娘、虫の「完全変態」を理解できるか⁉︎ カイコ飼育レポート・前編

文=ムシモアゼルギリコ
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今回は「はらぺこ」な虫の話です。写真は美術館の期間限定カフェで食べた、エリック・カール『はらぺこあおむし』モチーフのケーキ(もちろん虫は入ってない=非昆虫食)

 絵本『はらぺこあおむし』(偕成社)を愛読していたにも関わらず、イモムシからサナギを経て、蝶になるという虫の「完全変態」をイマイチ理解していない様子の6歳娘。そこで「百聞は一見にしかず」を期待して、カイコの飼育をしてみると……? 前後編+番外編の全3回でお届けします。

新生児の世話を思い出させるカイコの幼虫

 「世話しないと確実に死ぬ」という緊張感。昼夜問わずの栄養摂取。栄養源は1種限定。日々パワフルに成長する(だから体重が増えないと不安になる)。排泄物の世話必須。伝統的に女性がメインで世話。モノ言わぬ相手に話かけたり歌ったりする(カイコに歌を聴かせる文化が一部であった)。

 カイコの世話は、新生児の世話に似ている。

 古い時代の養蚕(※1)現場では女性が背中にカイコの卵を背負い、人肌を利用して卵から幼虫を孵(かえ)す技術もあったといいます。1日中見て触って嗅いで、体の感覚をフルにいかす身体知が使われるような部分も、新生児のお世話を思い出させるじゃありませんか。

 なぜこんなことを言い出したかといえば、最近うん年ぶりにカイコを育て、そんな共通点を実感したのです。仕事で半日外出しようものなら「エサ、足りてるかな」とカイコの心配が頭をよぎる始末。私がこれまで飼育したのは1回に20~30頭がせいぜいですが、何百頭も飼育していたであろう昔の養蚕農家は、この比じゃなかったでしょう。

 カイコとは、蛾の仲間である昆虫です。幼虫が作る繭から絹(シルク)をとるため、野生のクワコを原種に品種改良した、昆虫唯一の家畜。古代にシルクロードを経て、カイコが作り出す絹と一緒に中国から西洋へさまざまな文化が伝わっていったのは誰もが知っている歴史でしょう。養蚕は世界中で行われていますが、日本で盛んだったのは明治時代。養蚕の発祥地である中国を抜いて絹の輸出量が世界一となるほど、国をあげての一大産業でした。外貨を稼ぎまくり日本の近代化に貢献した、それはそれは偉い虫なのです。現在は化学繊維の台頭によって養蚕は廃れてしまいましたが、カイコ自体は医療の研究など、さまざまな分野で活躍し続けています。

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こちらがカイコのサナギと繭。

 日本の伝統的な昆虫食では、サナギの佃煮が定番。絹をとったあとの副産物として残ったサナギが、保存食として加工されていました。しかし、乾燥させて絹をとった後の「出がらし」状態のサナギは、ぶっちゃけおいしいとは言い難い味わいです。新鮮なものがおいしいのは何でもそうですが、やはり繭から切り出したてが最高。私はその味わいを目的に、過去にも何度かカイコを飼育しました。

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