ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。今回は令和3年度の年金額を例にしながら、公的年金の基本を解説します。
公的年金の額は年度ごとに発表され、金額が変われば毎年4月から適用されます。実際の振り込みは前月までの分が偶数月の15日に支払われるので、令和3年度に新しい金額となった4月分と5月分の2カ月分が6月15日に全国の年金受給者に振り込まれました。令和3年度の年金額は前年度から0.1%の引き下げとなっています。
国民年金の満額は月約6万5千円
2階建ての公的年金の1階部分は「老齢基礎年金」です。これは、原則20歳から60歳までの国民年金に由来するもので、職業にかかわらず全国民が対象となり得ます。
令和3年度の老齢基礎年金は満額で月65,075円です(実際の振り込みは2カ月ごと)。
満額とは、20歳から60歳までの40年間1月も欠くことなく国民年金保険料を払った人が65歳から受け取れることができる年金額と考えるとわかりやすいと思います。他にも、会社員や公務員として「厚生年金」を払っていた月、会社員や公務員の配偶者で専業主婦や扶養の範囲で働いていた月も国民年金保険料を払っていた月と同様にカウントされます。
つまり、払うものを払う、扶養の手続きをするなどやるべきことをやっていればもらうことができるのです。
何かの事情で払っていない月や扶養の手続きしていない月があれば、その月分が満額から削られていく仕組みです。ただし、最低10年間という基準はクリアする必要があります。
個人事業主と年金
1つ夫婦の事例を紹介します。個人事業主の夫と専業主婦の妻で、20歳から60歳までの40年間に夫は国民年金保険料を25年払い、妻は一度も払ったことがありませんでした。
現役時代は高収入でしたが、忙しさや年金制度への不信感がありました。また専業主婦であれば国民年金保険料なしで納めている扱いになるのに、個人事業主の妻にはそれが許されないことへの反発もあったようです。
このケースだと、夫の老齢基礎年金は満額に40分の25をかけて計算します。令和3年度の年金月額は40,625円、妻は0円です。
夫婦合わせて月約4万円ではとても食べていけないので、貯蓄などの資産があるか、老後も働けるか、子からの支援に頼れるか、健康であるかにかかってきます。場合によっては、生活保護という選択になるでしょう。
厚生年金の平均は月約9万円
2階建ての公的年金の2階部分は「老齢厚生年金」です。天引きされる厚生年金保険料に由来するもので、会社員や公務員の期間があった方は対象となり得ます。1階部分の老齢基礎年金に加えて受け取ることができます。
令和3年度の平均的な老齢厚生年金は月90,346円です。
実際の老齢厚生年金の額には、会社員や公務員だった期間(月数)とその間の収入(平均標準報酬)が全て反映されるので人それぞれです。
厚生労働省で発表している上記の厚生年金額は、平均的な収入月額43.9万円(賞与含む収入を月額換算)で40年間就業した場合ということです。つまり、この収入より多いか少ないかも重要ですし、20歳前と60歳後も含め、会社員や公務員で厚生年金保険料を払っていた月数も関係してきます。
50代以降は「ねんきん定期便」に見込額が記載されます。50歳前まではねんきん定期便よりも「ねんきんネット」を見るべきです。いずれも誕生月にねんきん定期便が送られてくるので、その際に確認してください。
会社員の年金の平均は月約15万円
ここまでの1階2階の年金を組み合わせると、平均的な会社員だった場合の年金額は月150,421円ということになります。単身であれば、月々ギリギリ生活できるくらいの金額と言われています。ずっと共働き会社員・公務員だった夫婦であれば、この倍ほどの年金額もあり得ます。一方、個人事業主と専業主婦等は多くても月65,075円となります。
これらの年金は、該当さえすれば一生涯受け取ることができる終身年金です。長い老後の生活費を考える上では馬鹿にできるものでもないですし、人によっては悪くない金額になるはずです。
老後資金の不安の声を見聞きしますが、その前に今回お伝えした公的年金の基本事項を知っておくべきでしょう。その上で、老後資金を作っていく計画を立てるのが合理的です。