レインボーに輝けなかったスタジアム ハンガリーの反LGBT法とUEFA

文=河内秀子
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UEFAの空虚なスローガン 

 #EqualGameというハッシュタグのもと、サッカーの多様性や全ての人に開かれていることをアピールしていたUEFAのありえない決定は、大きな批判を集め、一夜にして大きなレインボームーブメントがドイツ中に巻き起こった。

 この話には前段階がある。ミュンヘンのスタジアムが虹色にライトアップされるかどうか、決定が下される数日前のことだ。ドイツ代表GKのマヌエル・ノイアーがプライド月間のスタートに合わせて、6月初めから身につけていたレインボーカラーのキャプテンマークに対してUEFAが調査を始めたというニュースが広まった。最悪の場合、ドイツサッカー連盟は罰金を払うことになるというのだ。

「おいおい、お前らマジかよ?」

 元代表のヒッツルスペルガーがTwitterに書いたUEFAに対するコメントが、ドイツ中の人の気持ちを代弁していた。最終的にはUEFAはドイツサッカー連盟に対し、制裁を課さないことを発表したが、多様性に寛容なUEFAというイメージはこの時点ですでに地に落ちていたと言えるだろう。

 UEFAがミュンヘンのスタジアムをレインボーカラーにライトアップすることを禁止したとわかると、ベルリンのオリンピックスタジアムを始め、フランクフルトやケルン、ヴォルフスブルクなどが、次々と今回の試合開始スタートに合わせて虹色にライトアップすることを表明した。ミュンヘンを本拠地とするBMWやヒュポフェアアインツ銀行などをはじめ、ミュンヘン市の警察や消防隊、保険会社、そして今回の欧州選手権のパートナーであるVWやプーマなど、様々な企業がこの決定に抗議して、次々とTwitterのアイコンをレインボーカラーにした。最後には、UEFA自身もアイコンをレインボーカラーに変えて失笑を買った。

 そもそも、UEFAの政治的な中立性という主張自体がナンセンスだとも言われている。試合のスタジアムの広告スペースが、中国やロシア、カタールの(国営)企業に使われていたり、開催地に、独裁的な政治が行われているアゼルバイジャンが選ばれたりもしているからだ。

ドイツはダイバーシティ、多様性に寛容な社会か?

 ドイツ男子プロサッカー界も、決して多様性に開かれてはいないことは前に述べた。しかしその空気は少しずつ変わってきている。

 ドイツ代表の中でも、UEFAの決定をはっきりと厳しく批判したのが、レオン・ゴレツカだ。これまでも彼は、ホロコーストを生き延びたマルゴット・フリートレンダーと対談を行ったりダッハウ強制収容所を訪れ「決してこのようなことを繰り返してはいけない」と自らのインスタグラムで発信している。

 Welt am Sonntagのインタビューの中で、ドイツの右派ポピュリスト政党AfDに対して「AfD(ドイツのための選択肢)は、選択肢ではなく、ドイツの恥だ」と言い、AfDの支持者が増えていることに怒りを示している。彼はスター選手としての責任を考え、あらゆる差別の問題に敏感になってもらえるように貢献したいと言う。

 ドイツは、1994年、東西ドイツの統一を経て、刑法175条という男性の同性愛行為を処罰する条項を無効化している。実は西ドイツでは、1969年までナチス時代に厳罰化された条項が有効で、その後改正はあったものの条項自体は残され続けていた。それに対し、東ドイツではすでに1950年代に条項は無効化されており、1968年に法律から削除されている。東西が一緒になった時に、東ベルリンでは許されていることが西側に入った途端に処罰されてしまうというような問題が起こったため、1994年にこの条項が撤廃されたのだ。西ドイツで1994年までにこの法律によって有罪判決を受けた人の数は、6万人以上にのぼったという。ゴレツカは、ちょうどこの法律がなくなった次の年、1995年に生まれている。2017年には、同性婚の合法化が可決され、ドイツの社会は、ゆっくりと多様性に開かれてきていると言えるだろう。

 とはいえ、今年6月に発表されたばかりの、ドイツ社会の動向を見る調査「中心の研究(Mitte-Studie)」によると、まだまだ変化の余地はありそうだ。この「中心の研究」は、ドイツの右傾化について、極右的な思想の様々な要素がどこまで広まっているのかを調査するもので、2006年から2年おきに研究結果が発表されている。今年は1750人のドイツ国籍を有する人に、電話で、極右的な、また民主主義を脅かすと考えられるような考え方について質問を行った。

 この中で「同性愛者が公共の場でキスをしていると気持ちが悪い」「同性愛は不道徳だ」という意見に賛成している人は、減少傾向にはあるが7%ほど。トランスジェンダーの人に対し「あまり目立たないようにすべきだ」と思う人は13.9%だった。

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