説明責任放棄の呪文と化した「丁寧に説明する」という詭弁

文=山崎雅弘
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Getty Imagesより

●山崎雅弘の詭弁ハンター(第8回)

 2012年12月に第二次安倍政権がスタートして以来、政治の世界では、特定の日本語が本来の意味から外れて使われる事例が増えたように思います。

 安倍晋三前首相が、国会答弁の中で口癖のように述べた「まさに」も、本来は「疑いようがなく」や「我が意を得たり」という場面で使われる言葉のはずです。しかし、安倍氏は質問と違う話へと論点をすり替えたり、事実と違うことを強弁する際に、それが質問への答えであるかのように見せかけるトリックとして「まさに」を使っていました。

 その安倍前首相と、同政権で官房長官を務めた菅義偉現首相が、記者会見などで述べる「丁寧に説明する」という言葉も、本来の意味とは実質的に正反対の形で、自分たちが誠実に職務を行っているかのように偽装する意図で多用されている詭弁です。

 今回は、一見すると大した問題ではないように見えて、実は安倍前首相と菅現首相の傲慢な政治スタイルを色濃く反映した、この詭弁に光を当ててみます。

2つの問題を内包する「丁寧に説明する」という詭弁

 2013年12月9日、安倍首相(当時、以下同)は記者会見で、3日前の12月6日に成立した特定秘密保護法について「今後とも国民の懸念を払拭すべく丁寧に説明していきたい」と述べました。

 特定秘密保護法は、戦前の大日本帝国に存在した「軍機(軍事機密)保護法」(1899年に公布され、日中戦争勃発後の1937年8月7日に改正)と同様、漏洩すると国の安全保障が脅かされると政府が見なす情報を「特定秘密」に指定し、漏洩者や知ろうとする者等を処罰する法律で、恣意的な運用の余地があるとして国民から批判を浴びていました。

 2年後の2015年7月15日、集団的自衛権の行使に繋がる等の理由で国民の激しい批判を受けた安全保障関連法案が衆院の特別委員会で可決されたことを受けて、安倍首相は記者団に「国民にさらに丁寧にわかりやすく説明していきたい」と語りました。

 さらにその2年後の2017年6月19日には、安倍首相は4日前の6月15日に国会で成立した「共謀罪」法(犯罪を計画段階から処罰する『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ改正組織的犯罪処罰法)について、国会閉幕の記者会見で「国会の開会、閉会にかかわらず、わかりやすく丁寧に説明したい」と述べました。

 この時の安倍首相の発言には、当時追及されていた「加計学園」問題(安倍氏の親しい友人である加計孝太郎氏が理事長を務める学園が不正な便宜供与を受けたのでは、という疑惑)についての「説明」も含まれていましたが、安倍首相は2018年4月26日にも、加計学園問題について「事実に基づき、丁寧な上にも丁寧な説明をしていく努力を重ねたい」という言葉を記者団に語っていました。

 他にも、安倍氏が「丁寧に説明する」と発言した例はいくつもありますが、ここに列挙した4つの例のうち、最初の3つは「国民の批判を浴びた法案が成立した直後」になされた発言でした。しかし、この安倍氏の態度には、2つの大きな問題が存在しています。

 1つは、法案をまず国会で通してから、国民に「丁寧に説明する」という順序の問題。民主主義国では本来、政権与党が民意を無視して法案採決を強行する手続きは許されませんが、与党である自民党と公明党は、3つとも強行採決という手法で押し通しました。

 これらの法案を批判する人の多くは、憲法学者をはじめ、その内容を深く理解した上で、プラス面よりもマイナス面の方が大きいとの懸念からそうしているのであって、「法案に関する説明が足りないから」反対しているのではありません 。

 しかし、強引に採決した後で国民に「今後も丁寧に説明する」という安倍氏の言葉は、「反対する人間が多いのは、政府の説明の量が足りず、内容をちゃんと理解していなかったから」で、法案自体には何の問題もないかのような印象を、国民に広めることができます 。こうした、政府の方策を批判する人間を馬鹿のように印象づけるイメージ操作を、安倍政権はよく使いました。

 そしてもう1つは、「丁寧に説明する」と約束したにもかかわらず、法案が通ればもう安倍首相はその件に触れなくなったこと。新聞やテレビの記者も、首相の発言の事後検証や説明の要求などを行わず、やがて社会から忘れられた形となりました。

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