「嘘はつかない、それは日本人の美徳」と、櫻井よしこは言った

文=早川タダノリ
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櫻井よしこのポートレートが刷り込まれたのぼりを立てて、改憲署名にとりくむ「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(2016年8月15日、靖国神社前)

 櫻井よしこの「嘘はつかない、それは日本人の美徳であります」も、「日本人なら贅沢はできないはずだ」と同じ構造をもっている。

 「日本人」ならば■●するはずである、あるいは、■●して当然である――というレトリックは、この「■●」の中身に自分にとって都合のいい・他人にやらせたいことを盛り込むことで、「■●」させたい自分の主張を「日本人」の特性として装うことを可能にする。

 つまり、ここで言われている「日本人」とは、スリ・泥棒から総理大臣まで、混沌とした多様な人びとの現実的な集合を指しているのではなく、櫻井よしこの観念世界にある「日本人」にすぎない。

 彼女が菅首相にやらせたいのは日米同盟を基礎とした軍事的・外交的な対中強硬政策だが、「日本人の美徳」という――エビデンス皆無な――観念的「日本人」の民族的特性を以て、「嘘をつくな」=日米首脳会談の約束を守れということを主張しているのである。

 〈私がやらせたいから言ってるんじゃないんですよ。一度口にしたことは守る=嘘をつかない、これが日本人の美徳だからですよ〉という構図をここで作っているわけだ。

 それにしても、どうしてこんな、まわりくどくて嫌味なことをするのだろうか。

「日本人ではない」とされることへの恐怖

 SNSの世界には、自分の気に入らない発言をする人に対して「オマエは▲▲人だろう!」と脊髄反射的にクソリプしてくる人がいる。モニターの向こうにいる人格が保持している国籍を、回線を飛び越えて透視してみせているので、「国籍鑑定士」などと揶揄されている。

 こういうタイプの人は、国籍と政治的見解とはあたかも一体のものであるかのように考えているようだ。Aという国の国籍を持っていれば、A国政権の思想と政策に従順だと思っているらしい。

 これは日本国の政権の思想と政策に従わない者は「日本人ではない」ということになる思考法でもある。安易にくりかえし使われる「反日」なる用語も、こうした浅薄な思想的基盤の上にのっかっている。

 櫻井よしこもまた、「嘘はつかない、それは日本人の美徳」とすることで、菅首相が日米会談で言ったことをもしも実行しなければ、菅首相は日本人ではない=非国民であると言うに等しい政治的な恫喝を加えている。彼女は、これが「効く」と判断しているわけである。

 往々にして、他人に打撃を与えるためのセリフは自分が言われたら一番イヤな言葉を選びがちであるが、櫻井よしこも「非国民」と言われるのが猛烈にイヤなのだろう。

 ナショナリストが自らの忌避する言葉を相手に投げつけると、どうしても「日本人」といったデカい主語で語ることになってしまう。本人はうまいことを言ったつもりなのだろうが、ここに露呈しているのは、「日本人」を勝手に代表してしまうほどに肥大化した自我にほかならない。

(早川タダノリ)

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