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■産婦人科医・宋美玄先生の妊娠・出産Q&A
Q. 妊娠中に旅行や遠出をしても大丈夫?
A. 妊娠中の旅行や遠出は慎重に。なるべく近場かつ空いているところへ。
産後、子どもが生まれて世話に追われると旅行に行きづらくなるから、夫婦だけで過ごしておきたいから……と、妊娠中にどこかへ出かけようと思う人は多いようです。以前、雑誌などで、妊娠中(マタニティ)の旅行が、「マタ旅」として取り上げられ、おおいに勧められていたせいもあるでしょう。
そして実際、妊婦健診の際に、妊婦さんから旅行にいっていいかどうか聞かれることは少なくありません。私は妊娠中の旅行を「絶対にしないほうがいい」とまでは言いませんが、赤ちゃんが生まれる前に気軽にどしどし旅行しようという風潮には疑問を感じます。
その理由の最大の理由は、妊娠中には何があるかわからないからです。昨日まで順調に経過していても、その翌日には何があるかわかりません。だから、いつでもかかりつけの病院に行けるところにいたほうが安心です。よく安定期に入れば安心だと思っている方がいますが、胎盤が完成して、つわりなどがなくなり、少し流産の可能性が下がる時期であって、必ず安心なほど安定している時期という意味ではありません。
また、必ずしもかかりつけ以外の妊婦さんが入院や分娩できる医療機関のあるところばかりではないことも理由のひとつです。たとえば、過疎地や離島などであれば、そもそも産婦人科がなく、産婦人科医がいないところも多いでしょう。実際、以前、産婦人科医のいない沖縄の西表島で妊婦さんを見かけて、何かあったらどうするのだろうと、とても心配しました。いつでもどこでも入院や治療や分娩ができるわけではないのです。何かあればヘリなどで救急搬送ということになるかもしれませんが、必ずしも治療が間に合うとも限りません。つまり母子ともに危険にさらされます。
ですから、妊娠中にどこかへ行く場合は、なるべく近場にしたほうがいいでしょう。人混みは感染症にかかるリスクが高く、また気分が悪くなるかもしれないので避けたほうが無難です。また、出かける際は、いざというときのために必ず母子手帳を持参し、事前に行き先近くにかかりつけ以外の妊婦さんを診てくれる病院を探しておくことも大切です。
なお、今は新型コロナウイルスの影響でなかなか行けないと思いますが、妊娠中の海外旅行はまったくおすすめできません。海外では医療保険が使えず、妊娠・ 出産に関しては旅行保険がきかないため、何かあった場合に数百万円から数千万円の支払いが生じることがあるからです。出産と同時に莫大な借金ができてしまっては困る人が多いのではないでしょうか。
そして、いずれにしても臨月になったら、いつ出産になってもおかしくありませんので、どこにもいかないようにしましょう。
<今回のポイント>
○ なるべく近場で混んでいないところがいい
○ 行き先の近くの産婦人科を確認
○ 母子手帳を持っておく
○ 臨月になったらどこへも行かない

宋美玄『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK-プレ妊娠編から産後編まで! 』(内外出版社)