FRBによる緩和縮小示唆の衝撃 日本の株価や景気に逆風か

文=斎藤満
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Getty Imagesより

FRBが利上げ前倒しを示唆

 6月15、16両日に開催された米国版金融政策決定会合にあたるFOMC(連邦公開市場委員会)で、米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)が、密かに金融政策の方向を変えようとしていたことが分かり、一部に衝撃が走りました。昨年3月にコロナ危機対応として、かつてない大規模な金融緩和に打って出たFRBが、ここへきてついにその緩和支援策の修正を示唆したからです。

 今年に入ってからは中国が金融緩和を縮小。5月にはカナダ中銀と英国中銀が量的緩和の縮小、つまり中央銀行による資産買い入れ額の縮小を打ち出していています。今回のFRBの動きは、世界の金融大緩和の潮流が逆流し、上げ潮から引き潮に変わろうとしていることを示唆したことになります。

 もっとも、2015年にバーナンキ議長(当時)が資産買い入れの漸減を示唆しただけで、世界の株価が急落するなど市場が大きな混乱を引き起こした経緯があるだけに、今回はFRBも慎重に動きました。声明文には金融緩和の修正を示唆する文言はなく、直後のパウエル議長の会見で、今後資産買い入れのペースや買い入れ資産の構成について議論する、という言い方にとどまりました。

 ところが、「頭隠して尻隠さず」ではありませんが、会議に参加したFRBメンバーによる経済予想、政策金利予想をまとめた資料を見ると、これには明らかな変化が示されていました。

 これまでFRBは2023年まではゼロ金利を続け、利上げは早くて2024年以降と言ってきました。しかし、今回の予想では18人のメンバーのうち13人が23年の利上げを予想し、しかも2回以上の利上げを予想する人が11人もいました。そして22年中の利上げを予想するメンバーが7人もいました。明らかに利上げ開始時期が前倒しされ、それも利上げが始まると複数回の利上げになる可能性が示唆されていました。

 その背景には当局が思っていた以上に米国景気の回復が速く、インフレの進行が速いという事情があります。

 昨年春以降、3兆ドル以上の財政支出による景気支援があり、さらにワクチン接種も進んだことも功を奏し、景気が急ピッチで回復しています。21年中の成長率は昨年12月には4%成長と見ていたのが今回は7%に引き上げました。そして直近5月の消費者物価は前年比5%の上昇と、2%の物価目標を大きく超えてきました。

 金融市場は声明文や議長の慎重な言い回しを信じて、緩和の修正はまだ先と期待したようですが、18日に「FRBの風見鶏」ともいわれるセントルイス連銀のブラード総裁が、経済回復の速さからFRBがタカ派に転じたのは自然なことで、利上げは22年中にも開始される、と市場に「ダメ押し」をしたために、東京も含めて世界の市場は「金融緩和の終わり」を意識せざるを得なくなりました。

世界の金融緩和に乗ってきた日本株

 地球規模の金融緩和という「上げ潮」が「引き潮」に変わると、日本株には逆風になります。

 市場は日銀が緩和を続けるから大丈夫との声も聞かれますが、少なくともこの1年の日本株上昇には、日銀の緩和はほとんど寄与していません。政策金利はこの間まったく下がっていないどころか、金融機関には副作用を緩和するために、一部の日銀預け金に対する付利金利を0.1%引き上げています。

 国債の買い入れも、「年間80兆円を目途」といいながら、今年3月までの1年間に長期国債の残高は22兆円しか増えていません。また日銀によるETF(上場株式投信)の買い入れも市場をゆがめるとの批判があり、6月21日に株価が1000円以上下がったので買い入れをしましたが、これも4月21日以来2カ月ぶりのことでした。

 つまり、「金融相場」といわれる日本の株高も、日銀による金融緩和によるものではなく、米国や欧州の中央銀行がコロナ禍で前代未聞の大規模緩和を行った「おこぼれ」にあずかったということです。その海外の中央銀行が、これまで全開だった蛇口を絞ろうとしています。

 日本株をめぐる潮は満潮を過ぎて、これから引き潮に変わっていくでしょう。日銀がその穴埋めをしないと、日本株にはこれから水位の低下が生じやすくなります。

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