かつての「渋谷系」アーティストが発信する反グローバリズム&自然派メッセージ

文=山田ノジル
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Getty Imagesより

 90年代のカリスマモデルだった吉川ひなのが今、量産型自然派ママになっていた件をご紹介したのが前回のこと。今回は同年代のカルチャーである「渋谷系」にスポットを当ててみたいと思います。当時活躍したアーティストたちのあいだにも、現在チラホラとトンデモが見られるもので。

 渋谷系とは、90年代前半に渋谷区宇田川町界隈を発祥として、局地的なムーブメントとなったJ-POPジャンルのこと。代表的なアーティストはフリッパーズギター解散後の小沢健二&小山田圭吾、ピチカート・ファイヴ、カジヒデキ、オリジナル・ラブ、スチャダラパー、ラヴ・タンバリンズ、U.F.O(United Future Organization)など。ファッション面では、当時のメインカルチャーがアムラーを象徴するギャル系であるなら、サブカルである渋谷系はフレンチカジュアル。たいへん大雑把な説明ですが、だいたいそんな感じでしょうか。

まずは「プリンス」から

 まずトップバッターは、渋谷系の王子様と呼ばれた小沢健二(以下オザケン)からいってみましょう。※オザケンについては2016年に当連載でとりあげていますので、一部再録しながらコンパクトに。

 オザケンが音楽活動を休止したのは98年のこと。その後渡米し、再び音楽シーンに姿を現すまでには、ざっと十数年の空白期間がありました。この間に環境問題のフィールドワークを行い、社会風刺小説「うさぎ!」を発表していたのは、巷で広く知られているとおりです。その小説を通じて語られる主張は、皮肉屋でメランコリック、でもポップかつユーモアもあり「さすが高学歴アーティスト※」と圧倒されるオザケン節でありました。 ※オザケンはインテリ一家の出身であることで有名。叔父は世界の小澤征爾で、父はドイツ文学者、母は心理学者、自身は東大卒。

 ところがお題は、かつてよく歌っていた恋愛模様ではなく、資本主義や政治の在り方に疑問を投げかける、反グローバリズムについて。「今夜のダンスフロアー」とか「子猫ちゃんにねだられプラダの靴を買いに行くウキウキなボク」を歌っていたオザケンが……! と、脱・王子後の姿に面食らったものでした。

 さてオザケンは、現在2児の父です。育児についても、家族間でその反グローバリズムの思想が共有&反映されていそうなのがすごい。オザケン妻×実母が、対談本『老いと幼なのいうことには』(エリザベス・コール、小沢牧子著/小澤むかしばなし研究所)で、粉ミルクは消費社会の支配・母乳育児は権力と資本からの解放であると熱く語り合っているのです。

 オザケン一家が粉ミルクをディスるそれは「自然派ママあるある」でよく見かける、母乳マウンティングとは別次元のものを感じます。貴族が高みから社会全体を俯瞰し、世を憂いているのかのような……。でも、ご高説が下界に広まるころには、俗っぽい陰謀論になってしまうのが世の常。トンデモの源流にオザケン一家! という衝撃の地獄絵図が、局地的にどこかで発生している気がしてなりません。

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