欧米の緩和縮小、引き締め転換は欧米景気の強さの表れで、日本の輸出にはプラスですが、中国など新興市場には大きな負担となります。
これまでの大規模緩和に乗って、世界の投資マネーは新興市場にも流れ込んでいたのですが、欧米が緩和の修正に出ると、真っ先にこれらの資金が引き揚げられるからです。日本の場合、経済の関わりが大きい中国が打撃を受けることで、3万社を超える中国と関わる日本企業を中心に逆風となります。
国際決済銀行(BIS)のデータなどによると、中国の総債務残高はGDPの3倍を超えていて、中国政府はこのところ過剰債務の整理を余儀なくされています。この中にはドル建て債務も多く、ドル高やドル金利の上昇は人民元での返済額が増える分、中国企業の負担を大きくします。実際、FRBが緩和の修正姿勢を見せるようになってドル高、人民元安が進んでいます。
これを回避するには、中国もFRBに合わせて金融を引き締め気味にすればよいのですが、それで人民元安が回避されても、国内金融が引き締められ、金利高、流動性の抑制となると、中国企業が資金繰りに窮すことになり、景気を圧迫します。バイデン政権はそれを承知の上で、つまり中国攻撃の一環として、FRBの緩和縮小を利用しようとしているとの見方も一部であります。
中国は日本にとって最大の輸出相手で、比率にして2割強を占めています。自動車や流通など多くの企業が中国に進出しています。米国の締め付けが厳しくなる中で、金融政策面からも中国攻撃が行われると、中国景気の悪化を通じて日本の景気を冷やすことになり、欧米景気の改善という追い風を打ち消す懸念があります。
日本の金融機関には朗報も
反面、行き過ぎた金融緩和で収益を圧迫されてきた日本の金融機関には朗報です。
本来、金融政策ではその効果をあげるために国際協調がなされます。欧米が緩和の修正、引き締めに転じるのであれば、日銀もこれに追随するのが通例です。もっとも、感染がまた拡大しそうな今の日本経済の不安な状況からすれば、日銀がすぐに引き締め転換とはいきません。
それでも、これ以上の追加緩和圧力はかかりにくくなります。欧米の金利が上昇すれば、日本の金利にも上昇圧力がかかり、金融機関の採算を改善します。そして為替は円安に向かいやすくなります。日本が欧米よりも緩和的になり、相対的に金利が低くなるためです。輸出企業には朗報で、円高恐怖症の政府日銀にも安心材料となります。
(斎藤満)
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