女性差別で学者になれず絵本作家に 「ピーターラビット」原作者の知られざる素顔

文=此花わか
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 湖水地方とロンドンを行き来しながら、自分が経営する小さな農場の動物たちをモデルに、ビアトリクスは絵本を書いていった。彼女が毎年発表した新作はベストセラーになり、多くの印税を手にした。

 そんな彼女に二度目の恋が訪れる。相手は37歳の地元の弁護士ウィリアム・ヒーリス。42歳のビアトリクスだったが、またしても階級社会が立ちはだかる。両親がまた猛反対したのだ。けれども今回はビアトリクスの弟が両親を説得し、2人は出会ってから5年後にめでたくゴールインした。そのときにはすでに有名人だったビアトリクスだが、ロンドンであげた結婚式は非常に質素なものだったという。

キャラクタービジネスの先駆け!?

 自然を愛したビアトリクスは、ビジネスセンスにも長けていた。印税や著作権の管理はフレデリック・ウォーン社に任せていたが、河野教授曰く、ビアトリクスが出版社に印税をきちんと支払うように要請した手紙も残っているらしい。この時代に、社会階層の高い女性がビジネスの話をすることは非常に珍しかったと教授は話す。

 また、こんなエピソードももある。「ピーターラビットのおはなし」がベストセラーになった直後に、ビアトリクスはドイツ製のピーターのぬいぐるみをハロッズで発見。それが気に入らなかった彼女は、自分でピーターラビットの人形を制作し、特許をとったというのだ。

 絵本のキャラクターで人形の特許を取得したのはビアトリクスが史上初めての人物だった。また、塗り絵を販売することも出版社に提案し、塗り絵は大ヒットしたという。

「史上初のキャラクタービジネスだったかどうかは言い切れませんが、絵本のキャラクターを人形やグッズにして特許をとったのは彼女が初めての人物でした」(河野教授)

 そんなビアトリクスの人物像が、『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』のビアのキャラクターに反映されているのだ。

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本国イギリスよりもアメリカで人気な理由

 河野教授によると、現在、ピーターラビットの一番大きな市場は本国イギリスではなく、アメリカ、その次にイギリスか日本だそうだ。本国以外での人気の理由はどこにあるのだろうか。

「イギリスの文学界はその保守性のせいか、児童文学をさほど評価してこなかったのですが、アメリカの文学界は子どものファンを大切にし、児童文学を高く評価してきた歴史があります。そんなアメリカの文学界やファンをビアトリクスは大切にし、アメリカの図書館員たちと頻繁にやりとりをしていました。
 日本での人気は、ビジネスにピーターラビットのキャラクターが使われていることが一因だと思います。銀行の通帳から幼稚園のマスコット・キャラクターまで様々な所にピーターラビットが使われていますが、本国のイギリスではこういったビジネス展開は見られません。お国柄が出ているのではないでしょうか」(河野教授)

 確かに、ゆるキャラやご当地キャラなど、キャラクターモノが好きだという日本人の国民性も関係しているのかもしれない。

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遺産のほとんどを寄付したビアトリクス

 絵本作家やキャラクタービジネスから巨万の富を得たビアトリクスは、土地を買い続けて農場や牧畜を大きく広げていった。77歳で亡くなったときには多くの農場の経営者になり、広大な不動産を所有していたが、その殆どをナショナルトラスト(歴史的名所や自然景観を守るボランティア団体)に遺贈していたのだ。興味深いことに、散骨の場所も秘密にしてほしいと依頼していたという。

 「ビアトリクスが土地や農園を拡大していった背景には、湖水地方の景観や地元文化を守りたいという強い意志があったのです」と河野教授は考察する。

 孤独だった幼少時代、研究者になる夢、結婚……人生の岐路において女性差別や階級社会にぶち当たるたびに、それを乗り越えてきたビアトリクス・ポター。富と名声を得た後も、自然保護や動物保護という壮大な目的のために奔走した彼女の世界観は、『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』にどんな風に盛り込まれているのだろうか。

「ピーターとバーナバスが出会う八百屋の店の看板、グロスター大聖堂、ワルモノ猫のトム・キトンとミトン、パイパーソン・ペットショップなど、絵本シリーズに出てくるキャラクター、お店、ロケーションの名前がたくさん盛り込まれています。ですが、そういった要素がプロットに関係していないので、絵本シリーズを知らない人も、知っている人も楽しめる、非常によくできた映画になっています」(河野教授)

 河野教授はビアトリクスの人物像をこう評価する。

「作家として大成功しましたが、湖水地方の土地を買うときも、あの時代ならきっと『女のくせに』と言われていたと思います。女性が独り立ちして生活するのがありえない時代に、あきらめずにしっかりと前を向き続けたのがビアトリクス・ポターだと思います」

【参考】
河出書房新社 河野芳英著「ピーターラビットの世界へ ビアトリクス・ポターのすべて」

(此花わか)

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『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』
6月25日(金)全国ロードショー

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