
(C)2020 Tomoya Ishida
ドキュメンタリー映画『へんしんっ!』が、第42回ぴあフィルムフェスティバル『PFFアワード2020』においてグランプリを受賞した。
この映画の特徴は、デフォルトで日本語字幕・音声ガイドがついていること。普段、聴覚障害者や視覚障害者がどのように映画を観ているのかを知ることができる。音声ガイドが入ることで、見るだけでは気づかなかったポイントに注目できることも斬新だ。
これを「バリアフリー上映」とは言わず「オープン上映」と呼んで、6月19日(土)より劇場公開される。
監督は、車いすに乗って生活する石田智哉氏。
自らも出演し、「しょうがい者と表現活動の可能性」を探っていく。体とからだ、人とひとの違いを懸命に考え、多くを感じながら作品を作っていく制作者たち。その「気づき」は出演者だけではなく、音声や字幕ガイドが入ることで、観る側にも強烈にプッシュされる。
感じることや注目するポイントは人によって大きく異なる作品で、観れば誰かと意見交換したくなる。
石田監督に話を伺い、作品でこだわった表現方法、インスピレーションを受けた自身のバックボーンや、制作にかけた思いについて語ってもらった。映画の理解を深める一助になるはずだ。

石田智哉
1997年生まれ、東京都出身。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業、同大学院修士課程在学中。中学生の頃、自分に合った学習方法として iPadを紹介され、そこでの短編映像の制作をきっかけに映像制作に興味を持つ。大学では、哲学、写真、映画、身体論などを学びながら、3年次より映像制作系のゼミに所属する。また、ボランティアサークル「バリアフリー映画上映会」実行委員を務め、上映会の企画・運営を行う。現在、しょうがい者が創作をする過程で生まれる、身体観やしょうがい観の変化について研究している。本作が初監督作品。
「しょうがい」に込めた想い
――まず、今回の映画のプレス資料を拝見して、「しょうがい者」と、障害を敢えてひらがな表記にされているのが気になりました。
この『へんしんっ!』の前身となる作品は『しょうがいに向かって』というタイトルでした。
そこには自分の身体の「障害」と、これからや未来といった「生涯」の両方の意味を持たせるために、「障害」をひらがな表記にしたという背景がありました。また、完全に切り離すことが難しい、個人の身体の「障害」と社会環境側の「障害」のどちらの意味も含めた、掛詞のようなものにもしたかったのです。
今回の映画タイトルでは、映画作りを通して「心と体が変わっていく」との思いを込めたく「変身」と「変心」が表現できるひらがな表記にしました。あと、ひらがなの方が柔らかい印象を持たせることができるので、個人的には好きです。

(C)2020 Tomoya Ishida
映画制作に至るまでの心境の変化
――石田監督のプロフィールに「しょうがい者が創作をする過程で生まれる、身体観やしょうがい観の変化について研究している」とありますが、映画の制作前後で、ご自身の変化は感じましたか。
映画を作る前後での変化は、この身体だからこその経験や感覚を、作品を作り、表現したいとの思いが強まったことかもしれません。
撮影したものを編集画面で見ていると、インタビュー時、自分の手が無意識に口と鼻の間で動かしているなど、あらゆる手の身ぶりを見て、「口(発話)以外でも表現をしているんだ」と気づいたんです。そこから被写体の動きに着目する意識が生まれ、今回の映画のような、様々な身体の動きを通して、表現を思考する切り口で作ることにつながったのかなと思います。

(C)2020 Tomoya Ishida
映画で伝えたい「表現する」ことの意味
――映画制作前に、表現のバリエーションに気づいたとおっしゃいましたが、この映画には、出演者がダンスをするシーンも多く登場します。ダンスも表現のひとつだと思いますが、監督にとって「表現する」とは、なんですか?
制作前は、ダンスには激しい動きや、高い身体スキルが必要なものとの印象がありました。砂連尾理(立教大学 現代心理学部・映像身体学科 特任教授)さんと出会い、しょうがい者をはじめ、一般的なダンスの概念からは、遠い位置にいる人が、ダンスを介して身体を解放できることを知りました。自分にとって、身体で表現することは「自分の可能性を拓いていく」ことかなと思います。
砂連尾さんに誘われて、舞台作品に出演しましたが、この舞台を映画として、どのように見せていくかは悩みました。数台のカメラで撮ってもらった舞台作品を編集していく中で、自分がこの舞台で得た感覚にひきよせて、構成していこうと考えるようになりました。
「しょうがい者の表現活動の可能性」について、映画を選択し、表現したいと思ったのは、〈場〉を作ることで生まれる言葉があるのではとの思いと、映像編集で被写体が語る言葉や身体動作を、繰り返し見聞きすることで、自分の中にじわじわと迫ってくる経験がもたらされるではとの思いからでした。
「音声ガイド」は感情をも運ぶ
――音声ガイドはこの映画において、大切なポイントに気づいたり、時間や場所の変化を把握するのにとても重要な要素ですね。音声ガイドを付ける際に意識したことはありますか。
音声ガイド作成者の鈴木橙輔さんによる言葉選びと、ぺんぺんさんのナレーションは、ラストパフォーマンスの面白さを含んだ魅力的なものにしてくれました。
(出演者の)野崎静枝さんと砂連尾さんが呼応しながら踊る場面をプロレスの技に例えたりとか、単純な動作でも感嘆を含んだ声で状況を表現してもらったり。音声ガイドを付けることで、状況の描写だけではなく、作者の「感情」も乗り、見ている方に臨場感を持たせることを意識しました。
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