かつての「渋谷系」アーティストが発信する反グローバリズム&自然派メッセージ

文=山田ノジル
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「女王」はトンデモケアにご執心

 本人にトンデモ要素はさほど見当たらないけれど、トンデモ布教者に弟子入りしているという残念なケースもあります。それは、渋谷系の女王・野宮真貴(以下、野宮)。音楽ユニット「ピチカート・ファイヴ」のボーカル兼ビジュアル担当として大活躍した後、解散後もファッションリーダーとして吸引力を見せつける、サブカル界の松田聖子※です。 ※80~90年代の女の子の夢をすべてかなえているということで、プロデューサーの湯山玲子が野宮との対談本でこう呼んでいた。

 パーティピープルでハッピーでキャッチー。勝手な想像ですが、夜な夜な西麻布や青山あたりのクラブをタクシーではしごしていた大人の遊び人というイメージ。そんなオシャレ貴族たちがきらびやかな東京の夜を遊びまわるファンタジーを長年供給してくれた女王・野宮ですが、2010年から肩書に「フィトセラピスト」が加わっています。金田一さん、事件ですよ。なぜならフィトセラピストの資格を取得したのが、昨今「膣ケア」を絶賛啓蒙中の森田敦子氏が運営しているスクールなんですから。

 森田氏がフィトセラピーの見地から語る膣ケアはとにかくすごい。膣が乾燥すると子宮にも影響が出て、ホルモンバランスが崩れる。セックスレスやセックスに淡白なことも乾燥の原因。すると老化は一気に加速して、更年期障害がひどくなる。いやそれ膣だけの問題でも、そんな単純な話でもないだろ! ということで、数年前から当連載ではトンデモ認定している物件です。

 野宮の著書『赤い口紅があればいい』(幻冬舎)によると、更年期の不調を自然な療法で解決し、軽やかに過ごしたいと思ったのが、フィトセラピーを学ぶきっかけだったそう。資格を取得した当時は、今のようなトンデモ膣ケアブームが発生していなかった頃でしょう。そのためか、師匠の森田氏ご執心の膣ケアは一切登場せず、ハーブティーで更年期特有の症状をケアしたり、家族の健康管理にも役立てていることがつづられています。また、2015年に口紅をプロデュースした際に「体に入っても安全な成分を」とフィトセラピーを応用し、ビタミンやハーブを配合しているそう。

 このようにトンデモ発信はないものの、森田氏のトンデモ布教にはバッチリ利用されてしまっています。野宮が森田氏を師と公言することで、森田氏の信頼度やトンデモ活動の幅が広がるでしょうから。

 『週刊文春WOMAN』連載の、野宮真貴・松本孝美・渡辺満里奈という3人組による「大人の『女史会』にようこそ。」にも、森田氏はゲストとして招かれています(Vol.9 2021年春号)。「女性ホルモン砂漠緑化計画」指南として、こう語る森田氏。

※( )内は山田ノジルのつっこみです。

・女性が性的に一番感じる年齢は60代から。ヨーロッパのマダムたちが赤い口紅をつけたくなる気持ちの根源をたどれば、膣周り。心じゃなくて子宮で感じているから。(女性は子宮で考える~みたいなお説、時代と逆行してませんかね。ちなみに赤い口紅が出てくるのは、野宮が著書で歳をとるほどに赤い口紅が似合うようになる、と主張しているから)

・膣周りのIOゾーンを脱毛してきれいにしておけば、蒸れたりかゆみが出ることもなくなり、尿漏れも予防できる(蒸れ・かゆみは毛の処理で解消されることもあるでしょうが、尿漏れは全く関係なくない!?)。

・膣の粘液は体の免疫機能を司る成分がたくさん入ってる。だから、粘液でしっかり潤っていると60代、70代、80代になっても、血管や粘液、内臓、ホルモン数値が整う。(さすがに言い過ぎだろ~よ)

・現代に生きる私たちは、生理用品が進化したおかげで24時間垂れ流していい、膣に力を入れなくてよくなった。(まさかの経血コントロール話キター)

・膣に経血をためておくという技術は、明治以降、近代化されたことで男たちがご法度にしてしまった。快感を追求することにもつながっていくので、女性の体に楽しみを与えちゃダメだ。家の中に閉じ込めろという意図があった。(ヤバい、三砂ちづる氏のDNAが森田氏に継承されている)

・とにかく健康には、粘液の分泌が大事! 気持ちよくなって積極的に触りましょう。

 満里奈&野宮は完全に外野ポジションで「(経血コントロールの)伝承が途切れたのはどうして?」「膣周りを潤すとはどういうことかを知りたい」と質問を振ることに徹していますが……ねえ。この連載でも「野宮の師」として登場していますから、野宮たちの吸引力によってマルッと信じるファンがいるとオモイマスヨ~。

 ファッショニスタとして活躍する女王も、これから一大産業となっていく更年期ケアの魅力は大きかったのでしょうか? もしくはちょっと先どり感のあったフィトセラピーが、キャッチーに思えたのでしょうか? このままどこまで森田氏についていくのか、それともそのうちしれっとなかったことにするのか。そのあたりが見どころです。

 余談ですが文春の連載、フリッパーズギター解散の原因ともウワサされた渡辺満里奈もいるのが渋谷系の話題としても、アツい。満里奈は昨今、ナチュラルライフの伝道師になっているようですね。

ミステリアスな歌姫の手腕

 最後は、体温の低そうなウィスパーボイスと美貌で、渋谷系のプリンセスと呼ばれたカヒミ・カリィ(以下、カヒミ)。渋谷系を知らぬ人でも、アニメ『ちびまる子ちゃん』の主題歌「ハミングが聞こえる」あたりはご存じでしょうか。「親近感」「等身大」といった言葉とは無縁な、ミステリアスな歌姫でした。

 カヒミも前出の2名同様、現在子持ちとなりました。渋谷系の時代から現在まで音楽活動を続ける傍ら、さまざまなメディアにも登場しています。そこで語られていたのは、スローライフ、マクロビ、ホメオパシー! ついでにエッセイ本には、娘の主治医として、反ワクチン団体の御用達的存在であった毛利子来(もうりたねき)医師が紹介されています。必要があれば適宜、標準医療のお世話になってはいるようですが、ここにもまた自然派ママが爆誕していたのです。いや、カヒミの場合は自然派というより、それらの世界で語られる「美しい物語」が、彼女の感性に響いたような気もしますけど。

 前回の記事で触れた吉川ひなのと近いジャンルに住みつつも、カヒミの著書にトンデモのテンプレ的トークがまったく出てこないのは決定的な違いでしょう。計算されているのか編集がうまいのか、感覚的に胡散臭さをカットするセンスが見事なのか。初エッセイ集『小鳥がうたう、私もうたう、静かな空に響くから』(主婦と生活社)では、西原式育児で知られる西原克成医師の主張が登場していますが、有名な西原式母乳育児の話はスルーして、つわり論をチョイスするセンスもちょっとすごい。「胎児がお腹の中で5億年の進化の過程を十か月でたどっている苦しさを、母親もつわりという形で共有する」というファンタジックなつわり論なんですよ、これ。「おっと、そこ行く~!?」と意表をつかれました。

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 さまざまなジャンルの音楽を切り貼りして、コラージュするテクニックに長けていた渋谷系。そんな彼らがトンデモに触れるときもまた、安易なテンプレは用いず、オシャレに上手にまとめている感がありました。音楽同様、語りも心地よく、思わず沼に引き込まれてしまいそうです。これってもはや、渋谷系の呪い? テンプレ三昧でわかりやすいトンデモのほうが、境界線がはっきりしている分、安全な物件と言えそうです。

 すっかり「あの人は今」状態になっているこのシリーズ。次回も続きます。

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