
GettyImagesより
唯一無二の存在感を放っていたカリスマモデルが、量産型の自然派ママになっていました。不安な時代がそうさせたのか、苦労の多い人生がそうさせたのか? テンプレ通りのトンデモ節を唱えるのが「やっとたどり着いた幸せ」? 吉川ひなの(以下ひなの)の新刊『わたしが幸せになるまで』(幻冬舎)を読んでの感想です。

『わたしが幸せになるまで 豊かな人生の見つけ方』(幻冬舎)
「2歳の息子は未だに洗ったことがなくて」
「寄生されていると寄生虫の一番の餌である砂糖や小麦粉を妙に食べたくなったり、感情的になったりとマインドまで乗っ取られることがあると聞き、身に覚えがあるので(笑)これからも定期的にパラサイトクレンズ※は続けていこうと思っています」 ※寄生虫を排出するために、ハーブの製剤を飲む療法
一般的な科学や医学の論理とはかけ離れた健康法や自己啓発法を、当連載では「トンデモ」と呼んでいますが、ひなのがつづるハワイの生活は、それらの役満、幕の内弁当、ロイヤルストレートフラッシュ……要は「全部盛り」でした。同書の帯にあるコピーは「やっとたどり着いた心と体が喜ぶオーガニックな暮らし」。カリスマモデルとして売り出されて有名人としての地位もお金も手に入れたけれど、毒親に搾取され、ぜんぜん幸せではなかった。そこから脱出しての海外暮らし。そんな人生の旅で手に入れた、私の真実! といったところでしょうか。消費文化から抜け出した先で実践している、トンデモ健康法が語られています。
さて今回は彼女がそれを実践することの是非は横に置き、同書に登場するトンデモはどのようなものなのか、簡単に解説することにしました。同書を読み「何を言っているのかわからない」と、トンデモ小宇宙に放り出されてしまった人たちの、手引きとなれば幸いです。
【ひなの本を読み解くトンデモ・キーワード10】
その1■月のリズム
「新月の日は解毒の作用が強い」
「スーパームーンの力に負け、予定より随分と早く陣痛が来て」
ひなのが月の満ち欠けを意識して暮らす様子がつづられています。これは「自然派しぐさ」「スピしぐさ」と呼べるほどの、定番トーク。自然な暮らしを愛する人たちは、科学的なトピックスとしての天体でなく、スピリチュアルな概念の太陽と月が大好物なのです。もはや必修科目と言ってもいいでしょう。
人と月の関係で引き合いに出されるど定番は、人間や動物の出産が満月のころに増えるという現象。某オカルト農法では「満月採れ」の野菜はおいしいと謳います。月を意識して暮らしていると、月経のリズムが月の満ち欠けと連動してくると主張するヨガもあります。何でもかんでも月に結び付けると、地球を肌で感じられるような気分になるのでしょうか? それくらいならいいのですが「新月の夜のなんちゃらヒーリング」など、月のリズムにあわせて怪しいセミナーもわんさか沸いてくるのが困ったものです。
その2■電磁波
インスタグラムで素敵ライフを発信し自宅でwi-fiを使っているにもかかわらず、「危険な電磁波」を語るひなの。
「テレビはコンセントを入れたままだと2メートルまでは電磁波が届くので、寝る前に必ずコンセントを抜くようにしたり」
「できれば寝るとき携帯は寝室に持ち込まずなるべく離れた場所に置き、Wi-Fiルーターは電源をオフにする」
安心して気持ちよく眠る工夫は結構ですが、読者に「電磁波怖い」というメッセージ(呪いか?)を放つのはちょっと感心できません。でも仕方ないでしょうか。トンデモ沼の住人たちは「科学の力で生み出された、現代の目に見えないもの」を十把一絡げに怖がる傾向がありますので。
そもそもの話をすると、トンデモバスターとして名を馳せる五本木クリニック・桑満おさむ医師もブログでツッコんでいるとおり、Wi-Fiは自然光より波長が長いので、心配するほど強いエネルギーではないでしょう。自分としては、トンデモ教祖様たちが発信する「5Gで町中が電子レンジ状態!」だの「スマホが脳を破壊する!」だの、どうかしているトンデモ言説のほうが闇深く、よっぽど怖いですけどね。
その3■デトックス
子どものころからのアレルギー体質なので、こまめにデトックスをしていることも、語られています。その方法のひとつが「ひまし油」を定期的に飲むこと。そうすると宿便がとれるそう。すでに広く知られている通り「宿便」なんてものは存在しないんですが、ひなの曰く「明らかにいつもと違う様子のものが出る」。それって下痢なんじゃあ……?
特別なことをしなくても、普通は体に不必要なものの大半は便で排出されるはず。そこで精神的なスッキリ感を求めてか、美容・健康クラスタは昭和の時代から「デトックス」に飛びつきます。ジュースクレンズや酵素ドリンク、ゲルマニウム温浴、腸内クレンジング。時代ともにいろいろなデトックスが生まれては消えていきますが、その中でもあえて古典的なものをチョイスするのが、さすが「昔ながらの」を信頼する自然派。
同書でさらに「究極のデトックス!」と紹介されているのは、砂浴。これも、自然派療法では有名なクラシカルなデトックス法です。首だけ出して砂に埋まると、毒素が出ると信じられているのです。
「砂に入っているとだんだん体中が痒くなり、虫がはっているような感覚に襲われるの」
「それはグッドサインで解毒が始まった証拠だからなんとか我慢すると、次は体中の毛穴が開いてガスが出始める(それが臭い!)」
いかにも自分の体験をリアルにつづっているように見えますが、砂浴の紹介文や体験談ってコピペしたかのように、みーーーーんなコレ。こりゃ絶対に、自然派たちのバイブル『自然療法』(東城百合子・著)を読んでるだろ! と思っていたらビンゴでした。「おすすめ本」のページに同書がバッチリ登場。こんにゃくシップで腹痛対策をしたり熱をとるためにキャベツをかぶったりするのも、ほぼほぼこの本の影響でしょう。