
Getty Imagesより
JR小田原駅で、無人駅・JR来宮駅への案内を拒否されたと訴えたコラムニスト・伊是名夏子さんのブログがSNSで大炎上した。問答の末、熱海駅の駅員4名が来宮駅で待機し車いすを持ち上げて移動させたことにも非難の声が上がった。
SNSでの意見は議論にもならない誹謗中傷が大半を占め、本質的な問題は取り残されたままだ。交通のバリアフリーはどうあるべきなのか、またどう変わってきたのか。株式会社ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)会長であり、同志社大学客員教授の関根千佳さんに聞いた。

関根千佳
1981年九州大学法学部卒業後、日本IBMにSEとして入社。93年に障害者のIT利用を支援するSNSセンターをトップに直訴して設立。1998年(株)ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)を設立、代表取締役に就任。内閣府・総務省・経産省・国土交通省など多くの省庁・企業・学会で審議会委員や理事を歴任。2012年同志社大学政策学部/大学院総合政策科学研究科ソーシャルイノベーションコース教授。2021年現在、同志社大・放送大・美作大客員教授の他、東京女子大、関西学院大で非常勤講師を務める。「「誰でも社会」へ」(岩波書店)、「ユニバーサルデザインのちから」(生産性出版)、「スローなユビキタスライフ」(地湧社)の単著を始め、「情報社会のユニバーサルデザイン」(放送大学教育振興会)など共著多数。
http://www.udit.jp/
公共交通機関のユニバーサルデザインの進化と課題
――公共交通機関のバリアフリー化は進んできてはいますよね。
そうですね。20年ぐらい前に比べると、いろいろな点で進んできてはいると思います。例えばベビーカーや車椅子が乗りやすい超低床バスは、すごく増えていますね。
思い返せば、20年以上前の京都市内では、車いすが乗車できるバスは一路線だけ、それも1日2~3本しか運行していませんでした。電話で「乗車は1カ月前の予約が必要」と言われたこともありました。それと比べると、今はほとんどのバスが超低床で、予約も必要ありません。運転手さんも慣れていて、車いすもスイスイ乗せてくれるようになりましたね。
UDタクシーも、導入当初車いす乗車のセッティングに時間がかかり、雨が降っていると運転手さんがずぶ濡れになるなど大変でした。当事者の声で仕様が改善され、運転手への講習も自治体によってはしっかり行われるようになったため、今は乗車もかなり簡単になりました。その結果、乗車拒否もほとんど聞かなくなりましたね。
電車に関して言えば、以前は駅にはエレベーターもエスカレーターもありませんでした。
そこから長い時間をかけて段階的に変わっていったんです。まずは、階段に車いすを運ぶ「エスカル」という機械が設置されるようになり、車いすの人もなんとか移動できるようになりました。「おみこし」と呼ばれて当事者にはあまり嬉しくないものではありましたけれども。
また、費用面や駅の構造の問題から、エレベーターを設置するのは難しい状況でしたが、耐震基準の見直しやバリアフリーの法律ができて、新駅を中心にやっとエレベーターが設置されるようになりました。
ただ、長距離バスや空港連絡バスのアクセシビリティはまだまだ低いです。長距離バスに車いすで乗るためには、専用のリフトが付いている大型バスを頼まなければなりません。そういった大型バスは、バス会社につき1台くらいしかないところも多いんですよね。
1 2