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●日本と海外、女性の「生き方」「社会」の違い(第1回)
最近メディアでよく取り上げられる「女性の生き方」や「ジェンダー」の話題。それらが語られるとき、「海外と比べて日本は遅れている」といった論調で語られることが少なくありません。でもドイツで22年、日本で23年暮らしてきた筆者は「海外が全部バラ色だというわけではない」と思っています。今回はコロナ禍における「働く女性」にスポットを当ててみたいと思います。
世界がコロナに見舞われてから一年以上が経ちました。ドイツでは昨年の春に「お試し」として導入されたテレワークが今や主流となり、ドイツ連邦労働省の今年2月の調査によると、ドイツの会社員の49%が毎日または定期的にテレワークをしていることがわかりました。
ドイツでは「家でのテレワークのほうが、会社での仕事よりもはかどる」と話す人も多く、筆者が育ったミュンヘンの市役所職員の中には「これから市役所に自分の席がなくてもいい。ずっとテレワークのままでもいい」と語る人もいるほどです。
ドイツでも日本でも「テレワークのポジティブな部分」にスポットが当たりがちですが、その一方で「テレワークによって主に女性に負担が強いられる」という声も最近出てきました。
ベルリン・フンボルト大学の教授でベルリン社会科学研究センターの会長でもあるProf.Jutta Allmendinger氏は「女性のキャリアや昇進にはコネクションづくりが大事だといわれてきました。でも長引くコロナ禍でホームオフィス(テレワーク)が普及し、仕事で人と会って交流を深めることができないことで、男性よりも女性が損をしているのです。コロナ・パンデミックが終わっても、その傷跡は長く残るでしょう」と語っています。
冒頭の通りドイツでは50%近くの従業員が日常的に、または定期的にテレワークをしています。意外なことにそのなかでも長期にわたりテレワークをしているのは「(コロナ禍になる前から)もともと時短で働いてきた女性たち」です。
日本では「テレワークをしている」というと「恵まれている」というふうに思われがちです。しかしドイツの昨年のロックダウンの後、男性はすぐに「ロックダウン前の仕事量」に戻せる人が多かった一方で、女性の場合はロックダウンが解除された後も元の仕事量に戻してもらえなかったケースが相次いでいたことは聞き捨てならない情報です。
また女性を取り巻く家庭の状況について、Prof.Jutta Allmendinger教授は次のように語っています。
「ドイツの家庭には、仕事の量の少ない人つまりは時短で働く人が家事や育児に時間を割くべきという暗黙の了解があります。時短で働く人とは多くの場合女性であるわけですが、その結果何が起きているかというと、女性は家でテレワークをしながら同時に育児と家事にも追われるという状況になってしまっています」
ドイツでは昨年コロナの影響により幼稚園が休園したり、学校が休校になった州もありましたが、高齢の親やベビーシッターに子供を預けることもできないなかで、結局は女性が家で仕事(テレワーク)をしながら、育児に多くの時間を割くことになりました。
興味深いのは、女性のほうが男性よりもテレワークの際に「家に独立した仕事部屋をもっていることが少ない」ため、完全に仕事に集中するのが難しいことです。子供がいるカップルの場合、子供は何かあると父親よりも母親に話しかけることが多いため、これも仕事の面ではマイナスだと言えるでしょう。
カップルの女性と男性の両方が仕事をもっていても、何かと女性に育児や家事の負担がかかりがちだということは、コロナ禍になる前のドイツでもたびたび話題になっていました。いま「便利だと思われるテレワーク」の陰で、この「女性への負担」が加速しているというわけです。「ジェンダーの問題はコロナの登場によって一気に1950年代に逆戻りした」と語るドイツ人もいるぐらいです。
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