夫の「子どもをつくろう」という発言と悪夢

文=うさぎママ
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GettyImagesより

 驚くほど気の合う男性・マシューに出会い、出会って3カ月と5日でスピード結婚したうさぎママ。「子どもをつくるために結婚するわけじゃない」と言ってもらってひと安心。ところが、結婚3年目に爆弾発言が……!

<この連載について>

 特別養子縁組とは、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。

 そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、その後、親子になりました。この連載は、アンちゃんが大人になるまでの日々を感情豊かに綴った書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。

※厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html

第1章 アンに出会うまで

 ふたりだけの幸せな、たまに姑がらみでプチ不幸せな新婚生活も3年目。嫌なことから逃げるのも限界だと思い、不妊治療で名高い病院に行ったことがあります。

 結局、妊娠の可能性がとても低いことがわかり、あっさりと治療をあきらめました。このときの医師が大変に高飛車で、傷ついたことも影響しました。あのとき、もう少し強い私だったら、と思わないでもないですね(娘に出会えたからいいのだけど)。

 でも、私がマシューに伝えたのは、「すごく妊娠しにくい身体だと言われたよ。治療は大変そうだし、五つ子ちゃんを産む勇気もないし……」というあいまいな言葉でした。「そうか。それならそれで無理することないわ」と夫。

 夫のおかげで少しずつ自分を好きになっていた私でしたが、逃げぐせは消えていませんでした。真実を明らかにすることにひるむ、弱い、ずるい私でした。

 ふたたび、子どものことが話題にのぼったのは、結婚して7年目。柴犬の雑種・ノエルを飼い始めたときでした。とても性格がよくて、もちろん器量好しで、それから19年をともに過ごすことになるのですが、たかが犬といえども、大人ふたりだけの気ままな生活が一変! か弱くて100%頼ってくれる愛おしい存在は、まさに赤ちゃんそのものじゃありませんか! マシューとの結婚に加えて、この犬を育てたことも、私の成長につながったと思っています。

 さて、そんなノエルを飼い始めて2、3カ月後、夫が思いがけない爆弾発言をしました!

「うさぎは、きっといい母親になるから、子どもをつくろう」

 ええ〜っ!! どうやら、ノエルを愛おしむ私の様子に悲壮な母性愛をかぎとったようです。それまでフタをしていたものが、愛犬に向かってダダ漏れにあふれて、もうストップできない。何かを慈しみたいという願望が叶えられた状態で、私はとても満たされていました。

 それなのに、いきなりのマシューの爆弾発言。「五つ子でもなんでも、ふたりで育てよう」だって……。今なら「よく言うよ」と切り返したい。「あなたにできるの? アンのおむつを替えたのも二回だけ! しかも、おしっこのときだけなのに!」って。

 このとき、私は泣きながら真剣に夫に話しました。「ほかの人と結婚したら、あなたは普通にお父さんになれる。どうしても子どもがほしいと思ったら、そうして。私には望まないで。とうてい無理だから」と。

 マシューには、その選択は問題外のようでした。口幅ったいことを言うようですが、私は私なりに妊娠以外はがんばっていたし、私たちはとても仲のよいカップルだったと思います。

 でも、この夫のたった一度の発言以降、私はときどき悪夢に悩まされるようになりました。

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 差し向かいにあぐらをかいたマシューがいきなり切り出したのは、120%夫を信頼している私には寝耳に水の別れ話。この人だけには、親にも甘えられなかった私が、安心して寄り添える。そんな夫からの離婚の申し出の理由は……。そう、別の人のお腹に赤ちゃんが宿ったから。

 心がずたずたになり、悲鳴をあげ、砕ける氷山に押しつぶされたような心地。つらくてつらくてたまらないのに、私はとても静かに物わかりよく承諾します。立ち上がり、背を向けて、冷静にいつもの家事をこなしながらも、「どうしよう、どうしよう、どうしよう……」と同じ言葉が頭を駆けめぐります。冷え切った青い血液が全身をめぐっているような、うそ寒さ。「どうしよう、どうしよう、夫なしでは、私の心は壊れてしまうのに」。

 でも最強のカード、赤ちゃんの存在が私にすべてをあきらめさせます。夫に涙さえ見せないことでプライドを守りながら。

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 目が覚めると、いつも泣いていました。涙で枕がぐっしょりでした。

「ああ、夢だったんだ。よかった……」

 思ってもみなかった、夫の子育てを望む言葉を聞いた日から、同じ夢を何度みたことでしょう。小さなアンを胸に抱きしめるまで、この夢は忘れた頃にやってきては、私を苦しめました。悪夢の苦しさを思い出すと、今でもじわりと涙がにじんできます。

 あ、夫には、起きてから散々文句を言いました。「ひどいじゃない! ほかの人に赤ちゃんができたって! それで別れてなんて言って!」。私の夢の中での言動を責められて驚く夫。それでも苦しかったことを訴えたら、慰めてくれました。悪夢による被害は、夫のほうが大きかったかもしれません。

連載「産めないから、もらっちゃった!」一覧ページ

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夫の「子どもをつくろう」という発言と悪夢の画像2 ウェジー 2021.07.05

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