身体の仕組みや命の尊さだけではない「生理の絵本」 すべての子どもに包括的な性教育を

文=雪代すみれ
【この記事のキーワード】

 「赤ちゃんってどうやって生まれるの」……もしお子さんに突然そう聞かれたら、答えられますか。

 近年、「性教育の重要性」が知られ、世間の関心は高まりつつあるものの、具体的にどう教えたらいいのか、悩んでいる保護者の方は少なくないと思います。

 そんなときに助けてくれるものの一つが「絵本」です。今年5月に性教育の絵本『げっけいのはなし いのちのはなし』(みらいパブリッシング)を上梓した、性教育講師の大石真那さんに話を聞きました。

身体の仕組みや命の尊さだけではない「生理の絵本」 すべての子どもに包括的な性教育をの画像2

大石真那(おおいし まな)
兵庫県在住。神戸大学医学部保健学科卒業後、2004年に保健師として兵庫県庁に入職。 2017年の第4子出産を機に性教育の重要性に気づき、主に乳幼児の保護者向けの性教育講座を開始。 現在はフリーの性教育講師として活動している。3男1女の母。 Amebaブログ「4児ママ保健師まなっぺのブログ」

「赤ちゃんってどうやって生まれるの?」の答え方

身体の仕組みや命の尊さだけではない「生理の絵本」 すべての子どもに包括的な性教育をの画像3

『げっけいのはなし いのちのはなし』(みらいパブリッシング)より

——まず、大石さんが性教育活動を始めたきっかけをお伺いします。

大石真那さん(以下、大石):私は元々、県の保健師として働いていました。その中で、望まない妊娠の相談を受けたり、保健所で行っている性感染症の検査を不安そうに受けに来る若者の姿を見たりして、問題意識を持っていたんです。ただ、当時は仕事として性教育に取り組む機会はほとんどありませんでした。

 本格的に性教育に関心を持ったのは、第四子の妊娠がきっかけでした。第四子だけ女の子なのですが、女の子だとわかったときから「望まない妊娠をしないでほしい」など、女の子の心と体を守るためにはどうしたらいいのか考え始めました。

 また、妊娠中に8歳の長男から「赤ちゃんはどうやってお腹に来たの?」と聞かれたことも、性教育活動を始めるきっかけになりました。その時は『あっ! そうなんだ! 性と生』(エイデル研究所)という絵本の力を借りながら、子どもに伝えるべきことは伝えられたのですが、子どもは突然その質問をしてくるので、聞かれる前にシミュレーションをして、心の準備をしておく必要があります。保護者が恥ずかしくなってしまうこともあるだろうと思って、子どもに性を「どう伝えるか」ということを考えるようになりました。

 そして、調べれば調べるほど、家庭で性教育に取り組むことにはメリットがあることがわかり、それを同じように子育て中の人に情報をシェアしたいと思ったことから、育休中にボランティアで性教育講座を始めました。

——お子さんから「赤ちゃんはどうやってお腹に来たの?」と聞かれたとき、大石さんは具体的にどのように答えたのですか。

大石:8歳の長男には「どう思う?」と聞き返しました。息子は「お母さんの細胞の一部が赤ちゃんになったのかな?」と答えたので、「それだとお父さんの要素は入ってないんじゃないかな? 知りたい?」と聞いたら知りたがったので、そこからは『あっ! そうなんだ! 性と生』を用いて、具体的な話をしました。

 お父さんが持っている赤ちゃんのもとである「精子」が、お母さんが持っている赤ちゃんのもとである「卵子」のところに辿り着いて、赤ちゃんになっていくんだけれど、精子は空気に触れると死んでしまうので、お父さんのペニスを使って、お母さんの体の中に運ぶんだよ、とイラストを見せながら説明しました。

——お子さんからはどういった反応が返ってきましたか。

大石:長男は驚きつつも、「お父さんとお母さんは、少なくともこれを4回したんだね」と納得していました。6歳と3歳の次男と三男は、動物番組が好きなので、「交尾だよね?」と、「人間も動物の一種だから、交尾をして子孫を残す」と理解したようでした。小さい頃の方が、恥ずかしいものではなく、生物の仕組みとして受け入れられるとは聞いていたのですが、それを実感した瞬間でした。

——性教育講座には父親の参加も見られますか。

大石:私の講座は圧倒的にお母さんの方が多いです。自発的に関心を持って来てくれるお父さんは本当にわずかで、参加があったとしても「妻に言われて来た」という人がほとんどです。

 講座に参加したお母さんは「女の子だけでなく、男の子にも性教育が必要」という意識でいらっしゃる方が多いのですが、参加者からは「夫は『そんなに早く教えるものではない』と言っている」や、「夫は性教育の重要性を理解していない」と聞きます。

 夫婦間でこうした差が出るのは、生きていく中で、女性の方が性に関する問題に直面する機会が多いという違いからかもしれません。それに、男性はまだまだ「性教育=エッチなこと」のようなイメージの人も多いのかもしれませんね。しかし、性に対する価値観は、家庭から大きな影響を受けることも多々あります。両親が同じ認識を持ってお子さんに接していくのはとても大切なことだと思いますので、お父さんにももっと講座に参加してほしいです。

男の子にも生理について知ってほしい

身体の仕組みや命の尊さだけではない「生理の絵本」 すべての子どもに包括的な性教育をの画像4

『げっけいのはなし いのちのはなし』(みらいパブリッシング)より

——『げっけいのはなし いのちのはなし』の制作の背景についてお伺いします。

大石:性教育に関する良い絵本はすでにあるものの、月経については基礎的なことしか書かれていないものばかりでした。性教育講座の参加者から「子どもに生理について教えるのにおすすめの絵本はありますか」と聞かれてもすすめるものがなかったので、「ないなら作ってしまおう!」と思っていたところ、今回の出版社とご縁をいただき、出版に至りました。

——本作を執筆するにあたり、「月経について詳しく書かれている」以外で、こだわったポイントはありますか。

大石:一つ目に、男の子を主人公にしたことです。息子が通っている学校では、未だに小学4年生のときに、女子だけ集められて月経の説明を受けています。男子からすれば、月経は隠されたものであって、子どもの頃はからかったり、大人になっても月経の辛さが理解できないという問題が生じます。

 生理は女の子の体に起きることですが、女の子だけが知っておけばいいことではないですよね。「男女それぞれ体の違いを知り、それを尊重し合いながら生きていくことが大切」なので、「男の子にも知ってほしい」という思いから、男の子を主人公にし、「からかわずに見守ってあげようね」というメッセージを込めています。

 二つ目に、「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」の考え方を入れている点です。「月経は命を繋ぐ大切なもの」ですが、「月経があるから赤ちゃんを産まなくてはいけないのか」と問われれば、そうではない。「産む/産まない」の選択や、いつ・何人産むのかも自由であると伝えることも、性教育において大事なことです。

——対象年齢はどのくらいを想定されていますか。

大石:幼稚園生から小学校3年生くらいまでを想定しています。ユネスコの性教育基準である『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では、5歳から包括的な性教育を始めることが推奨されているので、『げっけいのはなし いのちのはなし』もそれを考慮して作りました。上限を小学校3年生と想定しているのは、恥ずかしがらずに聞いてくれる年齢がそのくらいまでだと感じているためです。しかし実際は、「それ以上の年齢のお子さんや、大人でもとても勉強になる」とのご感想をいただいています。

——エッチなものとして描かれているわけではなくとも、大人にとってはセックスのイラストや、「セックス」という言葉のハードルが高いように感じます。大人のタブー感を取り除くためには何が必要でしょうか。

大石:私自身は、絵本に載っていたセックスのイラストも含め、子どもに説明したのですが、私の講座では「こんなイラスト見せられません」と仰る方もいて、「無理をしないでください」とはお伝えしています。

 というのも、「恥ずかしいけれども性教育をしなければいけない」という考えでは、子どもに真意は伝わらないと思うためです。「恥ずかしい」と感じる保護者さんには「まず、ご自身の性の価値観やバイアスを見直してください」とお伝えしています。なぜ恥ずかしいと感じるのか、そして、何のために性教育をするのか。性教育を通じて子どもに何を伝えたいのか、まずは大人が見直す必要があると思います。

——なぜ大人は真面目な性の話でも「恥ずかしい」と感じてしまうのでしょうか。

大石:日本の性教育の遅れが関連していると感じています。一時期は「性教育をきちんとやっていこう」という流れがあったのですが、2000年代に「行き過ぎている」と性教育がバッシングを受けた過去があり、「寝た子を起こすな」の風潮が強まってしまいました。しっかりとした性教育を受けることで、むしろ性交に慎重になるという研究データが出ているのですが……。

 学校で習わないわりに、性的なものは至る所に溢れており、正しい情報を学ぶことなく、「性的なこと=エッチなこと」という印象がついてしまっているのだと思います。

 また、『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では、ポジティブなセクシュアリティ観を伝えていくことの必要性が書かれていて、それに準じて性教育を行っている国ではセックスに関しても、リスクだけでなく、コミュニケーションや気持ち良さの面からも教えています。しかし日本では、性感染症や避妊など、ネガティブな情報が中心ですよね。そういった点からも、性に対するタブー視があるのではないでしょうか。

1 2

「身体の仕組みや命の尊さだけではない「生理の絵本」 すべての子どもに包括的な性教育を」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。