ワクチン接種だけで日本経済は回復しない。菅政権はアフターコロナ、脱炭素社会の青写真を示せ

文=斎藤満
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Getty Imagesより

政権をかけたワクチン推進

 6月9日、菅義偉首相が就任後初めて行った党首討論で、菅首相はワクチン接種こそ、感染抑止、経済支援の「万能薬」との強い期待を表明しました。

 政権を揺るがす内閣支持率の低下も、その発端は新型コロナ対応のまずさがあります。国民の圧倒的多数が政府のコロナ対策に不満を持っていることが各種世論調査で明らかになりました。これを挽回するうえで、ワクチン接種に大きな期待が寄せられています。

 実際、ワクチン接種が進むイスラエルや英国、米国では感染抑制のためにとられた各種規制が緩和され、徐々に経済や国民生活が正常化に向かっています。戸外でのマスク着用の義務も緩和され、英国のビーチにて多くの家族が水と戯れる映像が流れました。イタリアなどでは海外旅行もできるようになり、米国では大リーグの観客制限がなくなり、ブロードウェイの劇場再開の準備が進んでいます。

 一方、日本ではワクチン接種が主要国の中で最も遅れているとの批判が強まり、今や何を差し置いてでもワクチン接種を増やすことに全力を挙げています。東京や大阪に大規模接種会場が設けられた結果、6月に入って接種回数が累計で1000万回を超えました。それでも100人当たりの接種回数は、米英で80回を超え、遅れているとされるユーロ圏でも40回になるのに対し、日本ではやっと10回を超えたところです。

 今や、菅政権の周囲では、すべての苦境がワクチンで解決するかのような過大な期待も感じられます。ワクチン接種の拡大で感染拡大が抑制されれば、また「キャンペーン」を再開して経済の立て直しも可能と考えています。しかし、ワクチン接種は政府が期待するほどの万能薬ではありません。全面依存は危険です。

英国で感染が再び増加

 まず、ワクチンのウイルス感染抑止効果にも限界がありそうです。ワクチン接種が最も進んだ国の1つ、英国の事情がこれを示唆しています。英国での1日の新規感染者数のピークは今年1月5日の7万6千人強ですが、その後ワクチン接種の拡大の中で急速に減少し、5月には1日の感染者数が2000人を割り込むようになりました。

 ところが、その後また次第に感染者数が増えるようになり、6月5日には5600人を超えました。一旦は感染者が急減したので、規制はかなり緩和され、日常が戻りつつありました。しかし、人口が日本の半分の英国で、最近では1日の感染者数が日本よりも多くなってきました。

 ワクチン接種率が高まったとはいえ、まだ集団抗体を獲得するまでの水準に達していないか、変異株の出現によって、ワクチンの効果が低下している可能性が指摘されます。

 同じようにワクチン接種率が高い南米チリでもまた感染が拡大するようになっています。欧米ではワクチンの効果に安心したか、マスク着用義務などこれまで行ってきた規制を緩和し、イベントや飲食の自由度も高めています。

 欧州では海外渡航の規制を緩和し、海外旅行も可能になるケースが増え、フランスは日本からの旅行者を受け入れる方針と言います。こうした緩和措置が、英国のように再び感染を拡大させるリスクが出てきました。それだけに、日本でもワクチン接種の進展が感染を抑制し、経済や生活の正常化につながるかどうか、慎重な見極めが必要になります。

経済対策も急務

 米中の景気好調を横目に、日本の景気低迷が目立ちます。1-3月のマイナス成長に続いて、4-6月期も連続してマイナス成長となるリスクが高まっています。緊急事態宣言の延長で営業自粛や休業要請が長く続いたためです。時短や休業要請に応じた飲食店からは、協力金がまだ支払われず、苦しいとの声が聞かれます。

 政府はまずワクチン接種を推進し、秋にも補正予算を組んで景気対策を、と考えているようですが、時間の猶予はありません。従業員に給料が支払えず、昨年借りた支援融資の返済時期に来ても返済原資がなく、経営を維持できなくなるぎりぎりの企業が増えています。五輪のディレクターに日給35万円も払ったり、IOC役員の宿泊に1泊100万円も払う前に、これまで協力してきた企業への支援を考えるべきです。

 G7で環境問題、脱炭素を議論しても、日本では具体的なビジョンがなく、業界や企業に任せきりで、EV(電気自動車)もリチウムイオン電池車か水素エンジン車か、バラバラに動いています。脱炭素で鉄の溶鉱炉や発電はどうするのか、プラスチックごみ、海洋汚染にどう対処するのか、政府が青写真とカネを用意している米国には、はなから大きなハンデを背負っています。

 ワクチンは経済のエンジンになるわけではありません。日本経済が世界の潮流から取り残されないためにも、経済支援策が急務です。

(斎藤満)

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