【シリーズ黒人史11】Black Lives Matterへと続くアメリカ黒人の歴史~ジュリアーニNY市長

文=堂本かおる
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 1997年8月9日。ニューヨーク市ブルックリン。ハイチ移民の黒人男性アブナー・ルイマ(当時31歳)が警察署のトイレで白人警官4人にリンチされ、重傷を負った。

 クラブでのケンカ騒ぎに駆け付けた警官によってルイマは警察署に連行された。当初、主犯の警官は連行の理由を「ルイマが自分を襲ったため」としたが、後に虚偽であったと認めている。警官はパトカーの中でルイマを殴打した後、警察署のトイレに連れ込み、折った箒の柄(え)をルイマの直腸に突っ込んだ。警官がはめていた、警察署が所有する黒い革の手袋は血まみれの状態で担当者に返還された。

 ルイマを病院に搬送した際、警官はケガの理由を「アブノーマルなホモセクシャル行為」と説明したが、怪しんだ看護師が警察の内務調査課に連絡したことから事件が発覚。ルイマは入院2カ月、3度の手術を要する重傷であった。

 警官たちは起訴され、箒を使った主犯の警官は懲役30年となり、現在も服役中だ。

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警官によるリンチ被害者のアブナー・ルイマ氏(2000年撮影)(wikipediaより)

 上記の事件から18カ月後の1999年2月4日。ニューヨーク市ブロンクス。アフリカのギニアからの移民である黒人男性アマドゥ・ディアロ(当時22歳)が4人の白人警官に射殺された。

 夜半に食事から戻って自宅アパート前にいたディアロを、連続レイプ犯を捜索中の4人の白人私服警官が呼び止めた。ディアロが咄嗟にズボンのポケットに手を伸ばしたところ、「銃を取り出そうとしたと思った」警官4人が計41発を撃ち、19発が命中してディアロは死亡。英語が流暢でなかったディアロは身分証明証の入ったサイフを取り出そうとしたのだとされている。ディアロは銃を持っておらず、犯罪歴もなかった。

 警官4人は起訴されるも、全員が無罪となった。

ブルース・スプリングスティーンがアマドゥ・ディアロ事件を取り上げた曲。

 当時、ニューヨーク市長であったルディ・ジュリアーニは、アブナー・ルイマ事件ではリンチ犯の警官たちを非難したが、アマドゥ・ディアロ事件では警察の落ち度を認めようとしなかった。

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トランプの大統領選集会で演説するルディ・ジュリアーニ(2016年)(wikipediaより)

「アメリカの市長」

 ルディ・ジュリアーニは、トランプ前大統領の個人弁護士として昨年11月の大統領選前後にメディアを盛んに賑わせた人物だ。大統領選の開票結果について「トランプは負けていない」とする訴訟をいくつも担当し、聞く者が驚く詭弁を繰り返した。

 その際に「フォーシーズンズ・ホテル」での記者会見を勘違い予約から同名の園芸店の前で行う、酔っていると思われる女性を証人として連れてくるなどの奇行が目立った。

 一連のトランプ勝利を訴える内容が「虚偽かつ誤解を招く恐れのある供述」であったとして、ジュリアーニは現在、地元ニューヨーク州と首都ワシントンD.C.での弁護士活動を一時的に差し止められている。

 このように今ではトランプ以上に奇妙な人物として知られるジュリアーニだが、1990年代にはニューヨーク市の治安を回復させた市長として名を馳せ、さらに2001年の911同時多発テロ事件では未曾有の大打撃を受けたニューヨーク市を強力なリーダーシップで率い、「アメリカの市長」と称賛された人物だ。タイム誌の「2001年パーソン・オブ・ジ・イヤー」に選ばれ、表紙を飾ることすらしている。

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ニューヨークの911同時多発テロ現場を訪れるブッシュ大統領を出迎えたジュリアーニ市長(2001年)(wikipediaより)

 ただし、ジュリアーニの治安回復策とは「ストップ&フリスク」と呼ばれる、警官から黒人市民への人種差別的手法であり、それが前述の想像を絶する警察暴力を誘発した(後述)。当時、黒人リーダーと市民はジュリアーニへの強い反発を示し、抗議デモも行い、市内は非常な緊張状態となった。いわば昨年の Black Lives Matter と同様の事態を招いたのだった。

 このようにジュリアーニは大きく称賛されると同時に、人種差別主義者として激しく非難された人物でもあった。

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