男性育休を浸透させるため「当事者の声」以上に必要なものとは?

文=望月悠木
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Getty Imagesより

 「男性の育休取得」という言葉を耳にして久しいが、浸透しているとは言い難いのが現状だ。

 2019年度に厚生労働省が実施した調査によると男性の育児休業取得率は7.48%。1割にも達していないという。男性新入社員の8割弱が育休取得を希望している状況(2017年 日本生産性本部の調査)を鑑みると、「育児は女性がするもの」という意識の根強さを感じる。

 そんななか、「“夫婦で育休(ペア休)”という選択を」をコンセプトに掲げたプロジェクト「ペア休」が、男性の育休取得の必要性を訴える動画を5月15日に公開した。

 動画公開に伴い、5月14日には上映会が開催された。上映会ではまず、NPO法人ファザーリング・ジャパン東北理事を務め、動画制作にも携わった後藤大平氏が自身の体験を交えながら、男性の育休取得について訴えた。

育休の申請書を処分された

 後藤氏は以前、東北地方で予備校や学習塾などを展開する教育関係の中小企業に勤務していたという。管理職として岩手県の事業所を2つ任されていた。

 会社では重要なポジションにつき、多忙な毎日を送っていた後藤氏が育休取得を思い立ったのは、パートナーが過去に2回流産していたからだ。悲しい経験を踏まえ、「子供を迎えるということは特別なことだ」との意識を強くもつようになった後藤氏は、「子供の出産は人生に一度しかないことなので、しっかり関わりたい」と思ったそうだ。

 しかし、育休取得には大きな壁が立ちふさがった。後藤氏はこのように語っている。

「私の勤務先はそもそも男性の育休取得に関する申請書が存在せず、仕方がないので申請書を自作しました。その後、直属の上司に申請書を提出したのですが、『お前、男だろ?』と大変驚かれました。当時は“イクメン”という言葉も広まりつつあったにもかかわらず、困惑する上司を目の当たりにして、むしろこちらが困惑したことを覚えています。『自分も育児に関わりたい』『後輩にも自分のような働き方があると示したい』という思いを伝えたものの、釈然としない対応をされました」

 申請書を提出した翌日、後藤氏は会社から呼びつけられ、上層部の人間たちから一方的に叱責されたうえ、「この申請書は処分しておくから」と言われたことで育休取得を諦めざるを得なくなったという。

育休取得は個人の選択

 後藤氏は「育休に対するハードルは依然として高いですが、育休を取得するのは貴重な機会」「出産や育児は一生に一回しか訪れない経験であり、その経験は人生の糧になります。なにより、自分の大切なパートナー、子供と一緒にいられる時間はとても尊く、ぜひ勇気を持って取得してほしいです」と、育休取得に踏み切れない男性にメッセージを送る。

 しかし、育休取得のためには周囲の理解と協力が不可欠だ。かつて会社から育休取得を妨害された経験をもつ後藤氏は、このように訴えていた。

「男性であっても育児に参加することは個人の選択です。(「男性に育休はいらない」といった)空気に流されずに、個人の選択が受け入れられる社会になってほしい。ぜひ、皆さんの力も貸していただければと思います」

 公開された動画は、夫が育休取得を検討するも、会社の上司の無理解によって“なんとなく”育休取得を断念させられ、その結果、夫婦関係に深刻な亀裂が入っていく──というリアリティ溢れるヘビーなストーリーとなっている。

 動画後半では育休取得に関するデータを示し、様々な角度から育休取得の必要性を学ぶことが可能だ。10分程度の長さなのでぜひ目を通してほしい。

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