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新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、テレワークが推進されるようになり約1年が経過した。当初は満員電車に揺られることがなくなるうえ、面倒な会社づきあいも減るなど、ポジティブな面ばかりが取り沙汰された。しかし、徐々にテレワークの弊害によってビジネスパーソンが苦しめられている現状が浮き彫りになってきた。
内閣府が2021年6月に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」によると、テレワークのデメリットとして、「社内での気軽な相談・報告が困難」が最多。次いで、「取引先等とのやりとりが困難」、「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」など、コミュニケーションに対する困難を挙げる人が多かった。
とりわけ、マネージメント層は多くの問題を抱えている。コロナ禍のリモートワークにおいて、社内のコミュニケーションに不満を感じている上司(70.0%)は部下(57.0%)よりも高い(株式会社スノーピークビジネスソリューションズの調査)。
テレワークが普及すればするほど、コミュニケーションの量だけでなく質を確保することが難しくなり、頭を抱えている。どうすればこの問題を解決できるのか。人事・組織コンサルタントの相原孝夫氏に話を聞いた。

相原孝夫
人事・組織コンサルタント。株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長。人材の評価、選抜、育成、組織開発に関わるコンサルティングや支援などを行っている。『職場の「感情」論』『ハイパフォーマー 彼らの法則』(ともに日本経済新聞出版)、『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』(幻冬舎)など著書多数。
職場内に親友を作れ
――職場内のコミュニケーションは“無駄話”と捉えられることが珍しくありません。職場内のコミュニケーションのメリットはなんですか?
主に2つあります。1つ目は新しいアイデアが生まれやすいということです。
日本企業はアイデア出しを目的とした会議を開いても、話が広がらず最初から収束に向かおうとする傾向があります。それでは既存の枠組みから外れたアイデアは出てきません。むしろ制約を求めない雑談のようなコミュニケーション…つまり、仕事とは関係ない話題や馬鹿馬鹿しい話のほうが真新しいアイデアにはつながりやすいのです。
2つ目は、企業に対する従業員の愛着心や思い入れを表す“エンゲージメント”が高められるということです。
従業員のエンゲージメントが高い職場は、生産性が高いうえ、従業員の幸福度も高く、離職率も低くなります。何気ないコミュニケーションが活発な職場の従業員は、“職場の仲間から、ひいては会社から気にかけてもらっている”という気持ちになりやすく、エンゲージメントが高くなる傾向にあります。
――エンゲージメントを高めるために、どのようなコミュニケーションが必要ですか?
ここ最近、エンゲージメントの重要性を意識している経営者は増えており、社内で大きな交流イベントを企画する企業は少なくありません。しかし、それは得策ではないです。エンゲージメントを高めるためには、小さなアクションでも、とにかくその“頻度”を意識することが重要です。
心理学者・エド・ディーナーの研究によると、些細な良いことが複数回起きるほうが、大きな良いことが1回起きるよりも、幸福度が高いそうです。同僚と些細な話をして笑い合ったり、困っている同僚を見つけたら親切にしたりなど、頻度を意識して接することでエンゲージメントは高まりやすくなります。
とは言え、誰にでも性格の不一致ということはあります。従業員同士がまんべんなくコミュニケーションを取れる、みんな仲良しな職場を目指す必要はありません。
大切なのは “職場での親友”を1~2人つくることです。なんでも言い合える職場の親友がいる人はそうでない人と比較すると、心身ともに健康的で、意欲的に仕事に取り組むことがわかっています。上司はコミュニケーションの頻度を意識しつつも、部下に職場の親友ができるようにサポートすることが大切です。
職場難民に要注意
――最近の若者はハラスメントに対する意識が高く、話しかけづらいと考える年長者も多いです。上司はどのようなことに注意して部下とコミュニケーションを取るべきですか?
実はアンケートを取ると、運動会や社員旅行といった社内行事に対して、若者ほど前向きな傾向があります。
管理職など中高年社員の方々が、若者に苦手意識や恐怖心を持ってしまう傾向もみられますが、臆せず話しかけてみてはいかがでしょうか。
もちろん、いきなりプライベートな話や、興味のなさそうな話題を振るのは厳禁です。徐々に時間をかけて信頼関係を築いていく必要があります。 “部下だから”とか“職場だから”と壁をつくらずに、相手が不快にならない一般的なコミュニケーションを取れば問題ありません。
職場内のコミュニケーションの注意点としては、企業に不満をもつ孤立した従業員“職場難民”に配慮が必要ということがあります。
職場難民がいる職場は、従業員間の信頼関係に亀裂を入り、活発な雰囲気が失われるリスクがあります。さらには、「自分だけ頑張っているのが馬鹿馬鹿しい」といったネガティブな気持ちが表出し、負の連鎖に繋がることもしばしばです。
職場難民が生まれる背景には、上司とのコミュニケーション不足により、不公平感が強く、承認欲求が満たされないことが影響しています。上司は職場難民が出ないように、注意深く職場内の状況に目を配るようにしましょう。
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