吸水ショーツが薬局で買えないのはナゼ? フェムテックのこれから

文=原宿なつき
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GettyImagesより

 フェムテックという言葉が普及し、吸水ショーツや月経カップの認知度が高まっています。ところが、現物は限られた店舗でしか確認できず、多くはオンラインでの販売のみにとどまっています。

 日用品であるはずの商品が、なぜ薬局やスーパーに置かれていないのか……そう感じている方も少なくないのではないでしょうか。そこで、フェムテックにまつわる素朴な疑問をフェムテック企業「fermata(フェルマータ)」の共同創業者でCCOの中村寛子さんに聞いてみました。

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中村寛子
Edinburgh Napier University 卒。2015年「mash-inc.」を設立。女性のエンパワメントを軸に、ジェンダー、年齢、働き方、健康の問題などをテーマにセッションやワークショップを行うダイバーシティー推進のビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画プロデュース。2019年「fermata」(フェルマータ)を共同創業し、フェムテック関連のコミュニティ運営、イベント開催、プロダクトの開発、販売を行なっている。

●「フェムテックとはなにか?」をお伺いしたインタビュー前編はこちら

フェムテックプロダクトが薬局やスーパーに流通しにくい3つの理由

――前々から疑問だったのですが、なぜ、吸水ショーツや月経カップといった日常的に使う商品が薬局やスーパーに置いていないのでしょうか?

中村寛子さん(以下 中村):一部の薬局では月経カップを置いているところもあるみたいですが、まだまだ少ないですよね。 実は、fermataも薬局やスーパーから、お声がけいただいたことはあるんです。ただ、ハードルとなる理由が3つあります。

 一つは、まだルールが整っていないことです。吸水ショーツや月経カップは、多くの薬局やスーパーにとって、取り扱った前例がない商品です。そもそも物理的に棚が空いていないということもあると思いますし、どの商品であれば安心して自社のお客さまに届けられるかという判断が、特に大きなお店だと難しいのではないでしょうか。国による整備が進めば、判断はつきやすくなると思います。

 二つ目の理由は、原価の問題です。吸水ショーツや月経カップといった商品は、まだ製造数がそれほど多くありません。そのため、大量生産の商品と比べるとどうしても原価が高くなってしまいがちです。大きなチェーン店さんでは、流通手数料などでマージンもかさみますので、「計算してみたら、ほぼ利益が出なくなってしまった」というケースも多いのです。

 三つ目の理由は、現状、フェムテックプロダクトは「ただそこに置いておけばいい」というタイプの商品ではないということです。吸水ショーツや月経カップを「これから使ってみようかな」と考えているお客様は、商品の説明を聞いて、疑問を解消したうえで購入したいという方が多いんです。ナプキンをひとつ買うのに比べて、価格も高くなりますから、購入のハードルも低いとは言えません。

 そういった理由から、まだスーパーや薬局など、気軽に買える場所には広く流通していない、というのがfermata の予想です。

フェムテックは、タブー視されてきた女性の身体にまつわる様々なことを語りやすくする

――フェムテックに関しては、まだまだ整備されていないことも多いんですね。中村さんが「fermata」を設立されたのは2019年ですが、当時は今よりもフェムテックという言葉がまだ市民権を得ていませんでした。そんな中で会社を設立したきっかけは何だったのでしょうか?

中村:私自身、20代のときはキャリアと健康の両立に苦しんでいたんです。女性特有の体調不良でつらいときでも、「やっぱり女性は……」と言われたくなくて、無理をして働き、体調を壊してしまったこともありました。

 そんなときにフェムテックに出会い、「女性の身体に対して、女性自身が様々な選択肢を持てること」「フェムテックを通じて、これまでタブー視されてきた女性の身体にまつわる様々なことが語りやすくなること」に大きな魅力を感じたんです。

 フェムテック関連で何か事業ができないか……と考えていたときに、共同創業者となるAminaと出会い、ともに事業を立ち上げることにしました。

 2019年から事業を開始し、現在はオンラインショップでフェムテックプロダクトを販売するとともに、企業向けのコンサルティング事業やイベント開催なども行なっています。

 フェムテックプロダクトは、現状、オンラインで購入されている方が多いかと思います。ただ、やはり実際に見て、触ってから安心して購入したいというお声もあり、そういったニーズに応えるため、昨年7月には乃木坂に実店舗を構えました。

 実店舗を運営するなかで、お客様の声に直接触れられることは、とても貴重な機会だと感じています。昨年の夏には、お客様から「夏場はムレて、生理時の匂いが気になる。匂いを消すスプレーもあるけれど、シュッという音が気になって使いにくい」という声をいただきました。そういった声を受け、スプレーより音がしにくいミストタイプの手軽に持ち運びができる商品を販売したこともありました。

――フェムテックや生理の貧困が注目されるなど、以前よりも女性の生理現象はタブー視されなくなりましたが、それでも「職場で男性上司には生理だと言いづらい」といった声も残っています。タブー視せず語るために必要なことはなんだと思われますか?

中村:「新しいモノ」を媒介にすることで語りやすくなる、というのはあると思います。

 たとえば、企業さまに出向いてお話をする際、生理用ナプキンについては語りにくくても、吸水ショーツや、月経カップを紹介すると、興味津々で手にとられて、話が弾むことがあるんです。

 ナプキンは、購入時に隠すように包装することが当たり前になっていますし、隠すもの、語られないもの、というイメージが強いですよね。一方で新しいモノには先入観がありませんから、自由に語ることができるんです。

――たしかに、吸水ショーツや月経カップは、おしゃれな包装がされることはあっても、隠すための包装はされませんね。そこから翻って、「あれ、なんでナプキンって隠さなきゃならなかったんだっけ」と考えるきっかけにもなりそうです。

中村:そうですよね。そういった意味でもフェムテックは、「女性の心身にまつわる固定観念や価値観を揺さぶるムーブメント」と言えるのだと思います。

 フェムテックという「モノ」を通してなら、これまで語られなかったタブーを語り、自分にとって本当によい選択肢はなんだろうかと考える機会を提供できるのではないかと思います。

生理、セクシャル、妊活サポートグッズ……などフェムテックプロダクトは多様

――フェムテックプロダクトには、どういったものがありますか?

中村:現在fermataで扱っているのは、月経に関するもの、妊活アイテム、セクシャルウェルネスプロダクトなどです。

 たとえば、妊活に関するものですと、先日、「ファーティリリー カップ」というオランダ発の医療機器が発売になりました。装着することで子宮の入り口に精液を保持し、性交渉後の精液流出を低減してくれます。

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 これまで、精液の流出を防ぐために「性交渉後に逆立ちになる」などの方法をとられることもありましたが、「ファーティリリー カップ」を使えば、無理な体勢をとることなく、日常生活を送りながら過ごすことができます。

 「ファーティリリー カップ」の開発者はオランダ人のロバートさんで、彼自身、長年パートナーと妊活を行っていた経験を持つ男性です。同じ悩みを抱えるカップルを早い段階でサポートできるように、という思いからプロダクトを開発したそうです。

 日本では、妊活で“気軽に使える”プロダクトはまだまだ少ないというのが現状です。妊娠を考え始めた初期段階で使えるプロダクトを流通させることで、選択肢を広げることができれば、と考えています。

―― 最後に、fermataが今後目指す方向をお聞かせください。

中村:起業した当初は、フェムテックやウェルネスに関心がある方にアプローチしていましたが、今後は、フェムテックという言葉に関心がない方にも知ってもらえる方法を模索していく予定です。そのためにも東京以外の場所でも積極的にポップアップショップを展開していきたいと考えています。7月には名古屋、8月には福岡へ行く予定です。

 コロナ前は、それこそ「日本全国を回る!」と張り切っていたのですが、感染の状況なども見ながら最適な方法を考えていく必要があると現在は考えています。

 弊社は2019年に起業し、直後にコロナにより先が読めない状況になりました。苦労もありましたが、イベントなどをオンラインで開催したことによるメリットもありました。オンラインのイベントですと、画面をオフにできるなど、心理的安全性を確保したうえで情報にアクセスできるため、気軽に参加できたという方も多かったようです。

 今後は、オンラインや実店舗を通じて自分の体に向き合う時間をとってもらい、「自分の身体のオーナーシップを持つこと」の大切さを伝えていくことで、「個人のウェルネス」がタブー視することなく語られ、尊重される社会の実現を目指したいと考えています。

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