
木下喬弘氏
ーーしかし過去に薬やワクチンに関する重大な問題が起きています。HPVワクチンへの不信感があっても不思議ではありません。
ワクチン開発は、過去に何度も失敗しています。ポリオも問題が起きたことがあるし、麻疹(はしか)も稀に起こる無菌性髄膜炎によって止められたことがあります。
デング熱のワクチンも、抗体依存性増強(ADE)といって、ワクチンを打ったせいで感染した場合に重症化する人がいることがわかりました。
ADEに関しては、動物実験や臨床試験の段階で重症化する人がいるのは懸念されていたんですよ。だけど接種のメリットの方が大きいのでやってみたら、一部の人に副反応が出てしまったので、取りやめになりました。
そうした反省を踏まえて、新型コロナのワクチンは、治験の段階からたくさんモニタリングしていて、いまのところ重篤な副反応は見つかっていません。
本題のHPVワクチンに関しては、2018年に「名古屋スタディ」が、2021年1月には韓国で大規模な研究がされて、神経の異常はHPVワクチンと因果関係はないだろうと結論づけられています。
ーー世界保健機関(WHO)はワクチン接種を推奨していますし、日本国内においても日本産科婦人科学会は国に対してワクチン接種の積極的勧奨の再開を求めています。去年は厚労省がHPV9価ワクチンを承認したと話題になりました。
ワクチンには定期接種と任意接種、プラス未承認という第三カテゴリーがあります。定期接種は決められた年齢の人が決められた期間内に無料で打てます。任意接種は保険診療の範囲で打てるものです。
9価は長らく「未承認」という第三のカテゴリーでした。海外からワクチンを輸入しているクリニックが、自分たちで価格を設定して自由診療の中で打っていたんです。
9価が承認されたというのは、保険診療の範囲に入ったということ。だからちゃんと国内流通しているものを一般のクリニックで打てるし、医薬品に対する一定の救済制度も適用されるということです。何かあっても制度の範囲内で治療を受けられますが、定期接種にはまだなっていません。
今、HPVの2価と4価は定期接種で小学校6年生から高校1年生の女子が無料で受けられます。しかし「積極的な推奨は差し控える」という状態です。正直、意味不明です。
要するに、対象者なら誰でも無料で受けられる定期接種だけど、「積極的に打った方がいいですよ」と言うのはやめましょうと厚労省は方針を出しているわけです。
ワクチンや薬は、開発と失敗の繰り返しなんです。だけど確実に進歩している。過去の失敗から学んで対策を練っているので、「過去にこんな問題が起きたから次も同じことが起こる」ことはないように最善を尽くしているんです。想定外のことが起きないように細心の注意を払いながら、過去の経験を踏まえて開発をしています。そういうこともちゃんと説明するべきだと僕は思うんですよ。
僕は、HPV感染症の予防方法について学ぶ仕組みを作る、「みんパピ!」という団体の副代表を務めています。
そこで4月9日の子宮の日に、「もう「知らなかった」という理由で死なないでほしい。」というコピーで新聞広告を出しました。
これまでいくつものテレビや新聞で、何度放送・記事掲載を蹴られたかわかりません。放送・記事掲載の記者さんなどは、記事を書こうとしてくれたのに、デスクに見せたら掲載どころか反省文を書かされたといってきたこともありました。僕たちはそういう理不尽な悔しい思いをずっとしてきたんです。
世の中に広まった誤情報に対して、お金を払って払拭しなければいけない理不尽さ。それでも、科学的な知見を理解してくれる人が少しずつ現れて、ゆっくりですが前に進んでいる感じですね。
HPVによって起こる子宮頸がん、中咽頭がん、肛門がん、直腸がんなどは、ワクチンで防げる病気です。それを是非知っていただきたいです。
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