医師による患者への性暴力 裁判からわかった実態と法律の問題点

文=雪代すみれ
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相談に共通しているポイント

——医療行為なのかわいせつ行為なのか、患者にとっては判断がつきにくい場合もあると思います。今までの事件や相談から、「おかしい」と気付くためのポイントがあれば教えてください。

らめーん:まず、医師による性犯罪の多くが「医師と二人きり」という状況で生じています。小さな病院であっても、通常、受付にも診察室にも誰もいないことは滅多にないと思うのですが、相談に来られた方の話では、診療時間外に呼び出されるなど、医師と二人きりになっていることが多いです。斉藤医院事件の被害者にも診療時間外に呼び出されている人がいました。

 もう一つは「無料」ということです。斉藤医院事件でも、「本来なら高額の治療費がかかるけど、誰にも言わずに来たら無料で診察してあげる」といったことを告げ、犯行に及んでいます。

 保険診療の場合、レセプト(市町村や健康保険組合に提出する明細書)の提出が必要です。通常、レセプトは医療事務が処理する業務で、診療日以外にレセプトが残っていたら、他のスタッフが違和感を覚え、発覚の危険性が高まります。保険を絡ませないためにも、“無料”とするのだと思います。

 一方で斉藤医院事件の場合、被害者に若年層が多かったため、性に関する知識も少なく、自分が治療とは関係のないわいせつ行為をされていることに気づくこと自体が難しかったのだと思います。被告人が資料を作り込み、嘘の病気の説明を受けている被害者もおり、手口が非常に巧妙でした。

——医師の行為が「おかしい」と感じた場合、どこに相談すればいいのでしょうか。

らめーん:斉藤医院事件では、被害者のうちの一人が不審に思い、警察に相談したことが発覚のきっかけとなっています。その後捜査が入り、保存していたファイルに複数の被害者の写真が見つかりました。

 警察に相談する場合、性犯罪被害相談電話全国共通番号「#8103(ハートさん)」に連絡すると、発信地を管轄する都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口に繋がります。

 警察以外では、各都道府県に1箇所以上ある性暴力被害者ワンストップ支援センターでも相談できます。相談員の中に医療関係者がいることもあるので、「医療行為でそんなことはしない」と気付いてもらいやすいですし、医療関係者でなくとも、客観的に話を聞いてもらうだけでも、違和感に気付くことは可能だと思います。全国共通番号は、#8891です。#8891にかければ、発信地と発進時間から、適切なセンターに繋がります。

 対面や電話での相談のハードルが高ければ、内閣府が行っている「Curetime」では、月・水・土の17~21時にチャットでの相談ができます。こちらは日本語のほか、10カ国語に対応しています。

現状、手指や異物の挿入は強制性交等罪にならない

——今後はどういった法律や制度の改正が必要とお考えでしょうか。

らめーん:強制わいせつのうち、手指・異物の挿入についても、強制性交等罪と同程度に扱ってほしいと思います。2017年の刑法改正では、肛門性交や口腔性交も強制性交等罪に含まれるようになったものの、あくまで陰茎の挿入が想定されており、現状、手指・異物を挿入した場合は強制わいせつ罪にとどまります。

 昨年から行われている「性犯罪に関する刑事法検討会」でも、膣や肛門内に手指や物を挿入する行為と、男性器を挿入する行為の間には精神的反応に差がないことが言及されています。被害者にとっては挿入されるものが手指や物であっても、深く傷つけられていることには変わりありません。

 しかし、強制わいせつ罪と強制性交等罪は、法定刑の上限に大きな違いがあります。1件の法定刑の上限は、強制わいせつ罪で10年、強制性交等罪で20年ですので、2倍の差があります。

 そして、2件以上の同じ罪で立件された併合罪の場合、法定刑の上限が1.5倍に延びます。強制わいせつ罪の併合罪は最大15年になります。一方、強制性交等罪の併合罪は1.5倍で30年なので、15年の差が出ます。

 しかも、公訴時効期間が法定刑と連動しているので、強制わいせつ罪の時効期間は7年、強制性交等罪の時効期間は10年と、3年の差があります。

 手指や異物の挿入は、強制性交等罪の成立する行為と比べて被害者の精神的な反応に差がないのに、法定刑と時効期間に、大きな差が生じてしまっているので、この点は法改正が必要だと考えています。

 また、現在13歳である性交同意年齢についても、刑事法検討会で引き上げるべきか議題に上がっていますが、上限が上がったとしても、若年者に対し相手との年齢差がある場合、地位関係を利用した場合などには、要件を整備する必要があると考えます。刑事法検討会でも、性交同意年齢は超えているものの、未成年である「中間年齢層」について議論がされました。

 現状、中間年齢層について児童福祉法や条例で保護されてはいるものの、より要件を整備し、上下関係や社会的な力関係がある場合、被害者が保護されるよう検討すべきだと考えています。

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