農薬忌避、脱資本主義。いきすぎた「自然派」農業に挑む人たちのあきれた主張

文=山田ノジル
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Getty Imagesより

 自然派系のトンデモと農業は、相性がいいと思う。食を通じて誰もが我が身の問題となるので、声をあげやすいから? 素人でもちょこっと体験でき、自然の営みを肌で感じたような気分を味わえるから?「母なる大地!」という壮大なストーリーを展開できるから?(それを言ったら海と空も壮大な自然なのに、人の手にはあまるのであまり語られない?)。

 昨今の現場では今、どんなトンデモが生息しているのでしょうか。今回は「農業の風評を追うトンデモハンター」を自ら名乗る、渕上桂樹(@Keiju_Fuchikami)さんにお話をうかがいました。渕上さんは現在、長崎県で果実酒バーを営みながら、ラジオ番組のパーソナリティを勤めたりコラムを寄稿したり、精力的に活動する人物。野菜売り場担当や生産者としての経験もあり「地元の農家を応援したい」という気持ちから、地元のさまざまなコミュニティと交流と持つようになったといいます。

渕上桂樹さん(以下、渕上):「農業で長崎を元気に!」みたいなコミュニティがありまして、「お話会をするので来てください」と声をかけられ出向くと、農業と関係のないテーマばかりなんですよね。電磁波がどうとか、脱石油の化粧品を勉強しようとか。商品を無理に売りつけられるわけではありませんし、別に農業と関係ないことを扱ってもいいんですが、どれもこれもトンデモのオンパレードなので、結局そこか? と残念に思うばかりです。しかも本人たちは、心の底から「自分たちはいいことをしている」と信じているのが、またつらい。異を唱えると、いいことをしているのになぜケチをつけるのか? という感じです。

 私のバーでも、知り合いになった自然派ママから、店でマルチ商品の勉強会を開きたいという申し出がありました。そういうものはお断りしていると言うと「それほどマルチの要素が強いわけではないんですよ?」と。いいマルチなんてありませんし、そういう問題ではないので「私の店だから、私が嫌いな要素があるものはお断りする」とお伝えしましたが、困ったものです。

 トンデモ活動も結構ですが(よくないけど)、そういったトンデモさんたちが関わる、肝心の農業のほうは? というと相当にグダグダな状態であったそう。どうやって「長崎を元気に」するのか、謎だらけです。

渕上:すごかったのは「くるくる村」という施設を主催していたふたり組です。そこはオーガニックや無農薬をウリにしていましたが、肝心の作物はジャガイモのみ。しかも、一度も栽培に成功していませんでした。私も生産者ですから作物について多少の知識はありますが、ジャガイモって比較的栽培が容易とされているんですよ。でも、基本を守らないから作れない。それを「前の農家が農薬を使っていたから、土地の波動が低い」とか言っていましたね。そんな状況を見かねて周りの農家が「苗を植える時期が遅い」とかいろいろやさしくアドバイスするんですが、なぜか逆切れして「自分たちはお金儲けのためにやっているわけではない。お金儲けのために農業をするのはどうかと思う」と言い出します。挙句のはてに、お金儲けのために安全を犠牲にするのはもうやめよう! 的な発信まで……。まるで普通の農家が、ヤバいものを作っているかのような、物言いなんです。

 渕上さんはAGRI FACTという媒体で、その村についても書いています。「農薬の危険」を強調し、「猪と共存する」と猪対策も拒み……という件は、Twitterでよく見かける、熊の射殺を批判するようなお花畑な人たちとオーバーラップしたような感覚を覚えました。

渕上:しかもどれも、信念があってやっているというより、かなり思いつきで動いている印象です。「人間のウンコはパワーを秘めている。昔は肥溜めを使っていたのに、それをしなくなったから、人間の抵抗力が弱くなっている」とか。でも今って、人糞を農業に利用するのは法律で禁止されています。それを教えると「え、そうなんですか。でもその法律っておかしいですよね」と。じゃあ、いろいろな薬を飲んでいる人の糞尿を使うことはどう思うか? と聞いてみれば「それもそうか」とすぐ納得する(笑)。何も調べていない、考えていないのがよくわかります。さらに一度も成功していないジャガイモ栽培を有料で「ベトナムに指導しに行きたい!」とか言い出したこともあり、もうめちゃくちゃです。

 くるくる村的に、金儲けのために農業をするのはダメなんじゃなかったでしたっけ……? しかしこれだけに留まればただの「へんな村人がいました」で終わる話。ところが農業に行き詰まったため、次にとったアクションは畑や敷地内の建物をイベント会場として提供すること。いわずもがな、「トンデモの輪」がどんどん広まっていくことになります。

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