ヘイトにノーを突きつける根拠 『ヘイトをとめるレッスン』訳者たなともこさん、相沙希子さんインタビュー

文=太田明日香
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――相さんはどんな人に読んでもらいたいですか。

 ヘイト表現が自分ごとじゃない人、そしてヘイト表現はなくなってほしいけど、どう向き合ったらわからないという人に読んでもらいたいですね。わたしもそうですが、ヘイト表現がいかにマイノリティのアイデンティティを破壊するかや、社会から排除するものなのかを知ってインパクトが大きかったんです。だから、女性にも男性にもどんな人にも読んでもらいたいです。若い世代には特に。

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相沙希子さん

 それから、マイノリティの人たちにも大切なことが書いてあると思います。わたしは韓国に来て初めて外国人という弱い立場になって、だれでもいつ弱者になるかわからないと思いました。マイノリティになってみて、社会にヘイト表現を規制する法があることがいかに大事かわかりました。法があれば対応できる勇気を持てるし、ヘイト表現を差別だと捉えられる。だから泣き寝入りしないで済むという支えになるのではないでしょうか。また、身近な人の議論するほどではないけど、偏見や差別心から起こったようなからかいや発言に対して、何か言い返したいときにたしなめる根拠になるんじゃないでしょうか。

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 日本ではヘイトスピーチ以外に障害者やアイヌ民族や部落差別に対して差別を個別に禁止する法律がある。しかし、差別はそれだけではないし、それらが複合的に絡み合う場合もある。それらに対処するためにも、包括的差別禁止法を作ることが求められている。一方で差別的な言動を禁止するような法律は表現の自由の制限につながるという意見もある。果たしてそれは、マイノリティの立場から見た時にもそういえるのだろうか。

 出版元のころから代表である木瀬貴吉氏によると、「意見とヘイト表現の線引きになるのは沈黙効果があるかどうか。「沈黙効果」とはその言葉によって何も言えなくなってしまうような言動で、具体的にはその言葉を文字通りにではなく発せられた意図を察知し、時に沈黙せざるをえないのがマイノリティではないか」。つまり、「表現の自由」をたてにして何を言ってもいいわけではない。

 この本の原題は『ことばがナイフになるとき』だが、使い方を誤れば言葉はナイフのように人を傷つけ、ときにはアイデンティティをズタボロにする。誰でも気軽に言葉を発信できる社会になったからこそ、その言葉にどんな効果があるかを自覚して使わないといけない。

 また、木瀬氏は「一方で、マジョリティというのは多くの問題において何を言われても意見として受け止められる特権性がある。差別する意図がなかったとしても、それが差別の効果を生んでいるのであれば、その意図よりも効果を問われるべき。また、それを指摘できる立場にあるのがマジョリティなのだから、ヘイトをとめることができるはず」と話す。

 ヘイトをとめると言われてもなにをすればいいかわからないが、当事者でなくともなにがヘイト表現にあたるのかを知り、自分の立場と言う場所や言う相手、言った効果を考えてことばを発するような小さなことからでもできることがある。ヘイトをとめるのは過ごしやすい社会の雰囲気を作る一人一人のそういった気付きと実践によって始まるのではないか。

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