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ICTを活用した教育の中で、今最も注目を集めているのは、恐らくオンライン学校ないしはネット学校と呼ばれるものだと思います。日本だと、N高等学校がこれの走りではないでしょうか。
N高等学校は、著名人を講師に招いたり、東大合格者を排出したりと良い面で注目を集める一方で、進学率の粉飾や教員の過酷な労働環境といった好ましくない点でもメディアを賑わせています。
アメリカでもオンライン学校は世間の注目を集めています。しかし、日本と違う点は、このオンライン学校に関する学術的な分析が進められている点です。そこで今回は、オンライン学校の今後の展望を理解するために、アメリカにおけるオンライン学校の状況を解説していきたいと思います。
アメリカのオンライン学校の特徴
アメリカでオンラインスクールは、e-school・サイバースクール・バーチャルスクールなどとも呼ばれています。統一された呼び名が存在しないことが示唆するように、アメリカでオンライン学校が拡大したのは最近の話です。
オバマ政権誕生前後から創設され始めたフルタイムのオンラインスクールには、現在では30万人を超える生徒が在籍しており、この形態の学校は過去10年間で急拡大しました。
米国国立教育政策研究所は、毎年オンライン学校に関する報告書を出版しています。2021年度版に、いくつかの興味深い点が言及されているので紹介しましょう。
一つ目は、オンライン学校の運営主体です。オンライン学校に在籍する生徒の3/4は伝統的な公立学校ではなくチャータースクールで学んでおり(チャータースクールは日本語で公設民営学校と呼ばれています。詳しい解説は、こちらを参照ください)、その中でもとりわけ非営利ではなく営利型の団体によって運営されているところで学んでいるようです。この点は後に重要なポイントとして再び出てきます。
二つ目は、学んでいる生徒についてです。前回、オンライン授業は社会経済的に恵まれない生徒の間で悪影響が出る恐れが高いことに言及しました(新型コロナで導入が進む、ICTを活用した教育の効果とは?)。しかし、オンライン学校に在籍している生徒を見ると、アメリカ全体と比較して、裕福な白人の生徒の割合が高いようです。
さらに気になる点があります。現在の教育長官がそうであったように、アメリカには英語が母語ではないが故に英語の学習支援を必要としている生徒が1割ほどいます。オンライン学校ではこのような生徒の割合が極端に低いだけでなく、障害を持った生徒の割合も低くなっているのです。
これは、運営主体が営利団体であることが関連していると考えられますが、基本的に教育コストが低い生徒をオンライン学校が集めているか、裕福な家庭が貧しい家庭の子供達から逃れるためにオンライン学校に逃げているのか、またはその両方がオンライン学校拡大の背景に存在することを示唆しています。
最後は教員一人当たりの生徒数です。教育活動は人が中心であるので、教育予算に占める人件費は国地域によって違いがあるものの7-8割程度にのぼるのが一般的です。このため、教員給与をどの程度にするか、教員一人当たりの生徒数をどの程度にするかは教育コストに大きな影響を与えます。これを踏まえた上で、オンライン学校は全米平均よりも教員一人当たり生徒数が70%近く多いことを考えると、営利団体がその運営の主力であるだけあり、オンライン学校は教育コストを抑えにかかっていることが読み取れます。
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