しょうがい者の“ダンス”が持つ可能性 『へんしんっ!』石田監督に訊く

文=和久井香菜子
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(C)2020 Tomoya Ishida

――「対人関係でちょっと引いちゃうんです」ともおっしゃっていましたが、それはどのようなところから感じるのですか。

 小学校の時は大人数のクラスで、一人ひとりが意見を言わなくても物事が進む環境に身を置いていました。

 その後、1学年10人ほどの少人数制の特別支援学校に入り、生徒会長などの中心的ポジションを務める機会が増えて。周りの人が意見を言える環境をうまく作ることができなかったのです。自分の発言中心で物事が進んでしまい、他の人がどんな意見を持っているのかがわからずに不安を感じました。限られた時間の中で解決すべき議題がたくさんある一方、自分だけがしゃべり、一方的に話が進んでしまうと不安になる。そこから人との距離の取り方がよくわからなくなることが増えたように思います。

――その経験から「監督だからって作品をコントロールしたくない」という考えにつながったのですね。

 そうですね。今回は監督経験のある制作スタッフもいたので、知識や技術面では、知らず知らずのうちに頼っていたところもあると思います。

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(C)2020 Tomoya Ishida

映像制作の基盤となる、大学で得たインスピレーション

――石田監督が大学で専攻されている「映像身体学」とは、具体的にどんなことを学ぶ学科なのでしょうか。

 この学科の学生は、演劇やダンス、哲学、映像、身体論など様々なことを学んでいて、一言で定義するのは難しいです。ただ、「自分の身体を使って、他者を想像し、何かを表現すること」を多角的に考える面では共通しています。

 また、私のように映画を「制作する」側の人、それを見て「批評する」側の人が共に学んでいる場です。

 映像身体学は、心理学のように科学・統計を通して心の反応を見ていこうとするのではなく、見たもの、聞いたもの、あるいは言葉にしきれないものを、映像を通して言語にしようと試みる分野なのかなと思います。

――石田監督がその学科で学びたいと思った理由は何ですか?

 実は、もともとはっきりとした志があったわけではなく、「いろんなことが学べそうだな」という漠然とした気持ちでした。

 中学生の時、映像身体学科の先輩である、赤﨑正和さんにボランティアをしてもらいました。赤﨑さんが監督した『ちづる』は、自閉症・知的障害をもつ妹、母親、そして赤﨑さん自身がカメラを向けたことで変わっていくことを描いた映画で、映像の新たな表現方法を知り、この学科に興味を持ち始めました。

 もともと興味のあった心理学と、新たに興味を持った映像のどちらも学べるかもしれないと思ったんです。

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(C)2020 Tomoya Ishida

――大学での学びはどうでしたか?

 この学科に在籍して、哲学や身体図を通して物事を考察したり、さまざまな観点で議論を交わすことで、他の人の意見を聞くことの楽しさに気づくことができました。

 たとえば、健常者・しょうがい者それぞれの「身体」の捉え方の違いが、ちょっとした会話の中でわかったりするのが面白いなと感じています。

――それは具体的にはどういうことでしょうか。

 ある動作をするときの動き方――たとえばコップを使う際、僕は顎をよく使いますが、多くの人は顎よりも手先を使いますよね。そういった、「動作をするときにどの部位に意識をするか」の違いに気づくのが面白いです。

 あと、僕は立っていて足が攣るという感覚がよくわからないので、知りたくなります。結構辛いと聞きますが(笑)、それも違いのひとつだと思います。

――その身体の捉え方の違いに気づいたことが、まさに今回の映画そのものに感じられますね。また、中学・高校と特別支援学校に通われたのち、立教大学に入学したことで、環境の変化などは感じられましたか。

 大学の環境は、小学校時代に感じていた、大人数の中に自分が紛れ込んでいる感覚に近いです。特別支援学校は文字通りの「特別な空間」であったことを感じます。

 一方で、中・高で出会ったiPadや電動車いすなどの機器を使えば、身の周りのことが一人でできるようになったり、表現のツールとしても使えるということに気づいたのは大きかったです。

 小学生の時は、自分と健常者とでは能力的に大きな違いがあると思っていましたが、大学に入ってからは、そうした機器のおかげもあり、自分のやりたいことが工夫次第で達成できることに気づき始めていました。そして、「自分のやりたいことを率先してやろう」との気持ちになって、今回のような映画制作をはじめ、物事に積極的に取り組んでいけるようになったと思います。

――機器の進化は障害をカバーしてくれる重要なアイテムなのだと改めて感じますね。ありがとうございました。最後に、これから映画をご覧になる皆様へ一言お願いします。

 「被写体、スタッフ、健常者、しょうがい者、観客、舞台にいる人、それぞれの境界をゆらしたい」という気持ちで今回のオープン上映に臨みました。この映画は、自分自身が今までに出会った方々の影響を受けて、巻き込まれ、また葛藤しながら作った作品です。葛藤を通して生み出した喜びを見てもらえたらうれしいです。

取材:和久井香菜子
構成:ブラインドライターズ 史奈

6月19日(土)より、ポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・ タバタにて公開、他全国順次

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