
Getty Imagesより
コロナ禍で広がる日米経済ギャップ
昨年春に新型コロナの感染拡大で、同じように経済的にも人的にも大きな損失を被った日本と米国。いずれも昨年4-6月のGDPはリーマン危機をも上回るような大幅なマイナス成長を記録しました。ところが、その後の結果は日米で雲泥の差が見られます。
コロナの感染者数で見れば米国の急増に対して、日本は比較的少ない水準を維持しましたが、それでも米国は感染の急増の後、ワクチン接種の進展もあって、感染者数は急速に減少し、感染予防のための規制の多くが解除されました。反面、日本ではいつまでも感染の収束が見えず、五輪が開催される東京で4回目の緊急事態宣言が発令されるなど、むしろ第5波が押し寄せています。
この感染者の動きの明暗以上に、日米間の経済成果の格差が大きくなっています。日本は昨年夏場から秋にかけていったん景気回復を見せたものの、すぐに勢いがなくなり、この1-3月はまたマイナス成長に転落し、続く4-6月も低迷が続いています。感染の抑制ができないまま、経済もダラダラ景気が続いています。
これに対して、米国は昨年春に大きく落ち込んだ後は急回復を見せ、日欧が年明けもマイナス成長に苦しむのをよそに、米国では1-3月に年率6.4%、4-6月もアトランタ連銀の短期予想「GDPナウ」では年率8%前後の高成長が見込まれています。その中で米国ではインフレ率も急上昇し、一部には景気の過熱懸念まで出ています。
今年に入ってからの世界経済は、まさに米国経済の独り勝ち状態で、IMF(国際通貨基金)などの国際機関は今年の米国経済を7%成長と予想しています。その中で世界の投資マネーが米国に流入しています。米国株は最高値を更新する勢いに対して、日本では日経平均が今年2月には一旦3万円を回復したものの、その後はまたずるずる低下し、一時は2万8千円を割るほど低迷を続けています。
コロナ支援策、実弾型と見栄え型
この日米間の経済成果の大きな違いは、1つにコロナ感染の抑止の成否にあります。米国はワクチン接種のスピードをあげたことで、感染者数拡大に歯止めをかけ、諸々の規制を解除できるようになりました。一方の日本は、ワクチン接種が遅れていて未だに感染抑止ができず、飲食店中心に規制を続けざるを得ないうえ、個人にも行動自粛を求める状況が続いています。
しかし、経済格差をもたらした、より大きな要因は、経済支援策の違いにあります。一言でいえば、米国が実弾で経済を刺激したのに対し、日本は見栄えだけ大規模で、実は中身のない経済政策にとどまったことです。
まず金融政策では、米国が昨年3月に、政策金利をそれまでの1.5~1.75%のレンジから一気に0~0.25%のレンジに引き下げ、さらに国債と住宅ローン担保証券(MBS)を合わせて月に1200億ドル(約13兆円)買い入れるようにし、必要なら無制限の買い入れも辞さない姿勢を見せました。さらに企業の社債も3月時点でBBB格付けを持っていれば、その後格下げされて投資不適格となっても買い入れるようにしました。
この結果、コロナ前には約4兆ドルだった連邦準備制度理事会(FRB)の資産規模は、昨年末に7兆ドルを超え、今年中に8兆ドルに達すると見られています。このFRBによる大規模な追加緩和が、米国株の急反発、最高値更新に貢献しました。
これに対して、日本ではすでにコロナ前に政策金利はゼロからマイナスになっていて追加利下げの余地がなく、長期金利もほぼゼロだったので、利下げ策はとれませんでした。一方の資産買い入れによる資金供給も、すでに副作用が指摘される中で、国債の買い入れ規模も、表向きは「年間80兆円を目途に」としながら、実際にはコロナ後も年間20兆円台にとどまり、追加緩和はありませんでした。
財政もしかりです。米国ではトランプ前大統領がコロナ支援策として3兆ドルの対策をまとめ、個人に一人当たり1200ドルを給付し、失業者には一時週600ドルの上乗せをするなど、手厚い補助を行いました。この実弾による支援で、連邦政府の財政赤字はGDPの2割に迫るほど急増しましたが、その資金を利用して個人消費が急増、景気回復に大きく寄与しました。
その後バイデン政権に引き継がれた後も、1.9兆ドルのコロナ支援で個人に600ドル、次いで1400ドルが追加支給され、さらにインフラ投資、家庭支援の経済対策が打ち出されました。個人の貯蓄率は一時20%を超え、消費を刺激しました。一部にはこれをやりすぎと評する向きもあり、実際インフレ率が急上昇して長期金利が反転上昇しました。
一方の日本では、安倍政権時に「事業規模110兆円」の対策が2回打ち出され、その後菅政権になって第3次補正予算が組まれ、見た目は300兆円以上の経済対策が打ち出されました。ところが景気は一向に良くなりません。それにはからくりがありました。
財政面からの需要追加は、見た目とは大きく異なり、実際に支払われた財政資金ははるかに小規模だったことです。日銀の「資金循環勘定」によると、政府の財政赤字に相当する「不足額」は、2019年度の13兆円から20年度には53兆円に拡大しましたが、その差は40兆円です。300兆円以上の事業規模は見せかけ上のもので、「実弾」の追加は40兆円しかなく、米国と1桁違います。
そしてこれは民間部門が消費や投資を抑制した額とほぼ見合ったもので、差し引きでの需要追加効果はほぼゼロでした。これが米国と大きく異なる点で、米国では政府から個人に所得が移転し、これをもらった個人が消費を拡大して差し引き需要増になりましたが、日本では需要追加になりませんでした。
しかも、財政支出の拡大分の中から、電通やパソナなど、政府と近しい企業に巨額の「外部委託費」として払われ、個人や企業に支払われる資金はその分少なくなります。結局、日本のコロナ支援のための経済政策は、見掛け倒しで中身が乏しく、しかもその多くが企業支援で、個人には10万円の特別給付金だけでした。企業支援の助成金も遅れたばかりか、不正利用などに漏れた面もあり、景気効果は上がりませんでした。
今からでも財政支援が必要
感染の防止が進まず、飲食店や一部の業種への負担が長期化しています。当局の要請にまじめに応えていては潰れてしまうという企業の中には、あえて要請を無視して営業するところも増えています。昨年コロナ支援で借入を起こした企業も、この間返済に回すほどの売り上げがなく、追加借り入れもできずに窮地に追い込まれるところも出ています。
これらの企業を救済するには、融資ではなく、現実の営業自粛で収入が減る分の財政支援ですが、今年になってまだ協力金を払ってもらえない企業も少なくありません。持ちこたえられずに廃業倒産に追い込まれる企業を増やさないためにも、営業再開できるルールを作るか、自粛継続を求めるなら、その分財政面からの保証が必要です。
景気面では昨年度の個人消費が30兆円以上落ち込んだことによる影響が大きくなっています。内閣府は今年1-3月の需給ギャップが4.4%(25兆円の需要不足)と推計しています。個人消費の回復が不可欠で、そのための個人向け減税、給付金などの財政手当が必要と考えられます。ワクチンだけに頼らず、財政からの需要追加が急がれます。
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