小学生の学年別「算数のつまずき」対処法 学習支援専門家・澳塩渚さんインタビュー

文=柳瀬徹
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小3のつまずき

――3年生になるとコンパスや分度器など、使ったことのない道具が増えますね。

この年代になると、体の動きを制御することがうまい子と、ゆっくり発達する子の差が出始めます。体育の内容も「楽しく体を動かす」の段階は終わっていますし、周囲と自分とを比較する視点も育ってくるので、ほかの子との差を意識し始める年代でもあります。なので、道具をうまく使えないことのストレスも大きくなりがちです。

――コンパスは高学年になっても苦労した覚えがありますが、中学以降であまり使った記憶がありません。

そうなんですよね。教師も保護者も「人並みに使えるようにならないと」と考えがちですが、最近は簡単に円が描けるように工夫されたコンパスや、滑り止めのついた定規や分度器も発売されていますので、ここでつまずくと図形の勉強そのものが苦痛になりかねないので、使いやすいものを選んでもいいのではないかと思います。

――図形の学習に入る前に、コンパスで円を重ねて図形を作ったりして、コンパスの練習をした覚えがあります。

苦手な子は、円を描くことがまずできないんですよね。先生に「自由に絵を描いてみましょう」と言われて、鉛筆のように握って絵を描いたところ、「ちゃんと丸を描きなさい」と注意されて傷ついてしまう子どもも多いです。先生としては遊びのなかで使い方を覚えてほしいのですが、子どもからするとそもそも遊びになっていなくて、この段階で苦痛になってしまうんですよね。

――苦手意識さえなければ、ある程度の不器用さは体や神経の発達で解消されそうな気がしますが、早い段階で苦手だと思うとその克服はなかなか難しそうですね。

「今やっていることが楽しい」とか、「自分でもできる」という感覚がないと、なかなかその先に進めなくなってしまうので、やはり最初のハードルはぐっと下げてもいいんじゃないかと思います。

――ほかに、3年生の算数といえば分数が登場します。小数の基礎もこの学年ですね。

それまでは「1、2、3」と整数で表現される「分離量」だけだったのが、0と1、1と2の間に無限に数がある「連続量」が扱われるようになります。ところがどうも、この「無限」が納得できない、イメージできないようです。ふだんの生活のなかで、「1.25個のリンゴ」を扱うことはほとんどないので、生活イメージと対応させにくいのだと思います。

分数については、カステラを切るのが一番イメージしやすいでしょう。私にはきょうだいがいたので、定規をあてて切ったりしました(笑)。「1本」のカステラが、食べる人数によって4つに分かれたり、5つに分かれるという体験は、分数のイメージにはうってつけです。

――小数はどうすればいいでしょうか。

ゲーム感覚で、生活の中の「隠れ小数」を探すことをおすすめしています。たとえば350mlの缶は0.35ℓですし、500mℓペットボトルなら0.5ℓと、小数にすることができます。身長が130cmなら1.3mと、毎日接するもののなかに意外と小数は隠れていますし、単位換算のトレーニングにもなります。ペットボトルは一番わかりやすいですね。

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澳塩渚著、平岩幹男編『ワークつき 子どものつまずきからわかる算数の教え方』(合同出版)より

――ややこしいのは「mℓ(ミリリットル)」と「dℓ(デシリットル)」の混在です。それぞれ1000と10で1ℓにくり上がるというのは、どうしても混乱します。

「デシ」はややこしいですね。私も子どもに教える時は、必ず換算表をそばに置いています。体積に換算する場合でも、1㎖なら1㎤なのでわかりやすいのですが、1㎗をパッと体積に換算できる人は多くないのではと思います。中学以降では専門職でないとデシを使う機会はほとんどなくなるので、㎖とℓに統一してもいいのでは思うのですが。

ℓと㎗、㎖の換算は、やはりペットボトルなど暮らしに馴染みのあるものを使って覚えるのが近道でしょう。

小4~6のつまずき

――小学校高学年の算数になると、親が気軽に「教えてあげるから見せてごらん」と言える内容ではなくなってきます(笑)。

3年生までで四則計算は一通り習い、4年では大きな数の計算をすることになります。算数の基礎編といえる内容は4年までですので、ここまでのつまずきは解消しておけるといいですね。

――では5~6年でつまずいた場合は……

1~4年のどこかに原因があると考えられ、たいていは3~4年のどちらか、計算の手順であるとか、基本的な図形の知識に習得できていないところがあります。逆に言えば、5~6年のつまずきは原因を突き止めやすく、1~4年のどこかに戻ればいい、ともいえます。

――通信教材やタブレット学習などだと、前の学年の単元にすぐには戻りにくいように思うのですが。

「戻り学習」のしやすさでは、たとえば「スタディサプリ」 は小4~高3までの授業映像が見られるようになっているので、戻ってつまずきを解消したい場合や、逆に自分の興味でどんどん進んでいきたい子どもには向いているかも知れません。

また、個人の使用であれば無料の「eboard」は、やはり小中学校の教科と高校の数学Ⅰまで授業動画と教材が見られるようになっているので、小1~3のつまずき解消には使いやすいと思います。

通信教材の利点は、どの単元もコンパクトに設計されていて、集中力を持続させる仕掛けが工夫されていることですね。今の子どもはさまざまな活動でとても忙しいので、負担を小さくする意味でもサクッとできることはメリットです。

――提出課題など、親としてはノルマの達成度がどうしても気になりますが、授業でわからなかったところの補強や、逆に興味でどんどん進んでいきたい子に自由に使わせるなど、全部こなすことにあまりこだわらなくてもいいのかも知れませんね。

そうですね。教科書に載っていない問題や解説に触れられるだけでも大きな意味がありますから、ノルマや課題にこだわりすぎずに気軽に活用することをおすすめします。

サポートの活用

――子どもの勉強で苦手や遅れが生じた場合、学習塾や家庭教師の活用を考える保護者は多いと思うのですが、向き・不向きの判断はなかなか難しいものがあります。また、つまずきの原因にしっかりアプローチしてくれるかどうかも不安ですね。

そうですね。児童精神科医の吉川徹先生が、Eテレの「発達障害って何だろう」という番組で、「『できる』と『できない』の間に『できるけど疲れる』ことがたくさんある」とおっしゃっていたのがとても印象に残っているのですが、勉強についても「できる」と「できない」の間に「できるけど大変」がたくさんあるのだと思います。学習障害や発達障害といった診断は出ていなくても、何か大きなつまずきを抱えている子どもが支援のはざまに落ちてしまっていて、「できるけど大変」に苦しんでいる可能性があります。

ある調査で不登校傾向にある中学生にその理由を尋ねたところ、「疲れる」「起きられない」といった身体的症状以外の要因では、学業に関する理由がかなり大きなウエートを占めていることがわかりました。

――いじめなど人間関係も大きな理由ですが、それ以上に学業から不登校になる生徒も多いのですね。

勉強のつまずきが少し大きいと思ったら、どんどんサポートを活用してほしいと思います。自治体の総合教育センターでは相談は無料ですし、診断結果に関わらず、何らかの対処法は必ず教えてくれますから気軽につながってほしいですね。

――親としては「これくらいのつまずきはどの子どもでもよくあること」と思いたくなってしまいますし、実際に「よくあるつまずき」なのだとしても、学校の先生や親以外の視線が入ることでわかることはありそうです。

理解や認知への道筋は人それぞれで、得意や苦手も大きく異なり、専門家でないとサポートが難しい領域がたくさんあります。サポートなしで「支援のはざま」に放置されてしまうことは、その子にとっても親にとっても辛いことです。困りごとがあった時だけごく短期のサポートを受けるということでも構いませんし、小さなつまずきが積み重なって大きなものにならないように、どんどん人の手を借りてほしいと思います。

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