フェミニストへの罵倒表現「ツイフェミ」の背景にある4つのキーワード

文=後藤和智
【この記事のキーワード】
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GettyImagesより

社会的背景

 ネット上で見られる「ツイフェミ」という言葉があります。この表現は「(特に男性向け)メディアカルチャーを攻撃する過激な/凶暴なフェミニズムないしフェミニスト」という使われ方を超えて、フェミニズムやフェミニスト一般に対する罵倒表現として広く使われていることを、データを交えつつ見てきました。

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 インターネット上において、女性や女性が消費する文化に対するバッシングや蔑視は後を絶ちません。例えば、ボーイズラブ二次創作などを好むいわゆる「腐女子」に…

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フェミニストへの罵倒表現「ツイフェミ」の背景にある4つのキーワードの画像2 ウェジー 2021.07.09

 そこにはフェミニズムやフェミニストに対する純粋な憎悪に加え、それらを嘲笑するというネット上の文化におけるコミュニケーションの様式も見て取れます。

 この奇妙な概念の背景には、私は4つのキーワードにて示されるものがあると考えます。

 第一に「(日本型)ポストフェミニズム」です。ポストフェミニズムというのは、特に2000年代以降において、主に《若い女性を中心に広がる、フェミニズムに対する嫌悪感や否定的な意識》(菊地夏野『日本のポストフェミニズム:「女子力」とネオリベラリズム』(大月書店、2019年)p.70)であり、フェミニズム運動に対するバックラッシュとはまた違ったものであるとされています。これは、フェミニズムに対して《ロマンスやゴシップを楽しむことを禁じ、良い夫を見つけられるかどうかという不安をもつことを否定するもの》(菊地、前掲p.73)というイメージが広く薄く共有されている状況を示しています。

 そしてポストフェミニズムにおけるメディア文化については、女性の主体性を肯定しつつも自己愛的な「セクシーな身体」を求め、また男性的な成功を求めるような競争を促したり、「科学」の名の下に男女の差異を強化するような言説が流通されるようになると言われています。

 菊地夏野はここ数年の政策課題である「男女共同参画(社会)」に触れ、《重要なのは、その基本的考えが「性差別の是正」ではなく、「男女が協同に社会に参画する」というものである点》として、《差別の存在は曖昧なままで、男女の参画を推進するのが良いことだと》して、さらに《規範的性差にもとづく異性愛主義を再生産させるなど、数々の問題を生むこととなる》(以上すべて、菊地前掲p.80)と述べています。

 さらに、菊地は《男女共同参画行政はフェミニズムと一体のものとして見られ、「国が女性差別を禁止している」ものと考えられている》《女性差別を禁止するフェミニズムが国家や政府をあたかも「牛耳っている」とイメージされ、実際以上に権力をもっているものと思われている》(共に菊地前掲p.70)と述べています。これについては、2000年代前半以降、保守派が「ジェンダーフリー」をバッシングする過程で展開する、男女共同参画とはフェミニズムに基づく男女共同参画を推進することにより、家庭や社会の秩序を破壊することであるという(誤った)認識と合致しています(詳しくは、能川元一、早川タダノリ『憎悪の広告:右派系オピニオン誌「愛国」「嫌中・嫌韓」の系譜』(合同出版、2015年)、山口智美、斎藤正美「2000年代「バックラッシュ」とは何だったのか」(『エトセトラ』第4号、pp80-84、エトセトラブックス、2020年)などを参照)。

 その傍らで「女性の社会進出」「女性の活躍」がメディアや政府によって喧伝されることで、《日本社会では「女性差別はなくなった」というイメージが醸成され、「にもかかわらず『女性は差別されている』というプロパガンダを唱えるフェミニズム」への反感が生み出されている》(菊地前掲p.80)という状況が生まれています。

 このように一方的に「強制終了」された日本のフェミニズムですが、政府やメディア、消費文化によって「強制終了」されたのはフェミニズムに限らず、反レイシズムや反障碍者差別などにも似たような状況を見て取れます。そのような状況下における差別のあり方を示す概念として、第二の概念「現代的レイシズム」(象徴的レイシズムとも)が挙げられます。

 古典的なレイシズムが、例えば白人中心社会における黒人への差別は、《黒人は道徳的、能力的に劣っているという信念に基づく偏見》(高史明『レイシズムを解剖する:在日コリアンへの偏見とインターネット』(勁草書房、2015年)p.13)であったものが、20世紀半ば以降そのような偏見が社会的に要因されないものとなると、代わりに「現代的レイシズム」と呼ばれるものが出現したといいます。

 それは、《黒人に対する偏見や差別はすでに存在しておらず》《したがって黒人と白人の間の格差は黒人が努力しないことによるものであり》《それにもかかわらず黒人は差別に抗議し過剰な要求を行い》《本来得るべきもの以上の特権を得ているという》(高、前掲pp.13-14)によるものだとされております。高史明は、我が国における在日コリアンに対する差別について「在日特権」という言葉に見られるような「コリアンは特権を持っている」という認識が、現代的レイシズムにあたるとしています。

 この概念は、2000年代半ば以降のいわゆる「ロスジェネ」論を読み解く上でも重要です。2000年代半ばごろに生まれた「ロスジェネ」論においては、女性は少なくとも結婚して経済的な強者である男性に「養ってもらえる」ので、収入にも恋愛にも恵まれないような「弱者男性」こそが「真の弱者」などとするような論調の議論があり、現在でも続いています。

 しかし、女性(特に非正規労働者)や障碍者が置かれた状況は2000年代においてもほとんど好転していません。2000年代になって「新しいタイプの弱者」として(主に就職氷河期世代の)非正規労働者男性が採り上げられたという経緯がありますが、彼らを「代弁」するかのような論客は、元々厳しい状況に置かれてきた女性や障碍者などと連帯するのではなく、逆に彼らもまた正社員とはまた違った特権階級であるかのように批判しています。これもまた女性差別や性暴力といった問題がなおざりにされたままフェミニズムが「強制終了」されたこととも無関係ではありません。

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