入管法改正案の廃案でわかったこと…市民が声をあげることには意味がある!

文=織田朝日
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Getty Imagesより

 東京オリンピック、パラリンピックが決定したことをきっかけに入管行政は一変した。2016年4月、法務省・入国管理局(現・出入国在留管理庁)の入管局長による「東京五輪・パラリンピックの年までに、安全安心な社会の実現のため、不法滞在者ら社会に不安を与える外国人を大幅に縮減することは、喫緊の課題」との内部通達が全国の収容施設に出回ったのだ。

 その頃からだんだんと収容施設に入れられる非正規滞在者が増加していった。2018年2月からは収容者を解放しない方針を固めたようで、本格的な長期収容となっていった。

 解放されたとしても自由になるとは限らない。解放後わずか2週間でまた収容するといったケースもあった。そのような陰湿なやり方で人々を絶望に追い込み、帰国させていったのである。

 母国に帰ると迫害の恐れのある難民や、日本に家族がいる人たちなど、どうしても帰国できない人たちは、拘禁症状に陥り、病気になる人や自殺未遂をする人も後を絶たなかった。いつ解放されるかわからない無期限の収容、また、家族が引き裂かれる苦しみに耐えられる人などいない。

 2019年6月、長崎県の大村入管でナイジェリア男性が餓死により死亡した。長期収容に抗議してのハンガーストライキだったと言われているが、詳細は定かではない。

 法務省はこの事件を受けて、長期収容の解消を名目に10人の識者を集め「収容・送還に関する専門部会」を発足。専門部会の意見が土台となり、2021年4より入管法改正案が参議院より審議されることとなった。

 しかし、その結果出てきた改正案は、人権を考慮したものとは言い難いものだった。

・3回目の難民認定申請以降は強制送還が可能に。帰国を拒んだ場合、刑事罰が科せられる。
・仮放免中の就労も刑事罰の対象となる。
・監理措置制度の導入。入管が決めた人を監理人とし、仮放免者の動向を入管に報告しなければならない。

 現状をさらに悪くする恐れのある改正案は、審議入りして何度も法案が通ることが危ぶまれたが、最終的には反対派の勢いが強く、廃案になった。弁護士や支援者、タレントや学生、学者など様々な立場の人たちが非正規滞在者の人権のために声をあげ、画期的な成果につながったのだ。

 2021年3月に名古屋入管でスリランカ人のウィシュマさんが亡くなった痛ましい事件も大きな抑止力となった。

 入管の犠牲となった収容者はウィシュマさんだけではない。1997年から収容者の死亡件数は24人と言われている。医療放置の末に亡くなってしまった人もいれば、自殺してしまった人もいるし、長期収容にハンガーストライキの結果衰弱して亡くなった人もいる。

 痛ましい話ばかりだが、ここまで死亡事件が大きく話題になったのはウィシュマさんが初めてだった。それだけ入管の問題が周知されたということかもしれない。

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