他人の言動に振り回されないための「回復力」 臨床心理士が「ラクに生きる」コツを語る

文=小澤佐知子
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Getty Imagesより

 家族や友人、職場……人と人とが関わる「共同体」は数多くあります。子どもがいたら、子どものコミュニティに加わる必要も出てきます。

 関わる人が増えれば、「人生が豊かになって楽しい」と感じる人がいる一方で、人とのコミュニケーションに悩み、相手の言動に大きなストレスを抱える人も少なくありません。 “心の疲労”は、人によって感じやすさが違います。

 どうしたら軽やかな気持ちで人生を楽しめるのか。そのマインドを育むには、コツがあるようです。そのヒントを求めて、臨床心理士・公認心理師の吉田美智子さんに話を伺いました。

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吉田美智子
「はこにわサロン東京」代表。臨床心理士、公認心理師、東京都スクールカウンセラー。外資企業勤務を経て38歳で心理学大学院へ。「自分らしく生きる・働く・子育てする」を応援。モットーは「わかりやすく伝える」こと。

他人の言動に振り回されないポイントは回復力

――他人の些細な言動を気にしてしまったり、振り回されやすい人と、そうでない人との間には、どのような違いがあるのでしょうか?

吉田さん:これは「回復力」がポイントになります。そもそも、他人からネガティブな感情をぶつけられたら、悲しんだり落ち込んだりするのは自然な反応です。ところが、これを受け流せたり忘れることができる人と、そうではない人がいます。前者は「回復力の高い」タイプですが、傷つきやすく囚われやすいのが「回復力の弱い」タイプです。この違いには、生まれ持った性格だけでなく、過去の体験も大きく影響します。

――具体的には、どんな体験でしょうか?

吉田さん:例えば、過去に受けたイジメやハラスメント、安心や信頼を築けなかった親子関係などがケアされないまま成長すると、他人の様子に過剰な反応を示してしまうことがあるのです。

――回復力の弱い人が、他人の言動に対して過剰な反応をすることなくうまく回避する方法はありますか?

吉田さん: 嫌な出来事が起きたときに、「個人的に反応せず、内容にフォーカスして対応する」という方法があります。例えば、上司からきつく注意をされたとします。

 ここで、「上司が自分をきつく注意したのは、自分が至らないからだ」と上司の感情表現にフォーカスして反省することもできますが、上司の望む修正を行うことにフォーカスすると自分が不要に苦しむことなく良い成果を出すことができます。

――なるほど。自分の心をどこにフォーカスするか、それによって物事の局面が変わりますね。

他人の感情に振り回されないよう心理的な距離をおく

――繊細で傷つきやすい人は、「こうしたら良かったのに」「あなたって、〇〇ですね」というアドバイスや指摘にも、ストレスを感じる傾向があると思います。このようなケースは、どう対処すべきでしょうか?

吉田さん:アドバイスと称して後から「こうしたら良かったのに」とか「あなたって、○○ですね」(人格否定になりやすい表現)をされると、「自分が悪かったの?」と感じてしまい苦しくなりますよね。アドバイスしてくれた行為に対して感謝を伝えて、内容は受け流しても構いませんよ。

――自分に対して直接働きかける言動ではなくても、「そばにいる人がもつ不穏な感情に触れていると、自分も疲れてしまう……」というケースもあると思います。このような場合はいかがでしょうか?

吉田さん:誰でも感情表現をする自由はありますから、寛容にとらえて受け流せるといいですね。イライラをぶつけられたり目の前でアピールされても「自分のせい?」と思う必要はありません。「この人はイライラしているんだな」と中立的にとらえて距離をとりましょう。自分が解決しようと思う必要はありませんが、穏やかな態度で接するとお互い気持ちが落ち着きます。

一日の終わりに「お疲れさま!」と自分を労う

――日本には、繊細であるがゆえにストレスを抱えている人が少なくありません。そうなってしまう背景には、社会環境も影響しているのでしょうか?

吉田さん:日本では「自分の希望を自分の口で言うのは図々しいから言わない」、だから「相手の願いを察して動くのが大切」とされる習慣があります。人を思いやることは良いことですが、自分より相手を優先する態度が行き過ぎると、誰のために生きているのかわからなくなります。そして相手の願いを細やかに察することができる人が「ちゃんと相手の気持ちを汲んで動かなきゃ」と思い詰めてしまうと、とても苦しくなるのです。

――ラクに生きていくためのコツはありますか?

吉田さん:他人の気持ちを一方的に読もうとしないことが大切です。「何かお困りですか?」「わたしにできることがありますか?」と言葉で問いかけながら、「言いにくいことがあってもぜひ言ってくださいね」という気持ちを態度で伝えましょう。それでも相手が言ってこないなら、こちらがそれ以上、勝手に思い悩む必要はありません。相手には“言わない自由・断る自由”もあり、勝手に心配したり手出しをすることは“やりすぎ”“やらなくてもいい”のです。

 もし相手が不当に自己犠牲を強いてくる場合は、ハラスメントの可能性があります。相手との距離をとり、そのことについて信頼できる人に相談しましょう。

 自分の気持ちやコンディションを整えて、自分のことも大切に扱いましょう。お勧めなのが、一日の終わりに自分に「お疲れ様!」を言うことです。

――一日の終わりは反省で締めくくりがちですね。

吉田さん:自省を否定しているわけではありません。ただ、反省のし過ぎでわが身を削るのは不当ですよね。生きていれば色々なことが起きます。不運な日、失敗続きの日もあるでしょう。それでも、今日をがんばって乗り切った自分には温かいねぎらいの言葉が必要です。自分を大切にケアすると回復力や自己肯定感を持つことができるようになりますから、ぜひやってみてください。

(取材・文=小澤佐知子)

次回は、「パートナーにイライラや不満をぶつけてしまう理由」を伺います。

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