
『ドラゴン桜』公式サイトより
6月27日に最終回を迎える日曜劇場『ドラゴン桜』(TBS系)。6月20日放送の第9話では大学入学共通テストが行われ、東大専科の生徒たちの合否を見守っている視聴者も多いだろう。筆者も「みんな合格してほしい」という思いになりながら視聴している一人だ。
ただ、同作を振り返ると、どうしても気になってしまう部分があった。ジェンダー描写である。『ドラゴン桜』には、どうにも引っかかる点が複数あった。何が問題だったのか、指摘していきたい。
偏見的な認識が見えたゲイの描き方
まず、この記事でも指摘したが、「ゲイ」の描き方がとにかく雑であった。
第2話で、校長・奥田義明(山崎銀之丞)がゲイであることが明らかになるのだが、「ゲイ=オネエ」という偏った認識で描かれていたり、買春を想像させるような表現も見受けられた。また、奥田には親しい仲の男性がいたにもかかわらず、桜木健二(阿部寛)に対し好意を寄せているかのような描写もあった。
こうしたゲイの描き方に視聴者からは「描き方が軽率」「雑な描き方をするなら出さないほうがいい」など疑問視する声が続出した。
今までメディアで描かれてきたような画一的なゲイ男性像を再生産することで、その偏見的な見方を強化してしまう恐れがあるだろう。
第2話以降もストーリーに必須ではない部分で奥田が桜木にうっとりした視線を送ったり、桜木に誉められたのを受けて“女性っぽい”仕草をする描写が見られ、製作サイドの知識不足や、ゲイを笑いの対象にしていいという考えが残っているように感じた。
「ドラゴン桜」でのゲイの描き方が物議 「ステレオタイプの再生産」「雑な描き方するなら出さない方がいい」
5月2日にドラマ『ドラゴン桜』(TBS系)の第二話が放送されたが、ゲイの描き方が雑だとしてネット上で物議を醸している。 『ドラゴン桜』は、2005…
会社倒産を機に暴力的になった父親に「父親は大黒柱だろ」
第6話で、桜木が生徒の父親に向けたセリフも違和感があった。
文系トップの成績にもかかわらず、「大学には興味がない」と東大専科への誘いを断る女子生徒・小杉麻里(志田彩良)。彼女はボロボロになるまで教科書を読み込むくらい勉強が好きなのだが、進学を希望しない理由は、父親が「女は勉強しなくていい」という考えの持ち主であり、暴力を振るわれていたからだった。
幼馴染で発達障害のある原健太(細田佳央太)の付き添いとして東大専科の合宿に参加したことが父親に知られ、麻里は連れ戻される。「早いうちに優秀な相手を結婚することが女にとっての幸せ」「女に学歴は必要ない」と麻里を退学させようとする父親に桜木は「学歴にこだわっているのはあなたの方じゃないですか。そこまで学歴にこだわるのは自分が悔しい思いをしてきたからじゃないですか。あんたは単に娘を自分より優位に立たせたくないだけだ」と切り出す。
<「女に学歴は必要ない」。そういう時代錯誤な奴っていうのは自分のプライドを守るために古い考えに固執し、今の世界を見ようとしない。コンプレックスのを持つのは結構、どうぞ勝手にやってくれ。だがな、そのちっぽけなプライドを守るために娘の自由を奪い、力づくで抑え込もうとする、そういう親こそ本当の“クズ親”だと俺は思うがな>
麻里への暴力行為の形跡が見られたため、学校としても見過ごすわけにはいかない方針ではあったものの、麻里は「父親がこんなふうになってしまったのは、10年前に祖父が亡くなって会社が倒産して苦労したことがきっかけ」と打ち明け、<こんなお父さんだけど、私にとっては世界にたった一人のお父さんだから、だからお父さんのこと警察に言わないでください>と懇願する。彼女は「優しかった頃の父親が、いつか戻ってきてくれるのではないか」と信じていたのであった。
そんな麻里の思いを知り、桜木は<そんな娘の気持ちをあんたはいつまで裏切り続けるんだ>と説教を続ける。
ここまでは問題のない展開だったのだが、次の桜木の一言に耳を疑った。
<父親っていうのは大黒柱だろ。家族の幸せを願って大きく強く支えてやる柱だろ。そんな虫の食ったような腐った柱で大切な家族を支えてやれてんのか>
どんな理由があっても暴力は許されないが、麻里の父親の暴力は「父親として大黒柱でいなければならない」という“男らしさ”へのプレッシャーに苦しんだことがきっかけだった。そのような背景のある人物に、さらに男らしさを強要する説教をしたところで、暴力が止むとは思えない。
桜木の説得及び、東大専科メンバーの励ましを受け麻里の口から「東大に行きたい」という言葉が出たことによって、父親は麻里に謝罪。麻里の両親は離婚の方向で話を進めているため、理事長である龍野久美子(江口のりこ)が麻里と母親の住まいを見つけ、一件落着した。
だが、この回の放送後には「“父親は大黒柱”も時代錯誤では」とのツッコみが集まり、長年暴力をふるっていた父親があっさり改心したことにも「非現実的」との声があがっていた。
“枕営業”として描かれたコーチと生徒の関係
他にもモヤモヤせざるを得ない場面があった。
第2話では、バドミントンでの大学推薦枠が欲しいがために、ダブルスのパートナーであり自分より優秀な岩崎楓(平手友梨奈)を、清野利恵(吉田美月喜)が陥れようとする。
利恵はコーチとの関係を使い(いわゆる“枕営業”)、コーチは楓の膝に過度な負担がかかるような練習をさせる。
利恵は「頼りになる」「先生のおかげで推薦がゲットできた」と言い、コーチの「たまには外で会いたい」という誘いには、甘えたような声で「ダメ」と断る場面も描かれた。
たとえ生徒側にメリットがあり、さらに生徒側から持ちかけた関係であっても、指導者として誘いに乗ってはならないだろう。また、生徒側に好意があったとしても、コーチと生徒は対等な関係ではない。
現実社会でこんなことが発覚すればコーチに対して何かしらの処分が下されるはずだが、コーチはそのまま在籍しており、以降も物語に登場。被害者である楓も<今あのコーチがいなくなったらチームがむちゃくちゃになる>と「指導者として優秀」という理由で訴え出ることはせず、桜木もスルーしたのだ。
現実世界には指導者と教え子など、地位関係性を利用した性暴力があり、立場の弱い側にもメリットがあるというより、「拒絶したら指導をしてもらえなくなるのでは」「レギュラーから外されるなど不利な状況に追い込まれるのでは」といった恐怖心から断れない状況が存在している。
地位関係性のある性暴力の現実をスルーし、“枕営業”として描いてしまうことは、現実世界で「女(被害者側)も得をしているのだから」というセカンドレイプが行われることや、子どもや立場の弱い者を守るべきという視点が欠けていることと地続きではないか。
「ドラマだから」という指摘もあるだろうが、第4話で、瀬戸輝(髙橋海人)が校則違反であるアルバイトをしたときには、桜木は校則違反を理由にバイトを辞めさせている。
また、先述した第6話で麻里が虐待を受けた痕跡を見つけたときにも、教頭が「学校として見過ごすわけにはいかない」という考えを示していた。現実世界と共通したルールに則る部分とそうでない部分が入り混じり、都合の良いストーリーが展開される。
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