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4月16日から審議されていた入管法改正案。当初、与党は今国会中の採決を強行しようとしていたが、多くの反対派の抵抗により、5月18日、緊張が高まる中で廃案となった。多くの当事者や支援者、反対派に立った人たちの努力が実を結んだのである。
法案が通ってしまえば、日本で暮らしているビザのない外国人たちの生活は窮地に立たされることになる。もともと厳しい状況下に置かれているのに、それ以上に悪くなる。「改悪」だと反対派から言われていた。
「ビザがないのなら速やかに帰国するのは当然。オーバーステイは犯罪者なのだから」という声もある。しかしビザのない人たちにも帰国できない事情がある。
母国で迫害されている難民、長年日本で暮らして地盤がここにある人、配偶者が日本人の人、日本生まれ・日本育ちの子供たち、ビザはあったが離婚や何らかのトラブルで更新できない事情があった人──皆それぞれの事情があるのだ。
1990年代から日本に住んでいるイラン人難民のババクさんは「あの時、私たちは日本に必要とされていた」と語る。
来日したばかりのころ、ババクさんはビザがない状態でも堂々と働いていたが、警察もそれをとがめることはなかった。
しかし、バブルが崩壊し、日本が不景気になってくると、今まで犯罪者と呼ばれなかった人たちが、急に「ビザがないから犯罪者」とレッテルを張られてしまうようになった。
前述した通り、帰れない人たちには1人1人、それぞれの理由がある。
入管に長期収容などされれば、帰れる人なら帰るだろう。事実、強制退去命令の出た人のうち95%以上が収容に耐えられず(自主出国、強制送還にかかわらず)帰国している。
それでも帰れない人たちは、どんなに目に合わされても帰ることができないのだ。
今回審議されていたのは、帰国できない人たちに刑事罰を設けるという非常に厳しい法案だ。
親族や支援者が「監理人」となり、仮放免者が働いたり逃げたりしないか見張り、入管に随時報告しなければならない。報告を怠った場合は監理人にも罰則がある。
また、3回以上難民申請をした人は送還の対象となるとの条項もあった。
この法案が通ってしまえば、日本はただでさえ国連から人権侵害を問題視されているのに、さらなる非人道的国家と指摘されるところだったろう。
廃案にもっていくために、多くの人たちが国会前シット・インやデモを敢行。また、弁護士や支援者、問題意識を持つ著名人、研究者たちによる記者会見も連日行われた。廃案となったのはこれら多くの人たちの成果とも言える。
だが、この廃案は、大きな犠牲の上に成り立っている。今年3月、スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管で死亡した。彼女は食事が取れないのに、点滴も受けさせてもらえず、餓死したに等しい。入管の医療体制には疑問が尽きない。
5月29日、築地本願寺で、「ウィシュマさんを偲ぶ会」が営まれた。主催者発表によると420人もの参列者が花を手向けるために足を運んだ。ウィシュマさんのためにスリランカから来日した妹2人の姿もあった。
遺族の弁護団代表として指宿昭一弁護士は、このように挨拶をした。
「3月3日、名古屋入管収容中に亡くなりました。入管に命を奪われたと言っていい。これを止められなかったことについて、日本人の1人として責任を感じています。必ず真相を解明し、このようなことが繰り返されないようにウィシュマさんに誓いたいと思います。そしてご冥福をお祈りします」
生前、ウィシュマさんは20キロ近くも体重が落ち、食事も喉が通らずに嘔吐や吐血を繰り返すような状況だったが、適切な医療を受けることができずに死亡した可能性がある。遺族や支援者は亡くなる前の彼女の様子がおさめられたビデオを見せるように訴えているが、上川陽子法務大臣は「保安上の観点」「亡くなった方の尊厳」といったことを理由に開示を退けている。
それに対し、ウィシュマさんの妹ワヨミさんは、
「法務大臣が答弁を曖昧にしているのは私たちを理解していないのだと思う。7月の最終報告まで、(ウィシュマさんが亡くなるまでの様子を撮ったビデオなどを)私たちは待ち続けます。法務大臣から哀悼の意を示されたが、その気持ちが本当ならビデオを出してほしい。真相解明しないとスリランカで待っている母に報告ができない。それまで日本にいるつもりです」
と語り、最後に、「私たちの人生、彼女の死について弄ばないでください!」と声を強めた。
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