レインボーに輝けなかったスタジアム ハンガリーの反LGBT法とUEFA

文=河内秀子
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ゴレツカの、ヘイトに対する「ハート」のジェスチャー     

 6月23日、サッカー欧州選手権ドイツ対ハンガリー戦の日。ハンガリーのオルバン首相は、試合観戦をキャンセルした。ミュンヘン市は、新市庁舎に大きなレインボーフラッグを掲げて、意思表明をした。

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写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 ハンガリーの国歌斉唱の最中に、レインボーフラッグを手にした若者がピッチ上に走り出て、ハンガリーチームの前に立ち、会場から大きな拍手が沸いた。試合が始まると、スタジアムのゴール裏が黒いTシャツを着た人で埋め尽くされているのが見える。彼らはハンガリーの極右フーリガングループ「カルパティア旅団」だ。

 ハンガリーのNGOによれば、「カルパティア旅団」は単なる暴力的なフーリガン以上の、極右、ネオナチで構成された準軍事的な団体であると言う。彼らは、スロバキアの一部など、1920年代のハンガリー帝国の領土の返還を要求している。これまでも、スタジアムでナチス式敬礼を行い、アフリカ系の選手がボールを持つとすかさず猿の鳴き真似をするなどの行為で、再三の注意を受けていた。今回のレインボーカラーに関する議論を「カルパティア旅団」のFacebookで“ドイツのヒステリーメディア“と言って憎しみを掻き立て、「目に物を見せてやる。これは大きな戦いになるぜ」と宣言していた。

 試合はハンガリーが先制する。始終ドイツは反撃を試みるがうまくいかない。スタジアムには大粒の雨が降り注ぎ、ドイツは流れを掴むことができなかった。後半序盤からレオン・ゴレツカが投入され、フリーキックからカイ・ハフェルツが1点をあげたが、喜んだのも束の間、2分後にはハンガリーが2点目を決める。何度もシュートを放つものの一つも決まらず、ジャマル・ムシアラ、ケヴィン・フォラントの2人が投入された直後、試合開始から84分、奇跡が起こった。ゴール前のこぼれ球を、ゴレツカが押し込み、同点を奪ったのだ。ドイツを救ったゴールの後、ゴレツカは指でハート型を作り、「カルパティア旅団」で真っ黒になったゴール裏に見せつけた。

 彼のインスタグラム には、真剣な眼差しでハートを見せるゴレツカの写真と「Spread Love」のコメントとレインボーフラッグがアップされ、47万以上ものいいねが集まった。

 この試合が明けて3日後に、ベルリンで開催されたプライドパレード「クリストファーストリートデー・星のデモ」では、プロテスタント教会が同性愛は罪深いものではなく「ホモフォビアこそが罪なのだ」というモットーのもと、パレードの先陣を切る。ロシア語やハンガリー語のプラカードも見かけた。市内3か所からスタートし、星を描くように合流したパレードでは、女性差別や人種差別などにも焦点が当てられていた。誰もが、様々な多様性を持って自分らしく、しかし一緒に一つの場所に集まって……。

 サッカー欧州選手権に端を発する大きな波は、多くの人たちは、寛容と多様性のある世界を支持する準備ができているのだと、教えてくれたようだ。


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ベルリンのプライドパレードの様子。ロシア語とドイツ語で「ホモフォビアこそが罪だ」と書かれている。

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