「配膳ロボット」は外食産業をどう変えるか? 人とロボットが恊働するために必要なこと

文=A4studio
【この記事のキーワード】
「配膳ロボット」は外食産業をどう変えるか? 人とロボットが恊働するために必要なことの画像1

Getty Imagesより

 大手外食チェーンの一部で、「配膳ロボット」の導入が進んでいる。「焼肉の和民」や「幸楽苑」、「大戸屋」といったチェーン店がそうだ。

 導入の目的は、主に人手不足の解消や新型コロナウイルスの感染リスク回避のためである。配膳ロボットを扱う会社のなかには、外食産業企業に無料でレンタルするところもあるほど。今や、外食産業ではそれだけ配膳ロボットが推し出されているのだ。

 しかし気になるのは、その配膳ロボットが消費者にとって高い実用性を持つのかどうか。そして、お店にとって導入コストに見合ったパフォーマンスを発揮するのかどうかだ。

 そうした疑問を、フードアナリストの重盛高雄氏に配膳ロボットの開発の経緯とともに説明してもらった。

「配膳ロボット」は外食産業をどう変えるか? 人とロボットが恊働するために必要なことの画像2

重盛高雄(しげもり・たかお)/フードアナリスト
ファストフード、外食産業に精通しているフードアナリスト。テレビ、ラジオ、雑誌などさまざまなメディアに出演し、2017年には英国の「The Economist」誌で日本のファストフードについてインタビューを受けた。 フードアナリスト・プロモーション株式会社 

当初は用途未定だった「配膳ロボット」の前身

 コロナ禍になって以降、次々と採用された配膳ロボットだが、いつ頃から実用化に至ったのだろうか。

「現段階で最も導入が進んでる機種『PEANUTS(ピーナッツ)』が出来上がったのが2016年。開発当初は単なる“動くロボット”で、用途や展開される業界はまだ明確ではありませんでした。

 当初使われるようになったのは、ホテルや介護施設。例えばホテル利用客の荷物やルームサービスを運んだり、オフィス内のメールを配達したり。飲食店で積極的に活用され始めたのは、コロナ禍になってからだと思います。

 外食産業企業で『PEANUTS』の導入を先駆けたのは、2020年4月に使用し始めた宮城県の焼肉レストラン『東山』。その後、同年10月に『焼肉の和民』が導入し、様々なメディアで取り沙汰されました。ワタミグループが振るわない居酒屋から焼肉店へ業態転換する大きな動きとともに、多く話題に取り上げられたんです」(重盛氏)

 そうした経緯を経て、外食産業においても配膳ロボットが普及したようだ。そして、ここまでスムーズに導入が進んだのは、コロナ禍より前に東京五輪の開催が決定していたことに理由があると重盛氏は説明する。

「東京五輪は、当然ですが新型コロナ流行以前は通常通り開かれる予定でしたよね。ですからさまざまな言語や習慣を持つ外国人が来日した際に、対応できる機械の開発はもともと進められていたんです。それが、結果的にコロナ禍になって以降の“非接触が推進される環境”のなかで活かされた、ということです。

 今では、『PEANUTS』の採用台数は全国で150台(今年5月時点)を超えています。開発したのはKeenon(キーン・オン)という中国の会社で、今や世界60カ国で導入されており、グローバルネットワークの目線を持っているのが強みです」(重盛氏)

配膳ロボットを導入することによるメリットとデメリット

 人手不足の解消や感染リスクの回避以外にも、配膳ロボットを導入するメリットはあるのだろうか。

「今年4月から施行された『高年齢者雇用安定法』によって『70歳までの就業確保措置』が事業主の努力義務になりました。ですから、企業側は70歳までの雇用を確保するための職場環境の整備も必要になってきます。

 65歳から70歳で、頭はしっかり働くけれど体がそこまで動かないという方は、多くいらっしゃると思うんです。飲食店における一番の課題は配膳と下膳なので、そうした点を配膳ロボットで補い、協働していくことで、高齢の方でも引き続き業務ができるようになりますよね。

 もちろん人でなければできない業務もありますが、ロボットでも代替できる業務は増えてきています。今後は人とロボットの役割分担の明確化が必要になってくるでしょう。働きたいという意欲がある人の体力の低下をどう補っていくか。それが、これからの生産労働人口の減少という課題に対する解決手段のひとつだと考えます。配膳ロボットは、お客さんだけではなくて従業員を守ることにもなるんです」(重盛氏)

 今後の日本の未来にも繋がっていきそうな話だ。そして、気になるコストについてだが、意外にも導入費用は安く抑えられるという。

「レンタルでは1台につき月額4万円弱で借りることができます。他にはソフトを組み合わせたりネットワーク機能をつけたりして追加のオペレーション費用がかかりますが、そこまでかさみません。一回の充電で12時間動きますし、『文句を言わず、休暇も取らない優秀な補助員です』なんてエッジの効いた宣伝文句も謳っていますね。

 ただ、デメリットもあります。問題になるのは動線確保の部分。今はコロナ禍で通常時の半分程度しかお客さんが入っていないなかで、運用している店舗がほとんどでしょう。だからどうにかなっていますが、お客さんが戻ってきて人がごった返す環境になったときに、動線を確保できるのかどうか。そこが今後の課題になってくるでしょう。広い通路のあるお店ばかりではありませんからね」(重盛氏)

重要なのは人とロボットの“役割分担”

 配膳ロボットを導入しているお店に行ったことがある方の声を聞くと、「配膳ロボットの横にスタッフがつきっきりだった」という本末転倒な光景を目にすることもあるようだ。一部で、ロボットの機能を活かしきれていないのではないか、という声もあるが……。

「やはり、役割分担がきちんとできているかどうかは非常に重要なんです。ここは人がやる、ここはロボットがやるといった棲み分けですね。

 例えば、そのお店では下膳だけロボットがすべきところを、異なる用途に使ってしまうだとか、そうしたオペレーションがきちんとなされていないと、内容物をこぼしたり落としたりして、人が隣につかざるをえなくなってしまいます。他には、配膳ロボットのオプションで、こぼれそうなものを運ぶときに有効なトレーが付いてきます。そうしたものは素直に利用すべきでしょう」(重盛氏)

 なるほど。どういった目的で配膳ロボットを利用するかによって、メリット・デメリットも変わってくるということか。

「また、経営者が人員を減らすことを主たる目的として導入すると、戦略的に失敗してしまう可能性があります。人を減らすというより、人と共存してより良いサービスを提供するものとして機能させることが最も効率的。人とロボットがお互い補いあうような形がベストでしょうね。

 導入して終わり、ではなくて、各店に適した使い方を探って、使い勝手を向上させていくべきでしょう。オペレーション会社とのやりとりのなかで、アップデートを続けていくことが求められると思います。

 働き方の多様化が進み、アフターコロナには外国人人材が増加することを考えれば、人材活用とその効率化は必須です。アフターコロナ以降にそれを始めても間に合わないので、外食産業企業は早めに配膳ロボットのフレームワークを作っておくべきでしょう。外食産業企業側の課題は、外部環境の変化にどこまで対応できるかです。

 反対に、配膳ロボットのサービスを提供していく企業側としては、ロボットを導入することで飲食店側にどれだけのプラス・マイナスが発生するかを、客観的に把握していくことも重要でしょう」(重盛氏)

 当たり前のようにどの飲食店でも配膳ロボットが活躍する時代は、そう遠くないのかもしれない。

(文=二階堂銀河/A4studio)

「「配膳ロボット」は外食産業をどう変えるか? 人とロボットが恊働するために必要なこと」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。