
釈由美子
釈由美子の初海外進出映画『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』が7月2日より公開される。
あるホテルで殺人ウイルスの感染爆発が起きるという、コロナ禍を予見したような映画で(撮影は2019年1月にカナダ・モントリオールで行われた)、釈由美子は、暴力を振るう夫から逃れ、日本からやって来た妊婦・ナオミを演じている。
彼女は2016年に長男を出産。その点でナオミと釈は共通点があるが、どんな思いで役に臨んだのか。話を聞いた。

釈由美子
女優、タレント。1997年のデビュー以降、映画『修羅雪姫』、『ゴジラ×メガゴジラ』、『KIRI職業・殺し屋』、ドラマ『スカイハイ』、『7人の女弁護士』(いずれもテレビ朝日系)などで主演を務めた。登山愛好家としても知られ、2014年には『山の常識釈問百答:教えて!山の超基本』(萩原浩司氏との共著/山と渓谷社)を出版している。
──釈さんは2016年に長男を出産されたばかりです。今回、妊婦役を演じるにあたってどのように感じられましたか?
現場では重しを入れ、お腹を膨らませて撮影したんですけど、そうするとやっぱり自分が妊婦だった時のことを思い出しましたね。
お腹を突き出してガニ股気味に歩いたりとか、そういうことは実体験として経験しているので、お芝居に活かせました。
ただ、妊娠・出産や子育ての経験が役立ったのは、なによりも“内面”の部分です。
女性って、子どもを授かって「母親になるんだ」という自覚が生まれた時にすごく強くなれると思います。
私が演じたナオミはDVの夫から離れてカナダまで旅立ち、お腹の中の子どもと一緒に幸せになろうとする女性です。そんなナオミは殺人ウイルスに襲われても、なんとか希望を信じ、這いつくばってでも生きようとしますが、その力強さは、母としての自分の経験があるからこそ出せたのかなと思います。
──今回はマネージャーの同行もなく、モントリオールにひとりで渡って撮影されたんですよね。日本とカナダの映画づくりの現場ではどんな違いはありましたか?
基本的にそこまで変わらないな……というのが率直な感想でしたけど、労働環境の違いは印象的でした。
向こうは組合がしっかりしているので、1日のスケジュールが決まっていて。日本だったら撮影終了時刻が押してしまうことも多々あるんですけど、カナダでは「もうちょっと撮れるのに……」という不完全燃焼の状態でも、「決まりだから」といって、ピタッとやめていました。
スタッフや役者にとってはすごくありがたい現場だと思いましたね。いい仕事をするためには、身体を休めて体力を回復させる時間も必要ですから。
日本の撮影現場でも最近は働き方改革が進んできてはいますけど、10年〜20年前は「朝まで撮影し、一回お家に帰ってシャワーだけ浴びて、また現場に行く」みたいなことをしょっちゅうやっていました。出演者ですら大変なんですから、準備されるスタッフさんはもっと大変だったでしょうね。
ルールよりも思いやりの気持ちが大事
──釈さんは2015年にご結婚された後も、精力的に女優として活動されています。家庭の運営を円滑にするために、どんな工夫をしていますか?
夫もひとり暮らしが長かったので、ある程度の家事は出来たんですけど、それでも「お味噌汁をつくったことがない」とか抜けている部分があったので、お味噌汁のつくり方を紙に書いて渡しました。
──紙に書いて!
特に妊娠中はいろいろサポートしてもらいましたね。お互いの両親が遠いところに住んでいたので頼ることは出来ないし、「あなたが頑張ってね」って。
家事に関するあれこれはもちろん、出産届などの書類手続きに関することについても、紙に書いて指示を出しました。
──ずいぶん親切にいろいろやってあげましたね。
スタートが肝心ですから。
男性って、いざ家事をしようと思っても、これまであまり参加してこなかった場合、「なにをしていいか分からない」「良かれと思ってやったことで怒られるのが嫌だ」という状態になるから、それで避けてしまう人も多いそうで。
だけど、やる気がないわけじゃない。そういう時は、こちらが指示をしてあげれば積極的に参加するようになるというアドバイスを聞いて、実践してみました。
──それがうまくいったんですね。
そうですね。朝までお茶碗を放置しているとか、部屋の端まで掃除機をかけないとか、細かい不満はありますけど、そこで「自分でやった方がいい!」とはならず、“鈍感力”も大事だなと、いまは思うようになっています。
たまに、「○○やっといたよ」とか夫にドヤ顔で言われると、「それ、いつも私がやっているよね」って思ってしまう時はありますけどね(笑)。
──(笑)。夫婦共働きで、家事・育児の家庭運営をうまくこなすためには、どんなことが大事だと思いますか。
役割分担を厳格にしない、ということですかね。
大事なのはルールではなくて、相手を思いやる気持ちだと思うんですよ。
お互いに思いやり、気を遣う気持ちがあれば、「今日はなんか疲れてそうだから、ご飯はつくるよ」みたいなやり取りが生まれてきますよね。
ルールではなく、相手のことをよく見て、思いやることが大事なのは、家事だけではなく、子育ても同じです。
たとえば、私が躾のことで息子に厳しく言ってしまった時は、パパがフォローするとか。
そうした心掛けを忘れなければ、家庭は心地よく、楽しく過ごせる場所になると、私は思います。
『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』
7月2日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテほか全国ロードショー!