『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』が教えてくれる、フェミニズムの「可能性」

文=エミリー
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自分の生きてきた環境が「当たり前」「普通」ではない

 この本ではさらに、フェミニズムやフェミニストが、「性別」による差別の問題だけではなく、「階級」や「人種」の差別や問題についても向き合うべきものであることを教えてくれます。

 かつて主流なフェミニズムを担っていた、比較的裕福な特権(中産)階級の白人女性たちは、階級や人種の問題からは目をそらし、自分たちが同じ特権階級の白人男性と同等の地位や仕事や労働条件を得ることだけを目指していました。

 それがある程度実現すると、今度は自分たちが外で働く代わりに家事を安い賃金で労働者階級や有色人種の女性たちに押し付け、これまでの男女間と同じように、自分より立場の弱い女性たちを自ら抑圧し搾取しようとしたといいます。ベル・フックスはその事実を指摘し、それはフェミニズムの考えに反するものであると厳しく批判します。

 たとえ階級や人種の問題を意図的に見て見ぬふりをし、搾取しようとするのではなかったとしても、私たちはどうしても、自分が育ち、生きてきた家庭環境や職場環境、生活水準、価値観を「当たり前」や「普通」と思い、自分に見えている世界以外のことを見落としてしまいがちです。

 2019年の東京大学の入学式祝辞で上野千鶴子さんが話されていた内容も、まさにそのことについて指摘するものでした。つい最近ニュースで取り上げられて話題になった、経済的な理由や親のネグレクトなどから生理用品を十分に手に入れることが出来ない学生が一定数存在するという「生理の貧困」問題も、「まさか今の日本でそんな状況があるなんて」と、多くの人たちにとってにわかには信じられないような大きな衝撃だったと思います。単純に「女性」という性別だけでは語れない問題が存在することについて、改めて気づかされ、考えさせられることになったのではないでしょうか。

 こんなふうに、「敵」の正体を見誤らず、まずは自分自身の中に内面化された差別的な考えと対峙しなければならないという、広い視野と自己批判のまなざしを読み手に与え、正しい方向へと導いてくれるところが、この本をフェミニズムの入門書として心から信頼し、ぜひおすすめしたいと思う大きな理由です。

 強い権力や立場を持つ人(マジョリティ)が、弱い立場の人(マイノリティ)を支配し搾取し抑圧するという構造を変えていこうとするフェミニズムの運動は、単に性別による格差や差別の問題だけでなく、階級や人種、セクシュアリティなどの問題も視野に入れ、あらゆる人が不当に差別・搾取されることなく、その人らしく自由に安心して生きられるようになることを目指しています。

 そうなると、もはやフェミニズムは「女性だけのためのもの」や「男性と対立するもの」ではなく、むしろこの社会に生きるすべての人の生活や抱える問題について考え、その改善や解決を目指す思想であり行動だ、ということになるのではないでしょうか。少なくとも私はそう、信じています。

 まだまだ誤解や対立の多いフェミニズムですが、学びや理解を深めていくほどに、決して忌み嫌うべき敵などではないことがわかってきます。フェミニズムがあらゆる人たちにとって(もちろん男性にとっても)、自分を今より解放させ生きやすくさせてくれる手がかりになりうる、“みんな”にとっての心強い味方であり仲間であることが、この本をきっかけにもっと多くの人のもとへ届くことを、願わずにはいられません。

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