
イラスト:金沢詩乃(@shinop_k)
「ぶたやまライス」「ぎゅうぎゅう蒸し」「ビタンビタン焼き」などなど、ツイッターの一部で熱い支持を受けるレシピの考案者が、「やり過ごしごはん研究家のぶたやまさん」(@Butayama3)こと、やまもとしまさんです。3人の子を持つ共働き世帯のやまもと家では、日々のごはん作りはまさに戦場。必要に応じてインスタントだしを使い、仕事で疲れていれば中食でも冷凍食品でもOK、見る人がみれば未完成とも思える料理をSNSにアップする。そんな「やり過ごしごはん」には割り切りとこだわりが絶妙のバランスで共存しています。初の著書『ぶたやまかあさんのやり過ごしごはん 毎日のごはん作りがすーっと楽になる』(講談社)の刊行を機に、やはり3人の子を持つ兼業主夫として気になることをたくさん聞いてみました。(聞き手・構成/柳瀬徹)

やまもとしま
やり過ごしごはん研究家。1974年神奈川県出身。大学卒業後、就職。現在、高校生(長男)、中学生(長女)、小学生(次男)の3人の子育て中。フルタイム勤務と子育てで忙しい日々のごはんを「やり過ごし」ているうちに生まれたレシピや料理を、ほぼ毎日Twitterに投稿。その生々しさ、臨場感が人気を呼んでいる。理科好きが高じて、好奇心の赴くままにTwitter上に素朴な質問を投げかけ、それについて詳しく解説してくれる栄養士、研究者、科学雑誌編集者などの専門家とのやりとりによる「Twitter授業」的なものにより知識を深める。それらのやりとりの一部をまとめた「ぶたやまかあさんのお台所サイエンス」を『月刊 栄養と料理』(女子栄養大学出版部)で連載(2017年)したことも。

やまもとしま『ぶたやまかあさんのやり過ごしごはん 毎日のごはん作りがすーっと楽になる』(講談社)
「料理が得意」のハードルを下げよう
――かれこれ10年以上の付き合いですけど、本名で呼んだことがないので「ぶたやまさん」でいきますね。
ぶたやま そっちのほうが呼ばれ慣れてます(笑)。
――いきなりですけど、この本って初心者向けには書かれてないですよね。
ぶたやま あ、そうですね、言われてみると。
――野菜の切り方や皮のむき方といった基礎を、懇切丁寧に解説するわけでもないし、ナンプラーを多用するし(笑)。毎日のように料理はしているけど、もう少し手際をよくしたい、納得できる味にしたいと悩んでいる人が対象なのかなと思いました。
ぶたやま 週に何回かごはんを作っている人は、みんな「料理が得意」と言い切るべきだと思うんです。食材を買って、毎日のように料理して、自分も家族もそれなりに満足できるって、すごいことのはず。めちゃくちゃおいしいわけじゃないけど、好きだといえる味は立派に「おいしい」し、そんなごはんを毎日のように作れる人が「料理が得意」でないわけがない、と。
――とかく「おいしい」と「得意」のハードルを高くしがちですよね。家族は「おいしい」と言っているのに作った本人が納得しない、とか。
ぶたやま そもそも、すごくおいしいものがラクしてできるはずないと思っているんです。ラクしてできちゃったらプロの料理人なんて存在しないですよね。「むちゃくちゃおいしくないとダメ」はしんどい。この程度でもOKなんだというのを見せることで、ごはんを作ることのハードルを低くできるんじゃないかと思って本を書いたんですけど、よく考えたら私自身はハードルを飛ばずに蹴り倒すほうだから、そもそもハードルを低くする必要はないのかも(笑)。

イラスト:金沢詩乃(@shinop_k)
――意外だったのが「炒め物が苦手」と書いていることでした。僕なんかは一気呵成にやっつけられるし、洗い物も少ないから、すぐにフライパン1つで済ませがちなんですけど。
ぶたやま 私はテンパりやすいから、いろいろな材料をフライパンで調理しようとすると混乱しちゃうんですよね。だから「肉野菜炒め」にするよりも、ひき肉だけフライパンで炒めて、野菜はグリルで焼いて、玉ねぎはマリネして、最後にご飯と一緒に盛り付けちゃえ、となるんです。
――ツイッターで話題になった「ぶたやまライス」ですね。定番メニューを作りたい人からすると、「これで完成なの?」って思えるかも知れませんね。
●ぶたやまライス
「これ、ただ単にひき肉を炒めて、ピーマンときのこをグリルで焼いて、玉ねぎを酢と油でマリネしたものを組み合わせた、いわばワンプレートごはんです」(『ぶたやまかあさんのやり過ごしごはん』80ページ。写真は著者撮影)
ぶたやま 私の料理って「ここから調理するんだよね?」ってところで完成にしちゃうから、けっこう驚かれますね。「え、これ素材でしょ?」みたいな(笑)。
――1つに混ぜちゃうよりも味に変化があっていい、という人もいるかも知れませんね。
ぶたやま そうなんです。もちろん一緒にしちゃってもいい、でも品数減っちゃうよ?って思うんです。夜7時に帰ってきて、9時前には食べ終わりたい、でも品数もある程度欲しい、となると、よそから見れば「素材」の状態でも品数が稼げるほうがいいんじゃない、という発想なんですよね。