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「若いカップルなら、新婚なら、セックスするのが普通」——そんな“なんとなくの空気”が社会には漂っています。ですが、よくよく考えれば、恋人同士・婚姻関係にあるからといって、セックスが義務なわけでもなく、セックスしない=不仲というわけでもないですよね。
とはいえ、誰が決めたのかわからない風潮や、周囲からの圧力に悩んでいる人はいらっしゃるかもしれません。
7月15日に発売となった『結婚してから同じ布団で寝てません』(オーバーラップ)は、著者の小池ぬーみんさんが、夫とセックスレスでも楽しく生活する様子や、妊活のためにセックスに夫婦で向き合う様子が描かれているコミックエッセイです。小池さんに制作の背景や、夫婦で大切にしているコミュニケーションなどについて話を聞きました。

小池ぬーみん
漫画家兼主婦。4歳年上の夫と3年の同棲期間を経て、2年前に結婚。 最近は韓国ドラマにハマっている。好きな焼肉は豚ホルモン。
セックスレスでも仲良く楽しく暮らしている

『結婚してから同じ布団で寝てません』より

『結婚してから同じ布団で寝てません』より
——「セックスレス」の漫画を描こうと思ったきっかけをお伺いします。
コミックエッセイを描く際に、自分が一番悩んでいることについて描こうと思っていて、それがセックスレスでした。
世に出ているセックスレスについて描いた漫画やエッセイは、寂しさに焦点を置いたものが多く、私たちのように、セックスレスでも楽しんで生活していることや、仲良しだからこそセックスが難しいことを描いている作品が見つからず、同じような悩みを抱えている人がいるのではないかと思いました。もちろん、自身の性体験を描くことに抵抗がなかったわけではないのですが、描くことで共感してもらえるかもしれないという期待感の方が強かったです。
——小池さんご夫婦も、最初は「夫婦ならばセックスをしなければならない」と思っていたのでしょうか。
「しなければ」というより、恋人や夫婦なら「普通にするもの」という感覚でした。結婚当初はラブラブな雰囲気もあり、悩んでいなかったのですが、私たちは元々恋人というより友達感覚の強いカップルだったこともあり、寝室を別にするようになってからは、徐々にそういった雰囲気がなくなったんです。
——セックスはコミュニケーションの一環という考え方もありますが、レスになったことで二人の関係性に変化はありましたか。
最初は私もレスになったことを気にしていて、色々なことをネガティブに考えがちでした。例えば、日常のちょっとしたケンカをしたときに「セックスレスだから上手くいかないんだ」「みんなにあるものが自分たちにはないからダメなんだ」など、セックスがないために解決しないのでは、という思い込みがありました。
しかしその後、何度も二人で話し合って、セックスレスでも自分たちが楽しく生活できていることを確認して、視野が広くなりました。
——セックスレスでも楽しく生活できている一方で、作中でも描いているようにラブラブな雰囲気にも憧れはあるのでしょうか。
そうですね、キラキラしているように見えます。でも私たちがそうだったように、カップルが抱えている悩みは、傍から見たらわからないこともあります。周囲からは良いところだけ見えてることもあると思うので、ラブラブなカップルに比べて自分たちが劣ってるとは思わないです。私たち夫婦にも良いところはありますし、私は夫と結婚して良かったと思っています。
セックスレスでも楽しい。でも子どもが欲しい。

『結婚してから同じ布団で寝てません』より
——作中では、小池さんにはあまり性欲がない一方、ぽちおさん(夫)には性欲がある描写もありますよね。最初にぽちおさんに「身体の相性が悪い」「セックスを負担に感じている」と伝えるときは、勇気が必要でしたか。
はい、そう伝えることで関係が悪くなるのではないかという葛藤がありました。でも、夫と長く関係を続けたいと思ったときに、「わだかまりを抱え続けることの方が問題があるのでは」と思い、勇気を出して伝えました。
——伝えたときのぽちおさんの反応はいかがでしたか。
夫も、私のことを大切だと思ってはいるものの、セックスでのコミュニケーションが上手くいかないことに悩んでいたようで、「言ってくれてありがとう」と言われました。その一言を聞いて、打ち明けてよかったと思いましたね。

『結婚してから同じ布団で寝てません』より
——「セックスをしなくても仲良しだから問題ない」という思いだったものの、小池さんが「子どもがほしい」と思うことを機に、再びセックスに向き合うことになりますが、その過程でもお二人が話し合いを大切にしている点が印象的でした。
私たちはセックスレスなので、妊活となるとまずは話し合いから始める必要がありました。私は子どもが欲しいと強く思うようになったのですが、夫は「自然にできなかったら、夫婦二人の生活でもいい」という考えだったので、セックスだけでなく子作りに対する温度差にも直面しました。漫画ではその話し合いのプロセスを描いているので、是非、読んでほしいです。
——話し合いができないことに悩む夫婦やカップルも多いですが、日頃、話し合いで大切にしていることはありますか。
家の中で話し合いをすると、誰にも見られてないゆえにお互い感情的になりやすいので、話し合いたいことがあるときにはドライブや外食に誘い、外で話し合うようにしています。以前は家の中で激しい言い争いをしていたこともあったのですが、お互い疲れてしまって、外で話し合う方法を見つけ出しました。
夫婦とはいえども他人で、違う環境で育っていますし、時には自分と考えが正反対なこともあります。その前提を持って、相手の考えを尊重したり、自分がイライラしていて相手に当たってしまいそうなときは、距離をとるなどもしています。
また、以前は二人ともストレスが溜まるような働き方をしていて、外でのストレスを家に持ち込んでいました。働き方を変えたことでお互いストレスを抱えにくくなったのも、冷静に話し合いができるようになった理由の一つです。
——最後に、小池さんが『結婚してから同じ布団で寝てません』を通じて、読者に伝えたいことをお伺いします。
共感できる部分もできない部分もあるとは思いますが、それでも「読者さんの気持ちが少しでも軽くなったら」という思いを込めて描きました。私たちはどこにでもいるような夫婦で、一見すると何事もなく上手くいっているように見えるかもしれませんが、そんな夫婦でも悩みに向き合っていることが伝わったらと思います。
手に取ってくれるのは女性が多いかもしれませんが、男性にも読んでほしいです。話し合いを通じて解決するプロセスは、セックスの有無にかかわらず何かしら悩んでいるカップルにも、参考にしていただけたらといいなと思っています。