。木から登ってきて、人間めがけて落ちてくるんですよ! スタッフさんの背中に入ってきて、気づかないうちに背中が血だらけになっていたりして……。普段の撮影では、なかなかできない経験でした。

©「女たち」製作委員会
ーー本作の企画はどのように始まったのでしょう。
完全にゼロからの企画だったんです。はじめに奥山プロデューサーから、「篠原さん主役で映画を撮ろうよ」って言ってくださって。それから共通の知り合いでもある内田伸輝監督を中心にZoomミーティングで会議などを重ねながら、『女たち』の内容が固まっていきました。
内田監督は、パートナーの斎藤文さんと、ご夫婦で映画づくりをされているんです。女性たちを描くとなったときに、「女性ってこうだよね」なんて、フランクに話し合いながら作品の中身を練ることができました。
監督には、親の介護や仕事の問題を通して、ロスジェネ・就職氷河期世代の痛みや、女性の行き詰まっている姿を映し出すというねらいを仰っていて、私も、そういった状況を表現したいという気持ちがありました。
そうした中で、ハンディキャップのある家族を介護している、私の知人の経験を監督に話すことで、設定が出来上がっていった部分もありました。
ーー美咲が初めて会った登場人物に挨拶する場面は、劇映画らしくない日常的なリアリティがありましたね。
たしかに、ドキュメンタリーみたいな雰囲気があると思います。内田監督には、参考のためにケン・ローチ監督(イギリスで経済格差問題などをテーマにリアリスティックな作品を撮り続けている巨匠)の作品等を観ることを勧めていただきました。
以前、内田監督とご一緒した『おだやかな日常』(2012年)のときは、ほとんどプロットに近い台本をもとに演技をしていたのですが、今回はしっかり台本を用意しながらも、やはり基本は演じる人間によって変化していくようなスタイルだったんです。
監督は、「僕の作品の台本は旅行のガイドブックのようなもので、台詞に囚われ過ぎずに、その場で生まれたもので演じて欲しい」ということを仰っていました。だからセリフのやりとりは、芯の部分を残しているとはいえ、元々の台本とは全然違うものになったんです。そういう映画づくりというのは、役者にとって面白いし、やり甲斐があります。
ただ、どんなシーンになるか分からず撮影に臨む現場なので、母親役の高畑淳子さんにしても、倉科さんにしても、共演の方々が何を用意してくるのかが分からなかったわけですから、そういう意味では緊張する現場でした。
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