
Getty Imagesより
「あなたはどうやって避妊をしていますか?」——そう問われた際、現在の日本においては「コンドーム(男性用)」と答える人が大半を占めるだろう。しかし、男性用コンドームの年間避妊失敗率は2~18%と言われており、避妊効果は十分とは言えない。
また、男性用コンドームはペニスに装着するものであり、男性主体の避妊方法だ。一方海外では、ピルを始め女性主体の避妊方法が複数存在し、各々が自分に適した方法を選択している
世界に存在するさまざまな避妊方法や、緊急避妊薬、中絶方法、日本と海外の「性と生殖に関する健康と権利(Sexual and Reproductive Health and Rights【SRHR】)」の違いについて、「#なんでないのプロジェクト」の福田和子さんに話を聞いた。

福田和子(ふくだ かずこ)
#なんでないのプロジェクト 代表。#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト共同代表。 スウェーデンヨーテボリ大学大学院公衆衛生学修士課程。 She Decides SRHRアクティビスト世界の25人、 Women Deliver Young Leader 2020選出。スウェーデンへの留学をきっかけに、日本の性の健康をめぐる環境があまりに整っていないことに問題意識を持ち、「#なんでないの プロジェクト」を開始。性で傷つくのではなく、人生を豊かにする社会を目指して、執筆や講演活動などを行う。
海外では自分に合った避妊方法を選べる
避妊方法として男性用コンドームやピルの存在は知っている人も多いだろうが、世界には他にも多数の避妊方法が存在している。
■IUS/IUD
病院にて子宮内に装着する。一度入れると5~10年つけっぱなしにすることが可能。日本では主に出産経験のある人に勧められるが、出産経験がなくても挿入してくれる病院もある。海外にはより小さくて思春期の若者でも装着しやすいものもある。避妊率は99%。日本で主に使用されているIUSは「ミレーナ」である。
■インプラント
二の腕の辺りにマッチの大きさほどの器具を入れる。一度入れると3年間ホルモンが出て避妊ができる仕組み。避妊率は99%。
■避妊注射
3カ月ごとに接種する。アフリカや東南アジアで人気。WHOの性暴力被害者の手引きによると、「避妊をさせない」ことも一種の性暴力であり、そうした被害に遭っている人には、プライバシーを守られやすい方法として、避妊注射が勧められている。
■避妊リング
柔らかいリング状のものを自分で膣の中に入れる。リングからホルモンが出てて避妊効果を得る仕組み。3週間続けて1週間休むサイクルで行う。
■避妊シール(避妊パッチ)
シールを貼るとホルモンが肌から吸収され、避妊ができる。1週間に1回貼り、4週間サイクルを繰り返す。
※ピル、避妊シールは1週間に1回の休みをスキップして出血期間をなくすこともできる。ピル、IUS、避妊注射、避妊シールといったホルモンを含むものは、生理痛が軽くなったり経血が少なくなったりする効果もある。
■女性用コンドーム
女性が装着するコンドーム。避妊失敗率は21%と男性用コンドームよりも高い。

引用元:U.S.Department of Health and Human Services: Centers for Disease Control and prevention
※避妊の説明:Planned Parenthood参照
現状、日本で入手できるのは、一部のIUS/IUD、一部を除いたピル、そして男性用コンドームだけだ。
アメリカでは、生理の軽減、ホルモンの有無、膣に入れることへの抵抗感の有無、セクシャルプレジャー、プライバシーなど様々な観点を考慮し、どの避妊方法が自分に一番合うか診断できるクイズもある。
だが、日本では使用できないものが多く、自分にあった避妊方法を選ぶといっても選択肢が少なすぎる。これらの避妊方法は避妊シールを除き、WHOの「必須医薬品リスト」に入っており、海外が進んでいるというより、日本が特殊だと言えるだろう。
選択肢の少なさは来日した外国人も困らせている。今まで使っていた避妊方法が日本では選択できないうえ、ピルも海外に比べると高額である。欧米諸国だけでなく、東南アジアやアフリカ諸国も含む世界各国において、避妊は国民保険サービスの一部として無料、安価な場合が多い。スウェーデンやドイツのように、年齢を区切り若者にのみ無料、という国もある。
緊急避妊薬が必要になった理由の多くは「コンドームの破損・脱落」
日本では選択肢がないゆえに、避妊方法の使用率も偏っている。海外ではピル・IUS/IUD・注射といった女性主体の避妊方法が半数以上を占める国がある一方で、日本は男性用コンドーム単独での避妊が圧倒的に多く、次いで膣外射精、リズム法が多い。なお、安全日と言える日はなく、射精前に出るカウパー液にも精子が含まれているため、リズム法も腟外射精も避妊法とは言えない。
現状、選択肢が少なく、男性がコンドームの着用を拒否したら避妊が難しいうえ、先述したとおり男性用コンドームだけでは避妊法として不安は残る。#なんでないのプロジェクトの調査によると、緊急避妊薬が必要になる場合の多くは、膣外射精をしていたほか、「コンドームの破損・脱落」が圧倒的に多い理由だという。つまり、避妊をしようとしていても失敗してしまうことが多いということだ。
福田さん:日本は国連加盟国の中でも低用量ピルの承認が最も遅かったんです。その際の国会でのやり取りを研究したことがあるのですが、「避妊するならコンドームで十分」という認識が強かったです。まずは、コンドームだけで十分に避妊できるという認識を改める必要があると思いました。
そのうえで「女性に主体性のある避妊方法がメジャーでないことによって、女性が脆弱な立場に置かれてしまっている」と福田さんは言及する。
日本で使える避妊方法のうち、低用量ピルは月に2,000~3,000円(※)、IUS/IUDは、海外では若年層向けの小さなものもあるものの、日本では出産経験のある女性に推奨されている。経済的に余裕のない若年層の少女・女性が気軽にアクセスできる避妊方法が男性用コンドームしかないことも、福田さんは問題視している。
※生理やPMSが酷い場合は保険適用にできるが、低用量ピルは保険適用でも1,000~2,000円である。IUSは保険適用だと1万円、適用されないと7~10万円かかる。
福田さん:男性用コンドームは正しく着用できていないと失敗しやすいものなのですが、必ずしも、日本の学校ではコンドームのつけ方まで教えてもらえるわけではなく、正確な知識を持っている子どもが多いとは言えません。
そして本来は、男性用コンドーム+ピルなど、避妊方法はダブルメソッドがベストです。また、IUS/IUDやピルは避妊効果が高いと言われていますが、性感染症予防の観点から男性用コンドームも必要です。さらに、WHOの性暴力被害者の手引きでは「コンドームをつけないこと・避妊に協力しないことも性暴力」と明記されています。
気軽にアクセスできる方法がコンドームしかないうえに、そのコンドームのつけかたでさえも平等に知る機会がないことは、国から子ども・若者に対しての暴力だと感じます。
スウェーデンでは若者向けのユースクリニックがあり、無料かつプライバシーも守られます。思春期になったり、パートナーができると親がユースクリニックに連れて行ってくれたり、学校で行く機会もあったり、性に関して十分な情報が与えられています。選択肢を増やすという意味で、制度や認可、情報提供、若者でもアクセスできるような値段設定など、複合的な支援が必要です。