正解がわからない現代だからこそ「人生相談」に価値がある 社会学者・池田知加さんに聞く

文=斎藤岬
【この記事のキーワード】

いま、人生相談に意味はあるのか

――回答者側のスタンスも時代ごとに変化はあるのでしょうか。

昔の回答をいま読むと「偉そうだな」と感じるところがあります(笑)。それも社会を反映しているんですね。かつての回答者は「“正解”を知っている人」なんです。「こう生きるのが正しい」という規範があるから、それに則って“正しい”答えを出している。でも今は、回答者たちも「人生に絶対の“正解”はない」と重々わかっている状況です。だから偉そうなことは言えないし、「決めるのはあなた自身です」と言うしかない場合も増えてきます。

――さきほど「問題診断志向」のお話がありましたが、「こんなことで悩んでる自分はおかしいのか」と問われるようになると、出される回答も変わってきそうです。

悩みの内容自体を否定するような回答もままあります。これも時代と共に変わってきていますね。特に変化があったのはセクシャリティや性に関する相談です。たとえば「同性を好きになってしまった」「結婚前に処女でなくなってしまって落ち込んでいる」といった相談があったときに、現代では「どう解決すべきか」ではなく「それを問題とみなして悩むのは間違いですよ」と伝えてあげる。そのうえで事態を整理して技術的な解決手段を提示することもあります。

――今回、私がもともと想定していた人生相談企画が本来の定義とズレていたのですが、やはりうかがいたいのが「いま人生相談に意味はあるのか」という点です。仰るように生き方が多様化した社会において、なぜ人は人生相談に相談をするのでしょうか。

近しい人だからこそ言えない悩みってありますよね。それと、大学で教えていて感じることですが、特に今の若い人はすごく気を使い合いながら会話をしているので「私ごときの悩みに時間を割いてもらうのは申し訳ない」という感覚があると思います。その分、全然知らない人に匿名だからこそ聞けることがあるんじゃないでしょうか。

それに、普段の生活の中でかかわっている人から出てくる助言は想像の範囲内だったり、自分の世界を超えないと思うんです。まったく違うところに立っている人なら、最初から観点が違っていて新鮮な回答が得られる可能性があるのかなと。

――人生相談そのものは、そのフォーマットを用いたエンタメ以外にどんな意義を持てると思いますか?

まさに多様な生き方の時代だからこそ、誰も正解がわからないことがたくさんあります。価値が多元化して「これが正しい答えです」というものはもはや存在しない。人生相談というオープンな場で問題を共有して、そこで発生するやり取りをひとつの契機にみんなで「何が正解なのか」を考えていくというのは、現在の人生相談が持てる意義なのかなと思います。正解はケース・バイ・ケースです。だからこそ、単なる読み物やエンタメの消費物に留まらない意味があるのではないでしょうか。

――読み手も一緒になって考えるところまで含めての意義がある、と。

読んだ人が「いや、自分はこう思う」と感じたら、今は発信もできますよね。誰かが用意した答えをそのままなぞるのではなく、一緒に考えていく。今後はそうなっていくんじゃないかなと思います。

――ただ、人生相談を読んでいると、単に自分の野次馬根性を満たしたいだけなのでないかと後ろめたさを感じるときもあるんですが……。

それは私もありますよ。「これは人生相談に投稿している場合なのか?」と思うほど深刻な問題に直面している人に対して、自分はそれを読んでいるだけという後ろめたさもあります。ただ、相談者は本当に誰にも知られたくない悩みは投稿しないと思うんです。無理やり相談させてるわけではないですから。だから読み手が後ろめたさを感じすぎる必要もないんじゃないかな、と思います。それに、読売新聞の「人生案内」を例に挙げると、本当に差し迫った相談に対しては専門機関の存在を知らせているんですね。心療内科に行くことを勧めたり、虐待や暴力については自治体の相談窓口を紹介したり。

――回答者が介入するパターンもあるんですね。

昔のほうが多くて、やはりだんだん少なくなってきてます。たとえ回答者であっても、そこまで他人の人生にズケズケ言えないということなんだと思います。それでも、本当に深刻なときは介入しています。介入すること自体が知識の共有になることもあります。

たとえば70年代頃までは「これは明らかにDVだ」と思う相談に対して「ちょっとしたわがまま」「駄々っ子な夫を許してあげよう」といった回答がほとんどなんですね。でもそれこそ「人生案内」では作家の落合恵子さん(1984〜2007年のレギュラー回答者)がかなり早い時期から「それはDVですよ」「被害を訴えていい」と回答していて、ある意味で啓蒙的な役割を果たしていました。そうした部分も含めて、人生相談がオープンにされることの意義はあると私は思っていたいです。

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