改めて確認したい、テレワークをめぐる法的問題と解決策

文=明石順平
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Getty Imagesより

●「仕事」に殺されないために知っておくべきこと(第2回)

 今回はテレワークに関連する問題について解説していきます。

1. 正規社員だけテレワークを適用するのは問題ないのか

 パート・有期法(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)8条は、「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」と定めています。要するに、正規雇用と非正規雇用の間で、不合理な差別を設けてはならないということです。

 コロナ禍におけるテレワークは感染防止が主な目的であり、正規であろうと非正規であろうと感染防止の必要性は同じですので、差別をする合理的理由はありません。したがって、正規社員だけテレワークを適用するのは、上記パート・有期労働法8条に反します。

 なお、ややこしい話ですが、派遣社員の場合は事情が異なってきます。上記法律は、同じ企業が雇用する正規社員と非正規社員の間の不合理な待遇格差を禁止するものです。ところが、派遣社員の場合、同じ企業ではなく、別の企業から派遣されているため、派遣元と派遣先社員との待遇差について、パート・有期法が適用されるわけではありません。これとは別の法律である労働者派遣法(正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)が適用されることになります。

 この点について、厚生労働省は、「派遣労働者等に係るテレワークに関するQ&A」において、下記の見解を示しています。

問5―1 正社員についてはテレワークを実施しているが、派遣労働者についてはテレワークを実施できないため、全員出社してもらうこととしている。労働者派遣法上問題があるか。

答 製造業務や販売業務など、業務内容によってはテレワークの利用が難しい場合も考えられるが、派遣労働者であることのみを理由として、一律にテレワークを利用させないことは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正された労働者派遣法の趣旨・規定に反する可能性がある。

 労働者派遣法は、第30条の3の1項において、派遣元事業主に対し、派遣労働者と派遣先の通常の労働者の間に不合理な相違を設けることを禁止する等、派遣社員と派遣先社員との不合理な待遇差別が生じないようにしています。厚労省の見解は、テレワークについて差異を設けることが、そのような派遣法の趣旨・規定に反する可能性があると指摘しているのです。

2. テレワーク導入にあたっての経費は誰が負担するのか

 テレワーク導入にあたって、新たにパソコンや周辺機器の購入を求められることもあるかと思います。これは、会社の業務を遂行するにあたって必要なものなので、会社が負担すべきです。

 なお、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、その旨を就業規則に規定しなければならないこととされています(労働基準法89条5号)。そのため、就業規則に予め在宅勤務に当たって必要な周辺機器を労働者の負担で揃える旨の定めがあれば、労働者が負担することになります。

 ただし、もともと費用負担に関する定めがなかったのに、テレワーク導入にあたって就業規則が変更されて費用負担の定めが追加された場合、就業規則の不利益変更に該当しますので、変更が無効になる可能性があります(労働契約法9条)。

3. テレワークに「事業場外みなし」は適用されるのか

 事業場外みなし労働時間制は、「労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間など一定時間労働したものとみなす」というものです。この制度が適用されると、例えばみなし時間が8時間の場合、実際に働いた時間が何時間であろうと、労働時間が8時間となってしまいます。要するに、残業がなかったことにされます。

 しかし、この事業場外みなし労働時間制の適用は厳格に判断されます。携帯電話等、情報通信機器の発達した現代では、事業場の外であろうと、労働者の勤務状況を把握することは容易です。したがって、現実的には、この事業場外みなし労働時間制が適用される余地はほとんどないのではないかと思います。

 テレワークにあたっては、パソコンのログ等、自分できちんと労働時間の記録を残しておきましょう。私の経験上、きちんと労働時間を記録している会社の方が少数ですので、労働者の自衛の手段として、労働時間を自分で記録しておくことは必須です。記録しておかないと、後で労災申請や残業代請求をしようと思った時に、証拠がないため泣き寝入り、という事態になってしまいます。

(明石順平)

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